実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

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3-1.旅路と邸宅、意外な人物

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 ミラは、シルクと一緒に待ち合わせの街の城門前に来ていた。
 そこには、馬車が待機し、外にいるリリカが手を振っている。
 ミラは駆け寄った。

「おはようございます。お待たせしましたか?」

「別に待ってないよ」

 そのままハグして、身体がさっと離れる。

「あぅ……、ならよかったです」

 ミラは急にハグされたため、驚いて変な声を出していた。
 そして、ミラの前にシルクが歩いて姿を表す。

「それが例の犬?」

「はい、シルクって言います」

 リリカはシルクのことをじっと見つめた。

「えっと……この子、本当に犬なの?」

 その疑問に、すかさずシルクが犬のように鳴いた。

「わんっ」

「確かに犬みたいな鳴き方だけど……」

「はい……犬ですけど?」

「私の知っている犬と少し違う」

「多分、犬種が違うんだと思います」

「ああ、そういう……こと?」

 その疑問の表情に、ミラとリリカが同時に首を傾げた。

 立ち話も早々に、リリカの用意した馬車にミラは乗る。
 装飾にかなりの技術が使われているのか、立派な馬車だった。下手すると、この1台で家が建つほどの金額かも知れない。
 王家の馬車ほどではないが、リリカがただの平民ではないことにミラは気付く。
 
 その際、ちらっとリリカを見たミラ。
 試験会場前で最初に会ったときと違って、全体的に明るくて体調も良さそうだ。
 なぜ試験に対してそこまでの心理的重圧を受けているのかはわからないが、原因がわかれば何か治す手段に繋がるかも知れない。
 ミラは、すでに薬師なのだから、受け持った患者を治すための努力を自分に課すのだった。

 ――馬車が動き始める。

 予想よりもお尻の当たりの振動が強かった。馬車に乗り慣れていないミラは、それに最初は驚いた。
 この振動はまだ小さい方だという。魔法で揺れをかなり抑制しているとのことだ。

 話題を変えようと、この前の試験のことを聞くことにした。

「そういえば、試験の結果って……」

 ミラは、慌てて両手で口をふさいだ。
 聞いた感じでは結果が見えていた。
 面接もスフィアから聞いた悪い点数のはずだ。

「うん、残念だけど落ちてたよ。けど、今回は筆記がよかったから、実技がちょっと良ければ合格に届きそうだったかな。面接は……あれだけど。でも、この症状を治して、次は受かりそう!」

 面接の点数だけは受け入れ難かったらしい。
 一瞬だが、リリカはかなり複雑な表情を見せた。

「それならよかったです」
「ミラはどうだった?」
「合格でした」
「おお、何点くらいだったの?」
「290点でした」

 それを聞いたリリカは、目をパチクリした。

「それって」
「100点100点90点で290点です」
「筆記と実技が満点だったってこと?」

「……はい」
「すごいじゃない!」

「ありがとうございます。けど、筆記の方は最後の問題をおまけ正解だったらしいです」
「それでもだよ。最後の問題なんて答える気にもならないくらい難しかった!」

「え? 意外ですね……」

 ミラは、あの時、リリカを観察していて気付いたことを解答にしただけだ。
 平常の落ち着いたリリカなら、本気で解こうと思えば解けるんじゃないかと思った。

「ミラの私に対する評価ってそんなに高かったっけ?」

 リリカは、ミラに醜態しか見せていないため、本当は馬鹿と思われても仕方ないと思っていたらしい。

「いえ、純粋にあの問題はリリカさんを見て思いついた回答なので、1人では答えられませんでした。だから、その本人のリリカさんなら解けるんじゃないかと思って」

 実際、リリカの答案をミラが確認した際、書いてある場所が一緒で、答えも一緒だった。つまり、書いた分の答えはすべて正解だ。
 それだけのポテンシャルがあるはずだった。

「そ、そう……ありがとう」

 あまり褒められ慣れていないのか、本気で照れていた。
 頬が赤くなっていた。

 暑くない中で、「この辺、ちょっと暑くなってきたかな」と片手で顔をあおぎ始めた。

「いえ……」

「でも、ミラって変わっているよね? 私なんかのことを助けてくれるし、馬車乗るのも初めてみたいな顔するし……それがいいところだけど」

「そうですか? わかりませんけど、俗世の常識がないのは本当ですから」
「俗世って……ぷっ、面白いこと言うねっ!」

 ミラには、リリカの笑いのツボがよくわからなかった。
 しばらくの間、笑い声が馬車の中に響いた。


 ***


 馬車は川のほとりで小休止を取った後、再び走り出した。
 どのくらいの時間が経ったかはわからないが、そろそろ王都に着くという。
 トラブルが起きなくてよかったと思うミラだ。
 実家が教団を使って狙うならこういうタイミングのはずで、情報を収集されていたら、行き先もバレているはずである。
 ミラは隣のシルクを見て、「どうしてだろう?」と逆に疑問を持った。



 外の景色を見るなどし、旅を楽しむミラだったが、ふと気になったことをリリカに質問した。
 
「そういえば、リリカさん。ギルドの薬師試験って、女性しかいませんでしたよね? あれってなぜか知っていますか?」

「あれね、この時期は養成学院から多くの生徒が薬師試験を受けているからだね。あの学院は、男性生徒枠が少なくて1~2人で、それ以外は全員女性かな」

「なぜ男性が少ないんですか?」

「みんなが聖女候補を狙っているからだよ。聖女は女性のあこがれの職業ってのが常識だからね」

「じゃあ、リリカさんも?」

「うん……、そうだよ」

 言葉とは裏腹に、その肯定した声のトーンは低かった。
 ミラは、何か鬼気迫るような、強い圧迫をリリカから感じた。

「……そうですか」


(リリカさんにとって、聖女候補になることは、なにか特別な意味があるのかしら?)

 出会って間もないが、初めて見せる表情と感情に、ミラは少しだけ冷や汗をかいた。リリカから視線を離せずにいた。
 だが、両手に違和感を感じた。普段は感じないような不快な気分がミラを襲う。

「うん、ミラはどうするの?」

「私は……まだ決めてないです。王都に行くまでには決めようと思っているのですけど……」

 そこで初めて、ミラは自分の両手に視線を落とした。

 対面に座っているリリカが、ミラの両手をずっと握っていることに気付いたのだ。
 馬車の振動が手を伝って両手を揺らす。
 さっきの鬼気迫ききせまる様子と同時に、さり気なく握られていた。

「あの、これは……」

 ミラが視線で握った手を指し示す。

「あ、あれ~、ごめん気づかなかった」

 リリカはミラから手を離した。

 表情から、本当に気づいていなかったらしく、その手で頭をぽりぽりといていた。
 ミラとしても距離感に慣れるのは良いのだが、先に言ってくれると助かると思って聞いただけだ。本気で謝られると、ミラも反応に困った。

「あ、見えてきましたね」

 しばらく馬車が進むと、王都の城門が見えてきた。
 長い行列に加わることなく、横にある小さな扉から入るようだ。
 どうやら貴族特権で長蛇の列に並ぶ必要がないらしい。

 リリカはどこかの家の貴族だとミラは確信した。
 シャンプマーニュという名字から、記憶の中で王都にある貴族のリストと照らし合わせる。
 確かにその貴族は、実家で手伝わされたときの資料に名前があった。
 だが、喋り方も貴族っぽくないし、本番に弱いという貴族には致命的な欠点を抱えていることから、あまり意識させなかったことが気づかない理由だろう。


 王都の中をしばらく進んで、貴族街の邸宅に馬車が止まった。
 使用人だろうか。外で誰かが待っている様子だ。

 ミラは先に馬車を降りて、その後にリリカが続いて降りる。

「あれ?」

 ミラは数人の使用人を見て、顔がそっくりなことに気付いた。
(双子……? いや、何つ子かしら? 12?)

 数えて12つ子のメイドかと疑問を浮かべた。
 全部で13人のいち、12人が同じ顔。
 そして、使用人の残りの1人を見て、ミラは驚愕した。

「なぜ……ここに?」

 見知った顔を見つけたのだった。
 なぜか女性の使用人メイド服を着ている第2王女のフローラがいた。

 ミラはフローラを見たまま固まった。
 フローラがさっと近づいてきて、ミラに挨拶する。

「おかえりなさいませ(すいません、内緒でお願いします)」

 耳元に手を当てたフローラに、小声で頼み事をされた。

 ミラの後ろからリリカが疑問の表情で姿を表す。

「うちの使用人と知り合いだった?」

 リリカは改めてフローラを見て首を傾げた。

「あなたのようなメイドが家にいたっけ? でも顔をどこかで見たことがあるような……」

 フローラは慌ててミラとリリカの背中を押し、屋敷の中へ案内するのだった。



 ***


 扉を締めたフローラは、そのポーズのまま固まり、ようやく口を開く。

「リリカさん……。せめて、お泊りできる仲良しくらいは学院で作っていてくださいよ。私も人のことは言えませんけれどね」
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