アイスクリームシンドローム

Chiot

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act3:堕天使なりの愛し方

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    これは夢だろうか。
    シャナイアの部屋の扉を開けたヴェルディアナは、目の前に広がっている光景に目を丸くしていた。

「あんた、ヴェルディアナだっけ?俺はエヴァルトっての。よろしく」

    エヴァルトと名乗った人物は、愉快そうにヴェルディアナを見ている。黒く染まった片翼を背中に生やしているエヴァルトは、見た目からも明らかだが、人間とは異なる生き物だ。

「ヴェル、しっかりしろ」

    後ろに控えていたルキアがヴェルディアナの背中を軽く叩く。
    未だに状況の分かっていないヴェルディアナは、エヴァルトとルキアを交互に見合い、口をパクパクさせている。

「ルキア、こいつ面白いな。鯉みたいで」

「……お前、本当に天使なのかよ」

「………え!?」

    ルキアの言葉にヴェルディアナが短く声を上げる。初対面で失礼だが、エヴァルトはお世辞にも天使には見えない。どちらかというと、それらと対立する、邪悪な存在にしか見えない。

「元、だけどね。にしても、酷いなぁ……、その反応」

「思ってないくせに」

「あ、あの……元というのは……?」

    恐る恐る、ヴェルディアナが尋ねる。聞いてはいけないような気がしたのだが、エヴァルトはまるで楽しい話でもするかのように話し始めた。

「いやね、俺、元々は結構位の高い天使だったんだよ。けど、ちょっとあって、堕天しちゃってさ」

「堕天しちゃってって………、そんなあっさり……」

「事実だからね」

    飄々としているエヴァルトを見れば、見る程、ヴェルディアナはエヴァルトが堕天した理由が分かるような気がした。

「ま、そのちょっとあってが問題なんだがな」

    ルキアが呆れたようなため息と共にボソッと呟いた。

「それよりさ、ヴェルディアナ。君、ドジで仕事出来ないって聞いてたけど、美人さんじゃない」

「うっ………」

    エヴァルトの言葉がヴェルディアナの胸に突き刺さる。にこやかな笑みを浮かべているエヴァルトを見れば、悪意がない事は明らかであるが、痛い所を突かれたヴェルディアナは既に涙目だ。

「褒めてるんだから、もっと喜んでよ」

「喜べるか」

    ルキアがエヴァルトの後頭部にチョップをお見舞いする。

「いや~、この屋敷に来て本当によかったなぁ。美人揃いだし」

「は、はぁ………」

    確かにこの屋敷に仕えている女性達は、エマニュエルを筆頭に美人揃いである。エヴァルトの隣にいるルキアもそうだ。
    ヴェルディアナがこの街に来て、初めてルキアと会った時、あまりの美しさと壮絶なる絶望感から、ルキアが天国から来た天使に見えたぐらいだ。

「ルキアは俺よりも天使っぽいよな。見た目が」

「俺が天使ってガラかよ」

    ハッと馬鹿にしたような笑いにエヴァルトが「確かに」と呟くと、ルキアの回し蹴りがエヴァルトにクリンヒットした。その華麗な蹴りについついルキアが錬金術師であるという事を忘れてしまいそうになる。

「私の部屋で何騒いでるの……?」

    不意に声がして、3人が一斉に声のした方に目をやる。すると、そこにはこの部屋の主である、シャナイアがベッドからこちらに目を向けていた。

「エヴァルト、また勝手に出てきて」

「ごめんごめん。喚ばれないと退屈でさ」

    反省の色が見えないエヴァルトにシャナイアは深いため息を吐く。
    天界から追い出されたエヴァルトは現在、シャナイアと契約を結び、使い魔として、この屋敷に住んでいるらしい。
    ルキアから大まかな概要を説明されてはいたが、実際に目にすると、まるで夢みたいな絵面である。

「ま、俺がいつ出てこようが君には関係ないけどね」

    先程とは打って変わって、急にトゲトゲしい一言を放ったエヴァルトにシャナイアとヴェルディアナが目を丸くする。

「俺は形上、君に仕えてる事になってるけど、別に俺、仕える気とかこれっぽっちもないんだよ」

「エヴァルトさん……?」

    突然の豹変ぶりについていけないヴェルディアナがじーっとエヴァルトを見る。

「また始まった……」

    面倒臭いと言わんばかりにわしわしと髪をかきながら、ルキアが呟く。

「始まったって?」

「あいつの病気」

    ルキアはそう言うと、シャナイアに対し、トゲトゲしい言葉を吐き続けているエヴァルトに目を向けた。

「エヴァルト……」

「大体、何で俺な訳?使い魔なら、誰でもよかったんでしょ?」

    一方的にシャナイアを捲し立てるエヴァルト。傍から見れば、完全なる弱い者イジメだ。

「あいつの病気は、何かが上手くいくと無性に壊したくなる、何でも壊したい病っていう、超面倒臭ぇ中二病だ」

「……は?」

    まさかの回答にヴェルディアナは間抜けな声しか出ない。そもそも、天使が中二病などという、人間特有の病、あるようでないような病気にかかってしまうものなのかが疑問である。しかし、相手はあの堕天したエヴァルトだ。絶望しきって、イタい風になってしまう事もありえるかも知れない。

「……可哀想な子だったんですね、エヴァルトくん」

「何、勝手に涙目になってるの?面倒臭いなぁ」

「お前の方が万倍面倒臭ぇよ」

    エヴァルトの言葉攻めに毎日毎日、心を痛めているシャナイアを慰めながら、ルキアが吐き捨てるように言った。

「エヴァルトなんか、嫌い……。早く契約解除したい………」

    ルキアにしがみついているシャナイアが言うと、エヴァルトは一瞬キョトンとなったが、やがて満足気に笑みを浮かべた。

「………」

    そんなエヴァルトに流石のヴェルディアナも冷たい視線を送る。何故、こんな性悪が一時でも天使をしていたのか。神様も失敗をするのだなと親近感さえ湧いてくる。

「ハハハ!!そうだよ、そうやって俺の事なんか嫌いになればいい。君に嫌われたって、俺は全然………」

「黙れよ、ドM野郎が」

    ドスの効いた、背中が殺気でぞわりとするような声にルキア、シャナイア、エヴァルトが声の主に目を向ける。視線の先には、今までに見た事のない形相でエヴァルトを睨み付けているヴェルディアナがいた。

「ヴェ……ヴェル?」

「……ハッ!す、すいません!!つい……」

「ついって……。何?ヴェルって、元ヤンか何か?」

「いつものヴェルディアナさんじゃなかったよね。雰囲気が」

    ヒソヒソと話し始めた一同にヴェルディアナは「今のは忘れて下さい!!」と叫んだ。
    その後、シャナイアをヴェルディアナに任せたルキアの手により、末期の中二病患者であるエヴァルトはちゃんとした処置という名のお仕置きを受けたという。
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