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第55回『本棚 栄養失調 怪獣映画』

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YouTubeで行った
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第55回『本棚 栄養失調 怪獣映画』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約56分でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=XfoY4yKtUVU

↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/

~・~・~・~・~

本木源次郎は好きでなくとも知らない人はいない映画監督だった。
というのも彼こそが特撮を駆使した日本のの始祖とも言える存在だったからだ。
彼のの第1作が公開されたのは半世紀以上も前になるが、その栄光はくもることなく今も映画史の中で燦然と輝いていた。
引退してからも訪ねてくる若い映画人があとをたたず、特撮映画が公開されるたびに本木の元にはインタビューや批評の依頼が来ることが常だった。

ある日、本木に対談の依頼が舞い込んだ。
相手は現在公開中であり、目下興行収入1位を独走している映画『超絶怪獣ゼスパ』の監督・今井瞬だった。
今井にとっても本木は尊敬すべき巨匠であり、この対談の設定は大変名誉であり、夢のようなことでもあった。
ところがさらに、驚くべきことが起こった。
事前に映画を観た本木から今回の対談はぜひ今井の家でやりたいと言い出してきたのだ。
いつもなら本木の家やどこかのホテルで行われていた。
例を見ない本木の提案に他の監督たちは今井をうらやみ、今井自身も天にも昇るような気持だった。

対談の日が来た。
ゆっくりと歩く本木の姿は年齢というよりも余裕から来ているようにも思えるくらい貫禄があり、今井はただただ恐縮するばかりであった。
本木が部屋を一望すると、対談は始まった。
「本木さんは僕の映画をご覧になってどのように感じられましたか。」
今井は直球の質問をしたが、それは映画が大ヒット中で、さらに評論家からの批評も好評で、何より本木が自分の家に来たいと言ってくれたからこそできたものだった。
「日本に希望を感じた。」
本木はぽつりと言った。
声の小ささに反比例して今井の心はいっぱいになった。
自分が今後の映画界を担う存在であると太鼓判を押されたようなものだったからだ。
「怪獣がな、日本を破壊するのはこの先いつ日本が壊れるかというメタファーなんだ。わしらが初めて撮ったときはまだまだ日本はひょろひょろでいつ倒れてもおかしくなかったからな。明日の日本はどうなってしまうのか、その不安の強さこそが怪獣の破壊力を表していた。」
今井はおやと思った。
「それで希望を感じたということは、僕の映画の怪獣は弱く見えたということですか?」
そんなはずはなかった。
CGを駆使して、関係各所にお願いを重ね、彼の映画で行われたのは史上ナンバーワンとも言える大規模な都市の破壊だったからだ。
超絶怪獣ゼスパはビスケットのようにビルを破壊し、自衛隊の攻撃も蚊のように払いのけた。
「怪獣は何を食って強くなるかわかるか?」
本木の問いに映画監督として答えるべきなのか、怪獣映画マニアとして答えるべきなのか今井は迷った。
怪獣が何を食べるかは作品ごとに、いや怪獣ごとに違う。
ならば本木が求めているのは映画監督としての回答だろうということは今井にもわかった。
だとすればさきほどの本木の発言が答えだと今井は思った。
「不安を食べる、ですか?」
「それはメタファーだと言ったろう。」
今井は頭をかいた。
「怪獣は本を食って強くなるんだよ。怪獣はそれだけでは破壊のためだけのただの巨大生物だ。だから作り手のわしらはいっぱい勉強して、知識を蓄え、世の中について考えて、その課程で練り上げられていったものが怪獣の中に注入されていくんだ。そうして出来上がった怪獣は唯一無二であり、破壊のための信念が宿っている。だから強い。そしてわしらが若いころは本を読むことが勉強する一番の方法だった。」
今井は黙ったまま横目で部屋の隅にある小さなを見た。
映画の理論や怪獣に関する本は彼の事務所に置いてある。
彼がいつでも読めるような、部屋に置いてある本は学生時代に買った小説を含めてわずかだった。
「怪獣は年々調になっていっていることが銀幕越しにでもわかる。この分だと10年もたたないうちに日本の怪獣はすべて餓死するんじゃないかな。」

~・~・~・~・~

~感想~
お題を見て怪獣を栄養失調にさせるにはどうすればいいかと考えました。
それで本棚と絡めるために、怪獣自身に本を食べさせるわけにもいかないので比喩として本を読まない監督たちという話にしました。

引退した巨匠というのを生活面とかからもちゃんと描けたらよかったのですがご覧の通りの有様です。
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