上 下
22 / 174

第22回『大洪水 焼け野原 効果』

しおりを挟む
YouTubeで行った
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第22回『大洪水 焼け野原 効果』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約44分でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=Qi3PtIt_j3M

↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/

~・~・~・~・~

私の娘は小さな頃から病弱だった。
食は細く運動はあまり得意ではなかった。
そのせいか集中力もあまりなく、小学校に入学しても勉強にあまり熱心ではなかった。
父としてやれることはなんだろうかとずっと考えていた。
無論叱ることではないし、勉強や運動を無理にやらせてもきっと逆だろう。
私はもっと明るく楽しいやり方で娘に元気になってほしかった。
そう、病は気からというではないか。
だが病を気で直すのは楽ではない。
ならば気で元気を増やしてあげれば、病気は相対的に減るではないか。
では一体どうすれば元気を増やせるのか。
その方法は娘がしているテレビゲームを見たときにひらめいた。

「めぐちゃん。めぐちゃんがやってるゲームで唱えると仲間の攻撃力が倍になる魔法あったよね? あれ、お父さんもできるんだよ。」
ハンバーグをフォークで小さく刻んで一口ずつ食べていた娘が笑った。
「嘘だー。そんなのできるわけないじゃん。」
「うん。そうだね。ごめん、お父さん嘘ついた。だからさ、魔法を唱えるごっこ遊びをしようよ。お父さんが攻撃力が倍になる魔法を唱えるんだ。そうするとめぐちゃんは攻撃力が倍になったつもりになるというのはどう?」
「攻撃力が倍になるって?」
娘は口の端からぽろぽろとハンバーグをこぼした。
普段の生活では攻撃などという物騒なことはしないので当然の疑問だ。
「例えば今唱えたらめぐちゃんはご飯をもりもり食べるんだ。おいしいおいしいって。お着替えをしているときに唱えたらテレビとか見てないでテキパキと着替えるんだ。」
娘はよくわかっていないみたいだ。
だがいやがってないみたいなので、私は間髪入れず椅子から立ち上がり拳を握って構えた。
「んんん~~~~~。破ぁっ、バイバイテー!!!!!」
バイバイテというのはゲームの中の魔法の名前であって決して私のネーミングセンスではない。
だが、両足を肩幅に広げ両手をパーにして前に出したポーズは私の全くの創作だ。
そのポーズが面白かったのか娘はキャハハと笑った。
良かった笑ってくれた、……て違う、笑ってもらうのが狙いではない。
私は娘が笑ってるこの機を逃してなるものかと、娘をまるでボクシングのセコンドのようにせかした。
「ほらめぐちゃん、今バイバイテがかかってるよ! ごはんもりもり食べられるよ!」
すると娘はこの遊びが楽しいのか、笑っていた口でどんどんご飯をほおばった。
この日、娘は夕食を残さず食べてくれた。
どうやらこの作戦は成功のようである。

それからというものの私は何かあるたびに娘にバイバイテをかけた。
無論あのポーズと一緒にだ。
そのたびに娘はノリノリで付き合ってくれ、ご飯をたくさん食べてくれるだけではなく朝唱えればテキパキと着替えたり、勉強のときに唱えれば宿題もがんばってやった。
おかげで娘は次第に元気になっていき、勉強や運動にも積極性が生まれてきた。

ある日会社から帰宅すると娘が駆け寄ってきた。
「ねえパパ、魔法かけて!」
帰ってきたばかりで疲れてるのになと思いつつ、居間に行き背広をハンガーにかけた後、破ぁっ!
すると娘は手に持った本をパラパラとめくり出した。
「パパ、なぞなぞね。上は、下は。これな~んだ?」
倍になる魔法の、なぞなぞにまで及ぶのかよ。
私はすごい魔法を開発してしまったようである。
しおりを挟む

処理中です...