3 / 4
生贄聖女は空を飛ぶ
しおりを挟む
R1897が目を開けたとき、そこは宙空だった。
夜空にひかる星座たちが、R1897――つまり生贄聖女を見つめている。足元には、篝火が光る山脈があった。
「ああ……私、死んだのね」
生贄聖女は呟いた。
「魔王様にはお礼をいわなくては。こんな私を栄養にして下さるなんて。でも魔王様、お腹を壊してたらどうしましょう。一生かけて謝らなくては。命をかけて償わなくては……」
聖女の頬を、涙がひとつ伝いおちた。
「馬鹿ね。もう私、死んでいるのに」
「いや、誠心誠意土下座してほしいな」
「……え」
「私の片翼に傷をつけたのだ。国家をあげた賠償が必要だな」
「えええ。魔王様!? い、いったいどうなさったのです!?」
よく見れば、生贄聖女は、黒い両翼をはやした魔王の腕に抱えられていたのだ。魔王城から50mほど離れた空中を飛ぶ魔王の腕や頬には大量の擦り傷があった。
「あの首輪には魔王城すら崩壊させる量の爆薬が積まれていた。睡眠や精神の安定で俺の魔力値が一定まで下がったら爆発するようにしてあったようだが……直前で壊して結解を張れた故、魔王城も俺もこの程度で済んだというわけだ。今はジンが片付けに追われている」
「そ、そんな……。申し訳ありません! このたびの人間界の不手際、まずは私の命で償えるものでしたら是非……」
「ばかもの!」
「ひえっ」
魔王は思わず聖女に頭突きをくらわしていた。聖女を守るために一気に魔力を爆発させたために、黒かった目は赤に戻り、短かった髪も長く腰まで届く。手は節くれだって鋭い爪がはえ、額にはもちろん捻じれた角が生えていた。
「い、痛いですぅ」
「お前も殺されそうになったんだぞ! なぜおまえが償う! そこは! 人間界に対して怒るところだろう」
「で、でも私は……」
俺は嘆息する。もう、何をいっても無駄だと思った。
「……まあいい。とりあえず下におろしてやるから。魔王城から逃げるなり、好きにしろ」
「そ、それはだめです。食べていただかなくては」
「なぜそう執着する……。やはり、教会の指導か?」
「それもありますけれど……」
聖女は、篝火の焚かれた山の向こうを見つめる。
「私の家族は冒険者でした。父は勇者の血筋につながる人で、魔界を目指していたんです。でもある時、嵐をしのぐためにドラゴンの巣に入ってしまって……。目覚めたときには、私一人が聖女養育のための教会におりました」
「それは……うちのドラゴンが失礼した」
「謝らないでください。すべて自然の摂理ですもの。父も兄も、毎日森で兎を狩っていましたわ。同じように、ドラゴンも私たちを狩っただけ。だから……私もその循環に乗りたいだけなんです。だから……どうぞ、私を食べて。魔王様にとっては微々たる食料にしかならなくても、その傷を癒すための力くらいはあるはずですわ」
「……本気なのか」
「ええ……。だって私は……そのために、生まれてきたのですもの」
そういって、聖女は目をつむった。
俺はごくりと唾をのむ。魔王城は俺の体のようなものだ。とっさに結解を張ったとはいえ、随所が崩れている。今人間どもに攻め込まれたらひとたまりもない。だが目の前には、健康な肉体が一つある。これを食べれば、魔力値は回復する。
「名前は……?」
「え……」
「本当の名前は? 親につけられた名が、あるだろう?」
「ルクシエル……」
「……」
「ルクシエルですわ、魔王様……」
その言葉を最後に、ルクシエルは意識を失った。俺の鋭い牙に首筋をかまれ、享年16歳で人生を終えたのだった……。
夜空にひかる星座たちが、R1897――つまり生贄聖女を見つめている。足元には、篝火が光る山脈があった。
「ああ……私、死んだのね」
生贄聖女は呟いた。
「魔王様にはお礼をいわなくては。こんな私を栄養にして下さるなんて。でも魔王様、お腹を壊してたらどうしましょう。一生かけて謝らなくては。命をかけて償わなくては……」
聖女の頬を、涙がひとつ伝いおちた。
「馬鹿ね。もう私、死んでいるのに」
「いや、誠心誠意土下座してほしいな」
「……え」
「私の片翼に傷をつけたのだ。国家をあげた賠償が必要だな」
「えええ。魔王様!? い、いったいどうなさったのです!?」
よく見れば、生贄聖女は、黒い両翼をはやした魔王の腕に抱えられていたのだ。魔王城から50mほど離れた空中を飛ぶ魔王の腕や頬には大量の擦り傷があった。
「あの首輪には魔王城すら崩壊させる量の爆薬が積まれていた。睡眠や精神の安定で俺の魔力値が一定まで下がったら爆発するようにしてあったようだが……直前で壊して結解を張れた故、魔王城も俺もこの程度で済んだというわけだ。今はジンが片付けに追われている」
「そ、そんな……。申し訳ありません! このたびの人間界の不手際、まずは私の命で償えるものでしたら是非……」
「ばかもの!」
「ひえっ」
魔王は思わず聖女に頭突きをくらわしていた。聖女を守るために一気に魔力を爆発させたために、黒かった目は赤に戻り、短かった髪も長く腰まで届く。手は節くれだって鋭い爪がはえ、額にはもちろん捻じれた角が生えていた。
「い、痛いですぅ」
「お前も殺されそうになったんだぞ! なぜおまえが償う! そこは! 人間界に対して怒るところだろう」
「で、でも私は……」
俺は嘆息する。もう、何をいっても無駄だと思った。
「……まあいい。とりあえず下におろしてやるから。魔王城から逃げるなり、好きにしろ」
「そ、それはだめです。食べていただかなくては」
「なぜそう執着する……。やはり、教会の指導か?」
「それもありますけれど……」
聖女は、篝火の焚かれた山の向こうを見つめる。
「私の家族は冒険者でした。父は勇者の血筋につながる人で、魔界を目指していたんです。でもある時、嵐をしのぐためにドラゴンの巣に入ってしまって……。目覚めたときには、私一人が聖女養育のための教会におりました」
「それは……うちのドラゴンが失礼した」
「謝らないでください。すべて自然の摂理ですもの。父も兄も、毎日森で兎を狩っていましたわ。同じように、ドラゴンも私たちを狩っただけ。だから……私もその循環に乗りたいだけなんです。だから……どうぞ、私を食べて。魔王様にとっては微々たる食料にしかならなくても、その傷を癒すための力くらいはあるはずですわ」
「……本気なのか」
「ええ……。だって私は……そのために、生まれてきたのですもの」
そういって、聖女は目をつむった。
俺はごくりと唾をのむ。魔王城は俺の体のようなものだ。とっさに結解を張ったとはいえ、随所が崩れている。今人間どもに攻め込まれたらひとたまりもない。だが目の前には、健康な肉体が一つある。これを食べれば、魔力値は回復する。
「名前は……?」
「え……」
「本当の名前は? 親につけられた名が、あるだろう?」
「ルクシエル……」
「……」
「ルクシエルですわ、魔王様……」
その言葉を最後に、ルクシエルは意識を失った。俺の鋭い牙に首筋をかまれ、享年16歳で人生を終えたのだった……。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。
あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる