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第146回『いないいないばあ 悲壮感 五里霧中』

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YouTubeで行った
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第146回『いないいないばあ 悲壮感 五里霧中』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約42分でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=1LcK3Au-qsM

↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/

~・~・~・~・~

「いないいない、ばあっ。」
8か月の娘は無邪気にきゃっきゃっと笑っていた。
しかし妻は娘をあやしつつも少し難しい顔をしていた。
なぜなら娘はばあの時だけでなく、いないいないをしている間もずっと笑っていたからだ。
「顔の隠し方が悪かったのかしら。」
妻はもう一度いないいないばあをやってみた。
どうやら今度は指の間からも見えないように、しっかりと締めているように見える。
しかし娘は相変わらず笑ったままだ。
育児書によるとは生後4から6か月ぐらいからできるという。
一瞬親の顔が見えなくなる不安に襲われるが、すぐに再び現れる安心感で赤ちゃんは喜ぶのである。
「いつも笑ってくれて手がかからないのは助かるんだけど……。」
妻はもう4カ月以上もさまざまなを試してきた。
手の覆い方を変えたり、タイミングを変えたり、と。
化粧を落としてやってみたときは、不謹慎ながら私は少し吹き出してしまった。
光が反射してまぶしいのかもしれないと言って、結婚指輪をはずしたときは私はちょっと寂しかった。
しかしどんな方法を試みようとも、娘は相変わらずいないいないの時も笑ったままである。
妻はもうどうしたらいいのかわからなかった。
育児は大変なものだとは覚悟していたが、まさかでつまずくとは思っていなかったらしい。
の状態だった。
それでもめげずに赤ちゃん言葉を使いながらをする妻の背中にはすら漂っていた。

ができない。
他愛のないことと思われることかもしれないが、不安になったり笑ったりを交互に繰り返すのは健全な成長に必要なことだという。
短期記憶も鍛えられるらしい。
そして、赤ちゃんは幽霊が見えるという。
これを俗説だと言う人もいるが、私は信じる。
なぜなら死後も家の中にいる私を娘は確かに認識しているからだ。
父の姿が見えるおかげで娘はいつもごきげんだ。
しかしそれは、いないいないの間も見えているということを意味している。
つまり、娘にとっていないいないの時も親である私がいる状態なのだ。
これでは妻がどれだけ繰り返してもができないはずである。
私は妻を見守るつもりでいたが、逆に苦しめる結果になっていたのかもしれない。

妻はよくがんばってくれている。
娘も元気に育っている。
十分に安心できた私は、そろそろ成仏するときなのかもしれない。

~・~・~・~・~

~感想~
いないいないばあで、悲壮感が漂ったり、五里霧中になってしまうのはどんな状態なんだろうと考えることから話を考えました。
ただやっぱり赤ちゃんをあやす話の中に悲壮感とか五里霧中という単語が入っていると、目立ちますね。
文章全体に熟語を散らばらせれば違和感はなくなるのでしょうけど、それはそれで異様な文章になる気もしますし。
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