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第19回『おとぎ話 明日 色仕掛け』

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YouTubeで行った
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第19回『おとぎ話 明日 色仕掛け』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約時間分でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=JoP4NYV4ano

↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/

~・~・~・~・~

兄弟には絵本作家になるという夢があった。
二人は子どもが大好きで、学生時代からボランティアの部活動として幼稚園や保育園に行っては園児たちと遊んだりしていた。
遊びの中でも絵本はどこへ行っても子どもたちに大人気だった。
だから兄弟が自分たちでも絵本を作って子どもたちを笑顔にしたいと考えるのはごく自然なことだった。

兄は絵が得意で、彼が画用紙と絵具を持って現れると子どもたちからは車を描いてとかお城を描いてとねだられるほどだった。
弟は工作が得意で、彼がはさみとノリを使えば段ボール箱も子どもたちにとっては立派なおもちゃになるほどだった。
だから絵本を作る際、兄が絵を描き弟が絵本に仕掛けを作るという分担になった。
しかしいざ机に座ると二人は困ってしまった。
「弟よ、どんな話にする? なんでも言ってくれ。俺が絵にするから。」
「え? そんなの思いつかないよ。 それより兄が話を考えてよ。俺が仕掛けを作るから。」
兄弟のうちどちらも話を作れなかったのだ。
夜通しこんな話はどうだろう、あんな話はどうだろうとアイディアを出し合ってみたが、ピンとくるものは一つもなかった。
朝日が部屋に差し込むと、二人は真っ白な紙を前にして途方に暮れていた。
「うーん、普段から小説とか映画とか見てればちょっとはアイディアが出たのかな。」
「俺たち今までずっと子どもたちと遊んできただけだからね。」
「仕方ない。話はから持ってこよう。大丈夫。絵や仕掛けで子どもたちをあっと言わせればいい。」
「そうだね。それじゃあ話は王道の桃太郎でいこう。」
そうと決まれば二人は机にかじりついて絵本作りを始めた。

初めての絵本作りは苦労続きで、1週間経ち2週間経ち1ヵ月過ぎてとうとう絵本が完成した。
長年子どもたちと遊んできた兄弟には、この絵本は子だもたちを笑顔にさせることができるという確信があった。
兄の手による絵は美しくかつ暖かい印象を与えた。
大きな桃はみずみずしく、おじいさんとおばあさんの表情はとても優しく、対照的に鬼は恐ろしくもどこかユーモラスだった。
弟が作った仕掛けも子どもたちの目をくぎ付けにすること間違いなしのものばかりだった。
ページをめくれば川を流れる桃は飛び出し、鬼ヶ島に向かう桃太郎の船はまるで波に揺れているかのように動いた。
そしてクライマックスでは鬼が降参すると、赤い体は青くなってしまうのだった。
この出来には兄も大変満足した。
「お前は本当に器用だな。これなら子どもたちも喜んでくれること間違いなしだ。」
「きっと大盛り上がりだよ。飛び出す仕掛けに、えーと後ろから紙をスライドさせて色が変わる仕掛け……これはなんて言ったらいいんだろ。」
「色の仕掛けだからでいいだろう。」
「そうだね。じゃあさっそく幼稚園で子どもたちに見せてあげよう。」
「ああ。もっともまずは園長先生に許可を取ってからな。」
「許可だなんて、説明したら一発でオーケーしてくれるさ。みずみずしい桃が飛び出したりがすごい絵本を持ってきましたって言えば。」
次の日二人は幼稚園から追い返された。
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