最強魔王と生贄聖女 ~魔王様早く食べてくださいっ!~

羽生ありす

文字の大きさ
2 / 4

生贄聖女は魔王に泣きつく

しおりを挟む
 ようやく一日の仕事が終わって執務室のテラスで一息つく。魔王城が見張らせるテラスからは、魔族たちが働く姿も、人間たちが住む山も美しくみえた。混沌たる世界だが、ここからの景色は随一だ。

 しかし、今日は散々な日だった。人間界と魔界のあいだの村では小競り合いが戦闘に発展した。魔界領の山では、数匹の魔物が不可解な死に方をしており、調査隊を向かわせたが帰ってくるのは明日以降だ。結果のわからないものが一つ二つあれば、心はざわつく。

 それは、俺の横にたたずみ、泣きそうな顔をしている生贄聖女も同じだろう。
「……何をしている」
「うう……。魔王様、私、滋養たっぷりのマンドラゴラも連れてきたんです。ドラゴンさんも香料になる鱗を一枚くださって、グリフィンさんからも一振りで肉が柔らかくなる尾羽をいただいたんです……。魔界に長く滞在すればそれだけ魔力を取り込んでおいしくなくなる。賞味期限が切れちゃうのに、どうして私を食べてくださらないのですか?」

 突っ込みどころは多数ある。いつの間にそんなに魔王城のものと仲良くなったのかとか、どうしてそんな食べてほしいのかとか。だが、全部に突っ込んでも、どうせ頭が痛くなるような返答が返ってくるだけだ。俺はもう一つ質問を畳みかける。

「ではなくて、なんでメイド服なのかと聞いている」
「あ、これはですね。食べられるまでの間に少しでも魔王城に貢献をしたいと掃除や炊事をしておりましたら、ジン様が支給してくださったのです! こんなにかわいい服を着れる日がくるなんて!」

 泣きそうな顔が、急に明るくなる。スカートのひだをつまんで微笑む姿をみて、胸が痛んだ。ついでジンへの怒りがわいてくる。俺は泣かせるか食べてくださいと言われるばかりなのに、ジンは簡単に笑顔にさせる。なんだこれは。俺は魔王なのに、明らかにジンとのほうが仲良くなっているではないか。いや、生贄なんだから仲良くもなにもないんだが。

 俺はため息をついて、じっくりと生贄聖女を見つめた。銀の髪が夜のテラスにたなびき、月光を反射してきらめいた。菫色の瞳には哀愁が漂い、銀色のまつ毛が不安そうに俺を見つめる。柳のような眉も銀に縁どられ、唇だけがほのかに赤い。

「……聖女というのは、どんな生活をしているんだ?」
「あ、食材の製造過程の確認でございますね!」
「いろいろ違うんだが……まあいい、教えてくれ」
「はい! まずは親がすてた子や、親をなくした子、あるいは罪人の子を教会が拾ってきます!」
「まて。最初から重いぞ」
「年齢は5歳から16歳まで。一日2食桃を食べ、肉を柔らかくするために鞭で打ちます」
「む、鞭?」
「はい! この時に死んでしまう子もおりますが、神の試練に耐えられない子はいらないということでございますね。昼は貴族や王族のもとで家事炊事をおこない、夜の10時に教会に戻って滝行を行います。香料を入れた大浴場で蒸され、傷には塩を塗り込んで肉に下味をつけます。翌朝は、また朝の2時に起きて、朝のおつとめをして、貴族の皆様のもとへ働きに出るのですわ」
「……………………………」

 俺は頭を抱えていた。
 生贄聖女は、上機嫌で答えている。製造過程の説明が終われば、俺が安心して食べてくれると思っているのだろう。

「魔王様?」
「……嫌な予感しかしないんだが、生贄に選ばれなかったものはどうなるんだ?」
「はい、貴族や王族の愛人か下女になりますわ。遊郭に行くものもおりますし、密偵として鍛えられる子もおりますわね」
「……よぉし。今から人間界滅ぼしてくるから」
「ええええええ。ど、どうしてですか!」

「どうしても何もあったものか! 貴様、自分がどんな扱いを受けたかわかってるのか!」
「だって、私にはそれくらいの価値しかありませんもの!」
「……」
「騎士様のように強くはない。貴族のように尊い血もない。商人の子のようにお金もない。街の子のように親もない。だったら……これくらいしか……」
「……よいか、聖女よ。血筋や金や親がなくても、誰もが平和に生きられるよう政策を施すのが国家の役割だ。お前の国は、それを放棄しているといえよう」
「そんな……」
「それゆえに俺は……。ちょっと待て。その首輪は着替えるときに外さなかったのか?」
「え?」
 
 生贄聖女の首元には、瞳の色にあわせた菫色の首輪がはめこまれていた。武骨な鉄製で、奴隷の首枷のようにR1897と刻まれている。

「は、はい。これは、わたくしの製品管理番号ですし、けっして外すなと神父様に厳命されているのです。私が役目を果たしたときに、首輪だけでも人間界に帰ってこれるよう手配するから、と……」
「なるほど……」

 俺は、生贄聖女の首輪に手をかける。
「魔王様……?」 
 時を同じくして、ジンの切迫した声が響いた。
「魔王様、お逃げください! 生贄の首輪には爆弾がしかけられて………!」

 次の瞬間、魔王城には雷鳴が轟いた。否、聖女の首輪が爆発し、魔王城が崩壊したような音だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...