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第85回『オノマトペ 解体新書 七味唐辛子』
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YouTubeで行った
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第85回『オノマトペ 解体新書 七味唐辛子』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題は太字にしてます。
所要時間は約58分でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=2_DgcNR3cQk
↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/
~・~・~・~・~
渋沢と編集者は蕎麦屋のテーブル席に難しい顔をして座っていた。
「なにかありませんかねー。」
「本当、なにがいいんでしょうねー。」
むろん彼らは蕎麦のメニューで悩んでいるわけではない。
渋沢はニシン蕎麦を、編集者は天ぷら蕎麦をすでに注文していたからだ。
彼らが考え込んでいるのは、次の連載のことだった。
渋沢は最近『僕は三刀流』という野球漫画を完結させた漫画家であった。
『僕は三刀流』は主人公の少年がピッチャーとバッターだけでなく、キャッチャーもやるという漫画であり、少年漫画らしく流行に乗りつつも型破りな設定を魅力的なキャラクターたちで描いたことによって、少年たちから人気を得た。
アニメ化もされたので、♪打て! 投げろ! 受け止めろ~♪というサビをあなたも聞いたことがあるのではないだろうか。
人気漫画を描いた漫画家の次回作ということで読者からの期待は熱く、渋沢にとってはプレッシャーであり、編集者にとっても失敗は許されないものであった。
だがいくら考えこんでも、新連載のアイディアはさっぱり出てこなかった。
渋沢は野球漫画で人気を得たのだからスポーツ漫画が得意なのかもしれない。
それとも主人公に多くの共感が集まったので、高い能力を持つ熱血漢を軸にして考えたほうがいいのだろうか。
出てくるアイディアはどれも二番煎じになってしまいかねないものばかりだった。
二人の話し合いがさっぱり進展しない間も店は活気良く回転し、真っ白なメモ帳が置かれたテーブルにニシン蕎麦と天ぷら蕎麦が運ばれた。
二人はこれでやっと気分転換ができると顔に少しだけ笑顔が戻り、割り箸をパキッパキッと割った。
渋沢がテーブルに置かれた一味唐辛子を振りかけ終わり編集者に渡そうとすると、彼は七味唐辛子を取った。
「僕は蕎麦には一味じゃなくて七味なんですよ。」
だが渋沢は一味にも七味にもこだわりがなく、なんとなく目に入ったから一味唐辛子を取っただけだった。
もし先に七味唐辛子が目に入ったらそっちを振りかけていただろう。
「そんなに違いますか?」
「どうでしょう。江戸っ子だって七味にしたのは七が縁起がいいからだって聞きましたからね。なんとなくですよ。」
編集者は勢いよく蕎麦をすすりこんだ。
渋沢は七味唐辛子が江戸時代に生まれたことも知らなかったので、へーとだけ言って同じように蕎麦をすすることしかできなかった。
江戸時代について彼が小学生のときによく覚えていることと言えばなんだろうと少し考えてみると、頭に浮かんだのが解体新書だった。
あれは確か江戸時代に翻訳された解剖学書で、ターヘル・アナトミアという言葉の響きが面白くて友達と大いに笑った記憶があった。
「そうだ。解体新書。次の漫画は解体新書の漫画化というのはどうでしょう。」
渋沢は蕎麦を飲み込む間もなく言った。
編集者は解体新書の漫画化という言葉が飲み込めず、ちゅるちゅると蕎麦をすすった。
「それって文学の漫画化とか哲学書の漫画化みたいなものですか?」
渋沢は目を輝かせた。
「そうです。僕のメインの読者は少年たちです。でも今まで通りのアプローチで少年向けの漫画を描いてもマンネリになりかねない。そこで少し大人向けにするんです。ためになるようなものです。それでいて少年たちも面白がれるもの。それがターヘルアナトミアこと解体新書です。」
解体新書の漫画化という企画は無事通り、渋沢の連載が開始された。
それは解剖学として人体の構造がよくわかる大人の目から見ても大変勉強になるものであり、それでいて漫画としてのエンターテインメント性は忘れていなかった。
その最たる特徴がオノマトペによるド派手な演出だった。
「体を開いて臓器の位置を確認してみよう!」
ズッパーーーーンッ
「目を取り出してみよう!」
グッポーーーーンッ
「男性の生殖器をもぐぞ!」
ボッキーーーーンッ
当然のごとく、漫画は数回で打ち切られた。
その内容があまりにもグロすぎたからだ。
だがそのグロさと解体新書の漫画化という奇抜なアイディア、何よりも発行部数の少なさゆえ今では彼の単行本はマニアの間で高額な値段がつけられている。
そう、買いたい奇書として。
~・~・~・~・~
~感想~
七味唐辛子はどうとでもなりそうなので解体新書とオノマトペを、それも固有名詞の解体新書から話を考えていきました。
それで七味のうんちくが解体新書と同じ江戸時代のものだったので、漫画のアイディアの入口として使いました。
ただ七味のうんちくは間違っていたらその時点で使えなくなるので、怖くて調べなおしませんでした(笑)。
