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第2章 天然男子を巡る思惑とそうはさせない佐久間修

第18話 それってあなたの都合ですよね?(ざまあ回)

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 僕の発言に政府からの役人は黙り込む、どうやら図星のようだ。おそらく有力者などに僕を一人でも多く目通りさせてそれを出世の糸口に、あるいはその有力者達にコネか貸しでも作るつもりなんだろう。

「で、ではどうなるんだッ、私は!?この状況、どうしてくれるんだ!?」

「それってあなたの都合ですよね?」

 昔、聞いた事があるセリフをちょっと嫌味に言ってみた。自分でも驚くほどに冷たい声だった。そんな事を思いながら僕は次に言う事を考える、すると出てくる出てくる。スラスラと、これがいわゆる立板に水ってヤツなんだろうか。

「そもそも僕はそんな全国お目見えツアーみたいな事をやらされる事なんか知らされてませんし、頼んだワケでもありません。それをする義理もありませんよね?」

「それに…ええっと、どなたでしたっけ?ああ、名前を覚える気もありませんからあなたで良いか。あなたとは初対面ですから当然この事に対する説明や相談も受けてません。いきなりやってきたあなたが僕の意思を無視して作った身勝手なプランになんで参加しなきゃいけないんです?それに署長さん、こんな話が進んでいたのを知ってました?」

「いーや、何にも聞いてないな。それこそ少年の言う通り今日いきなりやって来て、佐久間君の身柄をこちらに渡してもらおうとかかしてきやがってな」

「我々も同様だ。本来こういう事は県警本部に事前に説明があってしかるべきだろう!ましてや彼は特別警護対象、警備体制など万全を期して臨まねばならん。そちらはいきなりやってきて佐久間君を渡せと言うが、県警の警護を離れた瞬間無防備になるのですぞ?そういった点に注意も払わず何が後はこちらに任せろだ、言語道断だ!」

「う、うぐぐっ!!と、とにかくスピードが大事だった。私がやらねば他のだれかがするだろう、もっと上に行きたいんだ、私は!!それに、もう現に明日の午前から最初の面会は始まるようになっらている!分刻みで最大限の人数に会うようにセッティングしてあるんですよ!それはどうするつもりですか!?」

 エリート官僚は必死。

「うーん、呼び出しておいて僕がいないんじゃあ…、面会待ちの人に無駄足をさせてしまいますねぇ…」

 僕の言葉に救いでも見出したのか、窮地に立たされ慌てふためいていた女性がパッと顔を上げる。

「そ、そうですよっ!だから面会を…」

 この期に及んでいまだにこの政府からやって来たエリート官僚の女性は、自分の身勝手な申し出について謝罪をする事も無く、さらには恥知らずな要求を繰り返す事をやめない。

 こんな奴は勝手に破滅すれば良い。まあ破滅は無いにしても少しくらいは痛い目に遭わなければ反省もしない。エリート意識だけが肥大化し、人を食い物にしているヤツ。自分が悪い事をしているという感覚も麻痺し他人に迷惑をかけ続ける、そういうヤツが僕は一番嫌いだ。

「だったら、その面会とやらにはあなたが代わりに行けば良いんじゃないですか。そうすれば誰にも会えないという無駄足を踏ませずに済むじゃないですか?」

「え…?」

 デキる女といった風貌のエリート官僚の顔が埴輪はにわのようなポカンとした顔になる。

「羨ましいなあ、あなた…各地のお偉いさんや有力者の皆さんに次々と会えますよ。分刻みのスケジュールなんて一体何人の方に会えるんでしょう?きっと数え切れない程のコネや、これからも末永く良好な関係ってやつが築けますよ。いやあ、ホント羨ましいですね。僕がそこに同席する事は絶対にありませんけど…、頑張って下さいね」

