【完結】恋と瑠璃色の弾丸 〜番外編〜

朔良

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御園診療所 【3】

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「世良葵と申します。突然の訪問、大変申し訳ありません。取り急ぎどうしても組長さんにお聞きいただきたいお話がありまして伺った次第です。」

葵は神龍会の組長の前で頭を下げた。

「世良さん。頭を上げて下さい。うちの若い衆が迷惑を掛けたみたいだね?申し訳ない。」

頭を上げて組長に視線を向けた。
和服を着た年配の男性だった。顔には笑顔を浮かべていたが目は笑っていなかった。

「・・・。いいえ。大丈夫です。」

「私は組長の神崎だ。これは、若頭の三井。」

先程、葵を案内してくれた男性が頭を下げた。

「それで?話というのはどんなことかな?」

「はい。神龍会の若頭補佐に林田という人が居ますね?その人についてです。」

神崎組長の眉がピクリと動く。

「林田が何か?」

「林田が、オーバーステイの女性をほぼ監禁して夜の接待をさせています。先日、そこから逃げ出した女性は林田の部下によって傷付けられました。神龍会はそういったビジネスをされているのですか?」

「・・・。それは初耳ですね?それで?世良さんはどうしたいと?」

「私は、筋を通しに来ました。林田は許せない事をしました。」

神崎組長を真っ直ぐ見据えて言った。

「・・・。」

「家族の為に遠い日本にまで来て懸命に働いていた女性を貶め辱めた。私は林田を許す気はありません。彼女達を救い出します。」

「これが、世良さんの筋の通し方・・ですか?」

「はい。」

神崎は腕を組み鋭い視線を葵に向けたが、身動ぎ一つせずに見つめ返した。
二人の間に短い沈黙が落ちる。
沈黙を破ったのは神崎だった。

「三井。林田は今日をもって破門だ。林田に協力していた人間もな。」

側に控えていた三井は一つ頭を下げ、部屋を出ていく。

「世良さん、一つ聞きたいんだがもしあんたの言う事を信じなかったらどうしてた?」

「私は、許可を貰いに来たのではないです。あいにく、海外生活が長いので日本のこういった組織の仕来りも知りません。ですが、私は私なりに筋を通したつもりです。その上で、信じるか信じないかは神崎さん次第です。」

神崎は目を細めて笑った。

「ハハハッ。世良さん、あんたいい度胸してるな?うちの組に欲しい位だ。」

「褒め言葉として受けさせて頂きます。」

「林田は狡猾な人間だ。くれぐれも気を付けなさい。」

「はい。ありがとうございます。」

三井に見送られて事務所を後にしようとした。

「世良さん。」

「はい。」

振り返ると三井が近付いてきた。

「何か私達に出来る事があったら言って下さい。破門になったとはいえ、林田は神龍会に居た人間ですから。」

「わかりました。その時はお願いします。」

三井にお辞儀をすると、葵は今度こそ帰路についた。




「先生?居る~?」

御園診療所のドアを開けながら声をかける。

「葵か!?どうだった?無事か?」

診察室から出てきた御園は矢継ぎ早に葵に言った。

「ふふっ。大丈夫。それより、レイアはどうしてる?」

「ああ、今は眠ってる。ちゃんと食事も取れてるし心配ない。」

「そっか。良かった。」

「精神的に限界だったんだろうな。可哀想に・・。」

「・・・。」

レイアの側に行くと、顔を覗き込んだ。
安心しきった表情で眠っているのを見てホッとした。
ベッドサイドの椅子に座るとレイアの手を握った。

「暫らくは起きないと思うから葵も少し休んだらどうだ?」

「うん。少しレイアに付いてる。先生?ありがとうね。」

「ああ。」




診察を終えて、葵とレイアの様子を見ようと隣の部屋に行くとレイアの手を握ったまま葵が眠っていた。

「だから休めって言ったのに・・。」

御園は毛布を持ってくると葵に掛けた。

「っ・・・。い・・や。やめ・・。」

葵が小さく呟いた。
顔を見ると目尻に涙が浮かんでいる。

(うなされてる?)

「はっ・・・。だめ・・。」

呼吸が荒くなる。

「葵?あおい!!」

御園は葵の肩を揺するとゆっくりと瞼を開けた。
一粒の涙が溢れる。

「んっ・・。ここは?」

「葵、大丈夫かっ?」

僅かに視線を動かした。

「あ・・。そっか。」

やっと、葵の視線が御園を捉えた。

「どうした?悪い夢でも見たのか?」

「・・・。大丈夫だよ先生。」

気まずそうに微笑んだ。

「そうか?眠気覚ましにコーヒーでも淹れるよ。こっちおいで。」

「うん・・。」

診察室に行くと、御園は手際良くコーヒーを淹れ始めた。

「今日の診察は終わったの?」

「ああ。」

「そっか。お疲れ様。」

「医者なんて暇な位が良いんだけどな?」

「ふふっ、確かにそうだね。」

「ほら。少し甘くしてある。」

葵にカップを差し出す。

「ありがと。」

受け取ると、一口飲んだ。程よい甘さが冷えた身体に染み渡っていった。

「悪夢よく見るのか?」

「たまにね・・。」

葵の纏う雰囲気は、今まで出会った事のないものだった。まだ、どう見ても20代半ばの葵に似つかわしくなくてとても歪に見えた。何故かそれがとても哀しく感じた。

「なぁ?葵。何か悩みがあるなら相談に乗るから言ってくれ?俺は葵の力になりたいんだ。」

「・・・。ありがと。でも、まだ大丈夫だよ。話せるようになったら話すから。」

「・・・。そうか。わかった。」




一方、林田は苛立っていた。

「くそっ!いきなり破門って何なんだっ!!」

そこへ、若い男が駆け込んできた。

「林田さんっ!!破門になったって本当ですか?」

林田に睨まれてビクッとする。

「お前事務所に居たんだろ?何があった?」

今にも掴みかからんばかりの勢いで問い詰められる。

「いや、特には・・・。そういえば、変な女が組長おやじに会わせろって来ましたけど。」

「女?」

「はい。若頭が出てきて組長おやじに会わせてました。」

「三井が?で、何の話をしてたんだ?」

「いえ、そこまでは・・。」

「どんな女だった?」

「若い良い女でした。でも、普通の感じじゃなかったです。度胸があるっていうか。事務所にも一人で乗り込んできたんで。」

「そうか・・。」

それっきり、林田は黙り込んでしまった。
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