それでどうにかなるだろうと書き進め、オチのダジャレはその場で思いつきました。
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第85回『オノマトペ 解体新書 七味唐辛子』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題は太字にしてます。
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詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
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渋沢と編集者は蕎麦屋のテーブル席に難しい顔をして座っていた。
「なにかありませんかねー。」
「本当、なにがいいんでしょうねー。」
むろん彼らは蕎麦のメニューで悩んでいるわけではない。
渋沢はニシン蕎麦を、編集者は天ぷら蕎麦をすでに注文していたからだ。
彼らが考え込んでいるのは、次の連載のことだった。
渋沢は最近『僕は三刀流』という野球漫画を完結させた漫画家であった。
『僕は三刀流』は主人公の少年がピッチャーとバッターだけでなく、キャッチャーもやるという漫画であり、少年漫画らしく流行に乗りつつも型破りな設定を魅力的なキャラクターたちで描いたことによって、少年たちから人気を得た。
アニメ化もされたので、♪打て! 投げろ! 受け止めろ~♪というサビをあなたも聞いたことがあるのではないだろうか。
人気漫画を描いた漫画家の次回作ということで読者からの期待は熱く、渋沢にとってはプレッシャーであり、編集者にとっても失敗は許されないものであった。
だがいくら考えこんでも、新連載のアイディアはさっぱり出てこなかった。
渋沢は野球漫画で人気を得たのだからスポーツ漫画が得意なのかもしれない。
それとも主人公に多くの共感が集まったので、高い能力を持つ熱血漢を軸にして考えたほうがいいのだろうか。
出てくるアイディアはどれも二番煎じになってしまいかねないものばかりだった。
二人の話し合いがさっぱり進展しない間も店は活気良く回転し、真っ白なメモ帳が置かれたテーブルにニシン蕎麦と天ぷら蕎麦が運ばれた。
二人はこれでやっと気分転換ができると顔に少しだけ笑顔が戻り、割り箸をパキッパキッと割った。
渋沢がテーブルに置かれた一味唐辛子を振りかけ終わり編集者に渡そうとすると、彼は七味唐辛子を取った。
「僕は蕎麦には一味じゃなくて七味なんですよ。」
だが渋沢は一味にも七味にもこだわりがなく、なんとなく目に入ったから一味唐辛子を取っただけだった。
もし先に七味唐辛子が目に入ったらそっちを振りかけていただろう。
「そんなに違いますか?」
「どうでしょう。江戸っ子だって七味にしたのは七が縁起がいいからだって聞きましたからね。なんとなくですよ。」
編集者は勢いよく蕎麦をすすりこんだ。
渋沢は七味唐辛子が江戸時代に生まれたことも知らなかったので、へーとだけ言って同じように蕎麦をすすることしかできなかった。
江戸時代について彼が小学生のときによく覚えていることと言えばなんだろうと少し考えてみると、頭に浮かんだのが解体新書だった。
あれは確か江戸時代に翻訳された解剖学書で、ターヘル・アナトミアという言葉の響きが面白くて友達と大いに笑った記憶があった。
「そうだ。解体新書。次の漫画は解体新書の漫画化というのはどうでしょう。」
渋沢は蕎麦を飲み込む間もなく言った。
編集者は解体新書の漫画化という言葉が飲み込めず、ちゅるちゅると蕎麦をすすった。
「それって文学の漫画化とか哲学書の漫画化みたいなものですか?」
渋沢は目を輝かせた。
「そうです。僕のメインの読者は少年たちです。でも今まで通りのアプローチで少年向けの漫画を描いてもマンネリになりかねない。そこで少し大人向けにするんです。ためになるようなものです。それでいて少年たちも面白がれるもの。それがターヘルアナトミアこと解体新書です。」
解体新書の漫画化という企画は無事通り、渋沢の連載が開始された。
それは解剖学として人体の構造がよくわかる大人の目から見ても大変勉強になるものであり、それでいて漫画としてのエンターテインメント性は忘れていなかった。
その最たる特徴がオノマトペによるド派手な演出だった。
「体を開いて臓器の位置を確認してみよう!」
ズッパーーーーンッ
「目を取り出してみよう!」
グッポーーーーンッ
「男性の生殖器をもぐぞ!」
ボッキーーーーンッ
当然のごとく、漫画は数回で打ち切られた。
その内容があまりにもグロすぎたからだ。
だがそのグロさと解体新書の漫画化という奇抜なアイディア、何よりも発行部数の少なさゆえ今では彼の単行本はマニアの間で高額な値段がつけられている。
そう、買いたい奇書として。
~・~・~・~・~
~感想~
七味唐辛子はどうとでもなりそうなので解体新書とオノマトペを、それも固有名詞の解体新書から話を考えていきました。
それで七味のうんちくが解体新書と同じ江戸時代のものだったので、漫画のアイディアの入口として使いました。
ただ七味のうんちくは間違っていたらその時点で使えなくなるので、怖くて調べなおしませんでした(笑)。
それでどうにかなるだろうと書き進め、オチのダジャレはその場で思いつきました。
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