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第23回『先見の明 進捗を生む 休業』
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ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第23回『先見の明 進捗を生む 休業』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約1時間27分でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=lFZ2-U-XROU
↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/
~・~・~・~・~
おじさんに会いに行くのは久しぶりだった。
最後に会ったのは僕が小学校のときだから、もう10年くらいたつことになる。
正直に言うと、子どもの頃はおじさんのことが苦手だった。
いやな人だったというわけではなく、親戚らしく僕のこともちゃんとかわいがってくれていた。
だがおじさんの、何が面白いのかわからないときでも歯を全部見せてまるで世界を飲み込むような笑いが子ども心に得体のしれないものに映り僕を萎縮させた。
両親や他の親戚からも浮いていたおじさんに会いに行くことになったのは理由がある。
僕は大学生になり車の免許を取った。
しばらくは家の車を運転して友たちと遊びに行ったりしていたのだが、どこから噂を聞きつけたのか自分の車を譲ってあげてもいいという連絡がおじさんから入った。
親戚の集まりでもあまりきれいな恰好をしてこないおじさんが譲るというのだから10メートルも走ることのできないオンボロの車なんじゃないかという予感がして断ろうと思ったが、やはり大学生にとって自分の車は魅力なのでとりあえず見に行くことにした。
嫌ならきっぱり断ればいいと考えた。
電車を乗り継ぎ駅からバスに乗り10分ほど歩くとおじさんの家が見えてきた。
想像していたよりも広かったのはここが都心からも駅からも離れているからだろう。
「ヒロくん、よく来たな。」
子どものころに見たままのあの大きな笑顔でおじさんが迎えてくれた。
来てしまったことを少し後悔してしまった僕は挨拶もそこそこに車の話を切り出した。
するとおじさんはそんなに車が楽しみかと、またもや大笑いをしたので僕は愛想笑いをするのが精一杯だった。
庭、というか敷地内を案内されおじさんの後をついていくとおじさんの家には車だけでなく、トラクターやら大八車やらいろいろあった。
「これだこれ。どうだ。」
おじさんがにっかりと笑って指を指したのはとても古そうなバンだった。
色は黄色だと思うのだが砂ぼこりで汚れて灰色に近かった。
中を見るとシートはぼろぼろでハンドルやギアも今にもはずれるんじゃないかというような頼りなさだった。
嫌な予感は当たった。
断ろうと思った。
「おじさん、これ動くの?」
「車検は通ったし動くんじゃないか?」
おじさんに笑顔で言われることほど信憑性が下がるものはないと思った。
断るのは決まっていたが、おじさんに悪いので後部なども眺めて吟味するふりをした。
「これは確かタイ焼き売りをするために買ったんだ。いや、待てよ、魚売りだったかな、それか古書買取りのための……。」
何に使ったのか覚えていないところがおじさんらしかった。
「おじさん今までいくつ商売してたの。」
僕は質問ではなくあきれたつもりで言った。
「そりゃあ覚えてないよ。とにかく毎年のようにいろいろだよ。」
僕は苦笑し、就職活動はがんばり絶対にこのおじさんみたいにはならないようにしようと思った。
「なんせおじさんには商売の才能がないからなあ。手を出すものとは正反対のものばっかりがブームになるんだよ。タイ焼き屋のときは世間はタピオカ一色だった。わはは。」
「先見の明がある人なんていないよ。ヒットなんてだいたいは偶然だよ。」
「きっとタピオカを売ってても同じさ。何をやっても開店休業状態だよ。今は金魚の仕入れをやってるけど、それも似たり寄ったりさ。」
「おじさんには進捗を生むような働き方よりも、なんでも全力でやってる方が性に合ってるんじゃない?」
おじさんが自分を笑いのネタにし始めたせいか僕はいつの間にかおじさんをフォローしていた。
するとおじさんは手が汚れるのも気にせずにほこりだらけのバンをなでた。
「そうだ。要領よく働くなんて俺にはできない。もちろん能力がないからだ。でもおれはがむしゃらに働いているのが好きなんだ。たとえ大金持ちになったとしても働くのをやめるつもりはない。雨が降っても笑われても働いていたい。」
人生観のようにも思えるおじさんの語りは、僕ではなくバンに向って言っているように思えた。
おじさんはバンにも動き続けてほしいと思っているのだろう。
だから僕が免許を取ったと知ったとき連絡をしてきたのだ。
「おじさん。もう一度聞くけどこれ本当に動くの?」
「そりゃあ動くさ。なんならキーを持ってこようか?」
「今動いても道の途中で止まっちゃうってことはない?」
「あるかもなあ。」
おじさんは頭をかいた。
「タイヤがはずれたりエンジンから煙が出たり。」
「わはは。」
笑ったのは冗談として受け止めたのではなく、ごまかしたためだろう。
なんということだ。
こんな命を預けるには不安定な乗り物を若く未来がある僕に譲ろうと思っていたなんて。
このほこりをかぶったバンをかぶった4つの車輪は僕をどこへ連れていくかわかったもんじゃない。
下手すればあの世行きだ。
クククと僕は自然に笑いが込み上げてきた。
「先のわかる人生なんてつまらないよね。」
僕はオンボロのバンに向ってよろしくと言うように2回叩いた。
するとおじさんはおうと言って笑った。
