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第1章 世界の半分をやろう
第1話 アタシだって男が好きなのォッ!!
しおりを挟む「よくぞ参った、勇者」
フード付きのローブに身を包み節くれ立った奇妙な杖を持った僕らの宿敵…魔王が玉座から立ち上がり僕らを出迎えた。
フードを#目深_まぶか__#にかぶっている為、その表情はよく分からない。かすかにその口元が見えるだけ…、そしてその口元が再び動いた。
ここは魔王の城の最深部、幾多の強敵を討ち倒し僕らはここに辿り着いた。
「二人組…、勇者が二人組とはさしもの儂も予想だにせんかった。片方は剣術に長け、片方は魔術に長ける。古の勇者は剣術も魔術にも長けた存在と聞いていたが所詮は人間、同時に放つ事は出来ぬ。その弱点を突こうと思うておったが…、いやいやこれは困った。片方は剣で儂に接近戦を…そしてもう片方は間合いを取って魔法で援護や回復を…いやはやこれは参った」
僕は佐久間修。今まさに魔王に対峙している。突然の異世界召喚に巻き込まれた男子高校生だ。
なんの変哲もない一般人だったけど召喚されたこの国では魔法の勇者シュウと呼ばれている。肉体的な強さは普通だけど魔法は上手く操れた。それと言うのも趣味のゲームに登場した攻撃魔法を試しに呟いてみたらなんと発動してしまったのだ。しかもそれはこの異世界エニッスクウェアにある魔法よりも数段優れていた。僕を召喚した国の人々は本当に困っていてまさに魔王に軍勢に滅ぼされそうにしていた。一縷の望みを…といった感じで巫女でもあったこの国の王女様が天に祈ったら僕らが召喚されたらしい。
「予想外…か。その参ったという言葉が本当なら覚悟を決めて欲しいところだね」
そう言って僕の前に立ち剣斧と呼ばれるゴツい武器を構えたのはブルーノさん、本名は青野大さんである。短髪のいわゆるイケメン、僕と同じ日本からの異世界転移者だ。誰でも聞いた事がある大企業に勤める26歳。いわゆるエリートサラリーマンだ。
名前の青野も大も異世界では馴染みのない発音らしかったので彼は青の英語であるブルーと野の字を合体させてブルーノだったら馴染みある名前かどうかと周りの人に聞いてみた。するとこの世界でも比較的よくある名前だったらしく、それならブルーノと名乗る事にしようという事になった。
ブルーノさんは近接戦闘を得意とするいわゆる戦士タイプの人でこの異世界エニッスクウェアでは剣の勇者と呼ばれている。彼いわく、仕事帰りには駅前のスポーツジムに通い体を鍛えているそうでそれが戦士としての素養になったのかなと言っていた。彼の手にしている剣斧というのは文字通りの武器で剣の刀身の一方の刃の部分に斧の刃の部分が付いた武器である。切って良し叩きつけて良しといった武器で、華麗さは無いがとても実用的だ。それというのもブルーノさんはつい先程その斧部分の一撃で強靭な肉体を持つドラゴンの首をただの一撃で叩き落としたぐらいだ。
「ふふ、覚悟…か」
魔王は笑った、そしてさらに語りかけてくる。
「戦う前に一つ言っておこう。実は待っておったのだ、儂は…。お前たちのような若者をな」
「どういう意味?」
ブルーノさんが油断なく剣斧を構えながら尋ねた。
「もし…」
ブルーノさんの問いかけに応じ魔王が応じる。その口元に笑みさえ浮かべて…。
「儂の味方になるなら世界の半分をやろう」
「な、なんだって!?たくさんの人が暮らしている世界を…、そんな簡単に分けるとかやろうとか気安く言うな!」
思わず僕は叫んでいた。
「よく言った、シュウ君!その通りだ、魔王よ覚悟してもらおう!」
ブルーノさんもグッと身を低くしていつでも切りかかれるように構えた。
「聞くだけでも聞いた方が良いのではないか?儂がくれてやる世界は女の世界。貴様らも男なら嬉しいのではないか?代わりに残りの半分…、男どもはもらっていくがな」
「な…?そ、そんな事が許せるかッ!!」
ブルーノさんはブンと剣斧を真横に大きく振るった。まるで魔王の提案を切り払うかのように…。
「そうだ!!」
僕もブルーノさんに同調しいつでも魔法を飛ばせるように精神を集中する。
「む…、剣の勇者よ…。儂には分かる、今…動揺したな」
にやり…、魔王が笑ったような気がした。
「欲しいのか?世界の半分…、悪い話ではあるまい。労せずにして手に入るのだ…」
「やああああッ!!」
ブルーノさんが切りかかった、それを魔王は杖で受け止める。
