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第124回『漫画家 ルーレット 子供たち』

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YouTubeで行った
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第124回『漫画家 ルーレット 子供たち』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約53分でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=Qwu6lcu1Dmk

↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/

~・~・~・~・~

俺はゆっくりと息を吸い込みながら構えた。
指先まで意識は届いていた。
全身が鋭敏な感覚器官となり、周囲の大気の流れまで手に取るように感じられた。
そこから一切の大気を乱さぬまま開いた掌を体の外側に大きく、しかしゆっくりと旋回させた。
そして息を止めるとともに、鼻先で手を合わせた。
ぱんっと乾いた音が響いた。
「お願いしますっ。にはなりませんようにっ。」
ルーレットが止まった。
「わあ、僕だー。」
次男は漫画家になることが決定した。
俺は床に両手をついて崩れ落ちた。
「次、俺。俺の番。」
長男が身を乗り出してルーレットルビを回し始めた。

今俺は妻と子供たちの4人で、生まれたときから死ぬまでを体験するボードゲームをしている。
それはどんな学校へ行き、どんな職業を選ぶか、いつ結婚して何人子供が生まれるか、全てはが決める。
ゲームの中で次男はへの道を歩んでいて、になるかどうかのが回されていたのだ。
だが、俺が神に祈ってでも次男がになることを阻止していたのは何もゲームに勝ちたいからではない。
「ちょっとやめてよ、みっともない。子供たちがマネしちゃったらどうするのよ。」
妻があきれ気味に私に言った。
「マネしないように祈ったんじゃないか! 例えゲームの中でもになっちゃわないようにな!」
次男がになってしまったのは、妻が俺と一緒に合掌して祈らなかったからなのではないかという疑いも手伝って、俺は真っ赤になって反論した。
「マネというのはそうやって祈ることよ。たかがゲームでしょ。」
たかがゲーム……。
言われてみればそうだ。
確かに合掌して祈ったり、声を荒げるのは大人げなかったかもしれない。
子供に見せるものではない。
俺は子供のころからの夢を叶えてになることが出来た。
しかしの世界は厳しいものだった。
日々命を削りながら描いても、作品は鳴かず飛ばずだった。
何とか生活を20年続けることができているが、今も生活は苦しい。
だから私は自分の子供にはそんな苦労はしてほしくなかった。
もっと普通の職業についてほしかった。
例えゲームの中の出来事であってもだ。
その一心で私はにならないように祈ってしまった。
しかし思い返してみれば、としてぱっとしない私に妻は文句ひとつ言わずついてきてくれた。
も明るく元気に育った。
夫婦仲だって悪くない。
これを幸せと呼ばずしてなんと言おう。
自らの努力で切り開いていかねばならないのが現実だ。
ならばゲームの中の人生くらい、仕事も結婚もで決められてもいいじゃないか。
俺はそう思えた。

そうこうしているうちに妻に番が回ってきた。
妻は公務員となった。
そして次の一手で結婚が決まる。
すると妻は目をつぶり、こぉぉぉっと今まで聞いたこともないような音を出して息を整え始めた。
ぱああぁぁぁんんんっ!
合掌すると、妻の目がかっと見開いた。
「お願いです! お金持ちと結婚できますように!」
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

~・~・~・~・~

~感想~
3つのお題から人生のボードゲームが思い浮かんだので素直にそこから作ることにしました。
当初は別の終わり方を考えていたのですが、ミスリードのために書いた冒頭の祈る姿をオチでもう一回使おうと思いこうなりました。
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