歯を見せまるで世界を飲み込まんばかりの迫力だった。
僕はおじさんの笑顔が好きになっていた。
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第23回『先見の明 進捗を生む 休業』
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お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約1時間27分でした。
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おじさんに会いに行くのは久しぶりだった。
最後に会ったのは僕が小学校のときだから、もう10年くらいたつことになる。
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いやな人だったというわけではなく、親戚らしく僕のこともちゃんとかわいがってくれていた。
だがおじさんの、何が面白いのかわからないときでも歯を全部見せてまるで世界を飲み込むような笑いが子ども心に得体のしれないものに映り僕を萎縮させた。
両親や他の親戚からも浮いていたおじさんに会いに行くことになったのは理由がある。
僕は大学生になり車の免許を取った。
しばらくは家の車を運転して友たちと遊びに行ったりしていたのだが、どこから噂を聞きつけたのか自分の車を譲ってあげてもいいという連絡がおじさんから入った。
親戚の集まりでもあまりきれいな恰好をしてこないおじさんが譲るというのだから10メートルも走ることのできないオンボロの車なんじゃないかという予感がして断ろうと思ったが、やはり大学生にとって自分の車は魅力なのでとりあえず見に行くことにした。
嫌ならきっぱり断ればいいと考えた。
電車を乗り継ぎ駅からバスに乗り10分ほど歩くとおじさんの家が見えてきた。
想像していたよりも広かったのはここが都心からも駅からも離れているからだろう。
「ヒロくん、よく来たな。」
子どものころに見たままのあの大きな笑顔でおじさんが迎えてくれた。
来てしまったことを少し後悔してしまった僕は挨拶もそこそこに車の話を切り出した。
するとおじさんはそんなに車が楽しみかと、またもや大笑いをしたので僕は愛想笑いをするのが精一杯だった。
庭、というか敷地内を案内されおじさんの後をついていくとおじさんの家には車だけでなく、トラクターやら大八車やらいろいろあった。
「これだこれ。どうだ。」
おじさんがにっかりと笑って指を指したのはとても古そうなバンだった。
色は黄色だと思うのだが砂ぼこりで汚れて灰色に近かった。
中を見るとシートはぼろぼろでハンドルやギアも今にもはずれるんじゃないかというような頼りなさだった。
嫌な予感は当たった。
断ろうと思った。
「おじさん、これ動くの?」
「車検は通ったし動くんじゃないか?」
おじさんに笑顔で言われることほど信憑性が下がるものはないと思った。
断るのは決まっていたが、おじさんに悪いので後部なども眺めて吟味するふりをした。
「これは確かタイ焼き売りをするために買ったんだ。いや、待てよ、魚売りだったかな、それか古書買取りのための……。」
何に使ったのか覚えていないところがおじさんらしかった。
「おじさん今までいくつ商売してたの。」
僕は質問ではなくあきれたつもりで言った。
「そりゃあ覚えてないよ。とにかく毎年のようにいろいろだよ。」
僕は苦笑し、就職活動はがんばり絶対にこのおじさんみたいにはならないようにしようと思った。
「なんせおじさんには商売の才能がないからなあ。手を出すものとは正反対のものばっかりがブームになるんだよ。タイ焼き屋のときは世間はタピオカ一色だった。わはは。」
「先見の明がある人なんていないよ。ヒットなんてだいたいは偶然だよ。」
「きっとタピオカを売ってても同じさ。何をやっても開店休業状態だよ。今は金魚の仕入れをやってるけど、それも似たり寄ったりさ。」
「おじさんには進捗を生むような働き方よりも、なんでも全力でやってる方が性に合ってるんじゃない?」
おじさんが自分を笑いのネタにし始めたせいか僕はいつの間にかおじさんをフォローしていた。
するとおじさんは手が汚れるのも気にせずにほこりだらけのバンをなでた。
「そうだ。要領よく働くなんて俺にはできない。もちろん能力がないからだ。でもおれはがむしゃらに働いているのが好きなんだ。たとえ大金持ちになったとしても働くのをやめるつもりはない。雨が降っても笑われても働いていたい。」
人生観のようにも思えるおじさんの語りは、僕ではなくバンに向って言っているように思えた。
おじさんはバンにも動き続けてほしいと思っているのだろう。
だから僕が免許を取ったと知ったとき連絡をしてきたのだ。
「おじさん。もう一度聞くけどこれ本当に動くの?」
「そりゃあ動くさ。なんならキーを持ってこようか?」
「今動いても道の途中で止まっちゃうってことはない?」
「あるかもなあ。」
おじさんは頭をかいた。
「タイヤがはずれたりエンジンから煙が出たり。」
「わはは。」
笑ったのは冗談として受け止めたのではなく、ごまかしたためだろう。
なんということだ。
こんな命を預けるには不安定な乗り物を若く未来がある僕に譲ろうと思っていたなんて。
このほこりをかぶったバンをかぶった4つの車輪は僕をどこへ連れていくかわかったもんじゃない。
下手すればあの世行きだ。
クククと僕は自然に笑いが込み上げてきた。
「先のわかる人生なんてつまらないよね。」
僕はオンボロのバンに向ってよろしくと言うように2回叩いた。
するとおじさんはおうと言って笑った。
歯を見せまるで世界を飲み込まんばかりの迫力だった。
僕はおじさんの笑顔が好きになっていた。
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