「儂はなにも人間を殺すのが目的ではない。いや、あのような残酷で愚かな生き物でも儂はむしろ生かしてやる」
「戯言を、戯言をッ!」
ブルーノさんが何度も切りつけるが魔王は易々と受け止める。いつもより力のこもった攻撃だが、冷静さを欠いているのかその攻撃は単調に思えた。いくら力ある攻撃でもその軌道がバレバレでは受け止めやすいのかも知れない。
「貴様は知らんのだ、あやつらがいかに残酷かを…特に女という奴が…」
「な、何ですって!?…えっ!?コレって…」
仕切り直すつもりか、ブルーノさんが後方に大きく跳んで間合いを取った。ブルーノさんは少し肩で息をしていたので僕はスタミナ回復の魔法を唱え、攻撃でも補助でもいつでも最適な魔法が放てるようにいくつかの魔法の候補を思い浮かべる。
「儂は絶望したのだよ、女という存在の醜さと残酷さに…。目覚めた儂の好みを…目覚めた新たな扉の先の世界をッ!!それを奴ら嘲笑い、あまつさえ爪弾きにした!!」
グッと拳を握り魔王は熱く語った。
「だが、お前達はそんな女でも受け入れられるであろう。それゆえくれてやる、世界の半分…女だけがいる世界を。儂は残る男だけを連れ…」
「ふ、ふざけるんじゃないわよォォ!!?」
急にブルーノさんの口調が変わり、やたら甲高い声になった。そして先程よりも凄いスピードで魔王に近づくと思いっきり突き飛ばした!!
「う、うわあっ!?」
先程まで完璧なディフェンスを見せた魔王が地面に尻餅をつきひっくり返る。
「アンタ、さっきから聞いていれば勝手な事ばっかり!!アタシはどうなるのよォ!?」
「な、何…?」
ひっくり返ったままで魔王は目を見開きブルーノさんを見つめている。
「ア、アタシだって男が好きなのォッ!」
肺の中の空気を1ccも余さず吐き出すようにしてブルーノさんが叫んだ。
「それをアンタが全部連れてっちゃったらアタシ…どうなるのォォ!?それにね、女が何よ!アイツらが残酷で陰険で性悪でオマケに自分本位な生き物だなんて分かりきった事じゃない!!だからこそッ…、だからこそ男同士だから分かる事があるんじゃないッ!!」
ハアハアとブルーノさんが荒い息を吐く、肺の中の空気を全て余さず吐き出して自分の言葉を語ったのだろうか。その荒れた息をしばらく整えブルーノさんは再び口を開いた。
「アタシだって…、一緒よ」
そう言ってブルーノさんは魔王に向かって手を差し伸べた。魔王が素直にその手を取った、そんな魔王をブルーノさんは引っ張って立ち上がらせた。
「お…、おまえ…。わ、儂の…い、いや、オレの気持ちを分かってくれるのか…?」
「当たり前じゃない…」
そう言うとブルーノさんは魔王の目深にかぶったフードを優しく取った。ついでに軽く片袖まで脱がしている。
「え?ちょ…、ちょっと…?」
僕はいきなりの展開に戸惑っていた。その間にも魔王とブルーノさんの話は進んでいく。
「ところでさ、アンタ。その男だけの世界ってどうやって作るの?」
「うむ。オレの魔力でな、この世界の男だけを引き寄せ、逆に女だけ遠ざけ世界を隔絶するのだ。網で魚をすくうようにな」
「きゃあーっ!それって良いじゃない、この世界のオトコ…ちょっと試したいなってアタシずっと思ってたの!あ、じゃあさ、じゃあさ、アタシがいた地球ってトコなんだけどそこからもオトコを連れて来れない?」
「ふむ…、全員は無理だろうがお前の来た足取りを辿れば引き寄せる事が出来るだろう」
「決まりね!アタシ、アンタと手を組む!」
そう言ってブルーノさんは魔王に抱きついた。それを受け入れた魔王、二人はきつく互いの体を抱きしめ合う。唖然としていた僕だがするべき事を思い出し僕は戦いの姿勢を取る。
「そ、そんな事はさせないッ!ブルーノさん、血迷っては駄目ですッ!!」
僕は攻撃魔法を放つべく魔力を解き放とうとする、しかし手を組んだ二人が僕に牙を向く。
「シュウ君…、いやシュウちゃん邪魔はさせないわぁ!」
「邪魔をするなら貴様は敵だ!」
魔王とブルーノさんが力を合わせて攻撃を放ってきた!
「ま、まずい!!よけなきゃッ!しゅ、瞬間移動ッ!!」
僕は途中まで準備していた攻撃魔法を中断して緊急避難的に瞬間移動をしようとする!
「う、うわあああぁッ!?」
目前まで迫っている攻撃に僕は思わず目を閉じた。瞬間移動よ、間に合ってくれと必死に願いながら…。
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