十年愛 〜私が愛した人はズルイ人でした。それでも愛するのを止められないのは私の罪ですか?〜

朔良

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社員旅行15

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「中垣君?何処に行くの?」

「良いから付いて来いよ?」

「う、うん。」

ホテルから海沿いに15分程歩いた所に水族館があった。

「ここ・・?」

「ああ。行くぞ?」

「・・うん。」

入口で入場券を買って中に入る。
館内は少し薄暗いが、水槽の中は明るく色とりどりの魚が沢山泳いでいた。

「うゎーーーー!スッゴイ綺麗だよ?ねぇねぇ、中垣君?見てみて!?」

美咲は中垣の手を取ると水槽の前に行く。

「見てっ!?すごいね?あっちの水槽は何が居るのかな?」

隣の水槽を指さした。

「如月?落ち着けって。魚は逃げないから大丈夫だっ!」

中垣は笑いながら美咲の手を取る。

「でも・・。」

「ははっ、解ったって、ほら行くぞ?」

「うんっ!」

中垣に手を引かれ隣の水槽を見る。

「凄く綺麗だね?」

「ああ。」

ぶっきら棒だけど美咲に向けられる視線や言葉は優しさが込められていた。

「如月こっち!」

一通り館内を見ると、外の屋外プールにやってきた。

「ここは?」

「イルカと触れ合えるらしいよ?」

「えっ!?そうなの?」

美咲が目を丸くしてると、トレーナーがやって来て屋外プールの中に入れてくれた。

プールにはイルカが3頭泳いでいた。

「わぁ~~~!凄いよ!」

美咲は嬉しそうにプールの側まで行った。
すると、トレーナーがイルカホイッスルを鳴らすとプールから顔を覗かせて美咲の頬にキスをした。

「きゃーー!中垣君!!すごーい!ねぇねぇ、今見た?」

「ああ、みたみた。」

美咲は嬉しそうにプールに目を向けた。
イルカがプール全体を使って助走を付けると美咲達の前でジャンプをした。

水しぶきが二人に降りかかるが、美咲はおかまいなしだ。
目をキラキラさせてイルカを見つめた。
トレーナーにお礼を言うと水族館を後にした。

「中垣君、ありがとう。とっても素敵な体験が出来た!」

嬉しそうに笑う美咲を照れくさそうに見つめた。

「イルカ・・好きなのかと思って。」

「えっ?」

美咲が中垣を振り返る。

「ピアス、イルカのしてるだろ?」

ハッとして耳のピアスを握る。その後、美咲の心に温かいものが流れた。
中垣の手を握る。

「中垣君・・。ありがとう。とっても楽しかった。」

「そっ。なら良かったけど?」

どこまでも、素っ気ない態度に思わず笑みが溢れる。

「うん。本当にありがとう。」

帰り道、大通りをホテルに向かって歩いていると、雨粒が美咲の顔に当たる。

「中垣君。雨だよ?」

「えっ?」

振り返る中垣が空を見上げる。

「まずいな、スコールだ。」

「えっ??」

その瞬間雨が一気に降ってくる。

「わっ!!すごい雨っ!」

「ホテルまで直ぐだ、走るぞっ!」

中垣が美咲の手を握ると一気に走る。
その間も、雨の勢いが衰える事はなかった。

息を切らせてホテルの玄関に避難する。

「うわー。びしょびしょ!!中垣君大丈夫?」

中垣を見ると同じく全身びしょびしょだった。

「とりあえず、部屋に戻ろう!」

軽く服の水を絞るとエレベーターで7階に行く。

「じゃあ、自分の部屋行くね?」

そう言う美咲の手を握ると中垣は自分の部屋まで来た?

「な、中垣君?」

「良いから来いよ。」

「う、うん。」

部屋に入るとタオルを渡してくれる。

「あ、ありがと。」

渡されたタオルで身体を拭いた。
全身びっしょりでいくら拭いても無駄だった。

「如月?シャワー浴びてこいよ。温まるぞ?」

「う、うん。じゃあ、借りるね?」

「おう。」

中垣は身体を拭きながら短い返事をした。
数十分後、美咲がシャワールームから出てきた。

「中垣君。ありがと、中垣君も入ってきたら?」

「ああ。」

相変わらずのぶっきら棒な態度だったが、美咲はクスリと笑うと部屋にあるポットで湯を沸かした。
中垣が、頭を拭きながら出てくる。

「あ、中垣君。コーヒー淹れたんだけど飲む?」

「ああ、貰う。」

「うん。」

中垣が室内にある椅子に座るのを見てテーブルの上にカップを置いた。

「どうぞ?ブラックで良いの?」

「んっ、ああ良いよ。」

美咲に視線を向けた中垣がサッと顔を背けた。

「お前どうしたんだよ?胸の所赤くなってる。」

「えっ?」

美咲は咄嗟に胸元を隠した。

「う、うん。何か、虫に刺されたみたい。」

何とか思いつく言い訳を言った。

「・・・・。」

「な、中垣・・君?」

美咲は不安になり中垣を見た。

「そうか?だといけないから薬塗っとけよ?」

「う、うん。ありがと・・。」

その後、二人でコーヒーを飲んだが何となく気不味かった。
外を見ると雨は既に止んでいた。
ベランダに出ると美咲が急いで室内に戻って来て中垣の手を引いた。

「中垣君!来て!!」

「お、おい、何だよっ?」

「良いから!」

美咲に手を引かれベランダに出る。

「ほらっ!虹だよ!虹が出てるっ!!」

「ほんとだ。綺麗だな?」

「うん。ホントに綺麗だね?」

振り返ると、中垣の顔が思いの外直ぐ側にあってドキリとする。

「ご、ごめん。子供みたいだったよね?」

「良いんじゃね?別に悪いとは思わないけどな?そういう所が如月のいい所なんじゃないか?」

そう言うと、美咲の頭をポンポンと撫でた。
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