 僕がそう言ってやると、署長さんが吹き出し、そして耐え切れなくなったのか笑い始めた。一方の官僚さんは死刑宣告を受けたような顔をした。

「な、ならせめて…。せめて…、会談が出来ないそれらしい理由を…、詫び状のような…相手に送る書面を書いてもらって…」

 コイツはまだ自分が要求が言える立場だと思っているのか…。また腹が立ってくる。

「する訳ないだろッ!!」

 僕は思わず叫んでいた。

「そういうものはこちらが会う約束をしたのにそれが果たせないから書くものだ!勝手な会うスケジュールを決めたのはそっちだろ!だったら自分が原因である事を正直に言って詫びれば良いじゃないか!!それに一体何枚の書面を書かせるつもりだ!?相当な人数と会わなければいけないんだろっ!自分でやれっ!」

「で、出来ない。そんな事をすれば私は…、私は…」

 ここまで言ってもコイツは…。何の反省もしないし、責任を取ろうともしない。どうしたものか…、もうほっといて帰ろうかなと思ったところ…。

「あー、少年。心配いらないよ」

「署長さん!」

「一応こういうやり取りは大事な話も多いからな。アタシは後で行き違いが生まれないように録音してあるんだよ」

「と、言う事は…」

「ああ、この音声データを複製コピーしてやンよ。幸いコイツの持って来た分厚い復帰プランの計画書…、ちっと眺めてみたが面会予定の人物リストざっと…500人くらいか?ここにバッチリ郵送してやンよ、一人残らずなあ」

「え?500人も!?」

「心配すンな!差出人はコイツ名義で…もちろん着払いでなあ」

「うわあ…、署長さん悪い笑顔が素敵ですぅ」

「へっへっへ、まぁな!アタシは最高だろぉ?」

「何て言うか、憧れの大人ですぅ!」

 僕の言葉に署長さんが悪い笑顔のままで応じた。

「話は決まったようだ。ま、そういう訳ですのでお引き取りを」

 県警のお偉いさんが外に通じるドアを手で示して項垂うなだれるエリート官僚を促した。しかし、立ち上がる様子も無い。

「どうされましたかな?この鴫田警察署、並びに埼◯県警が復帰プラン研修と同時に警護も引き受けます。また見たところ、佐久間君はあなたにたいへん不信感を持たれたようだ。これ以上ここにとどまれば不信感が増し、いずれは嫌悪感へと変わる事でしょう。そうなる前に…。ささ、お帰りはお早めに。こちらですぞ」

 県警のお偉いさん二人はそう言うと、会議室のドアの両端に立っていた鴫田署の人ではないスーツ姿の女性二人に目配せした。きっと県警本部というところの刑事さんなんだろう、その彼女達が項垂れていたエリート官僚の女性の両脇に抱えると室外に連れ出した。

「お客様はお帰りだ。二度とここに戻って来ないようにしっかりと車に乗せるまで面倒を見て差し上げろ。そして万が一、また署内に入ろうとするような事があれば丁重に追い返して差し上げろ。しつこい場合は構わん、逮捕しろ!」

 開け放たれた会議室のドアの外、近くにいた警官達から了解した旨の声が上がった。



 中央からの役人を追い返して三十分ほど経った頃…、署長室にて。

「いやーはっはっは!愉快、愉快!普段何かにつけてデカいツラをしてくる中央に一泡吹かせてやりましたな!」

「まったく、まったく!いきなり現れて、佐久間君の身柄はこちらで…なんて吐かしてきた時はひっぱたいてやろうかと思いましたよ」

「ははは、そうそう!しかし、真賀里君、君もなかなかやるじゃないか!よくこの数日で佐久間君とこれほどの信頼関係を築けていたなんて!まさに今回の大金星の立役者だ!」

 県警の幹部達は上機嫌に話している。

「いえ、実際に警護に当たったのは部下達でありますので…」

 浮かれ気味の県警幹部達とは対象的に真賀里署長はあくまでも冷静に応じる。

「いやいや、謙遜はいい!彼が復帰プランをこの署内で受けたいと申し出たのは君に対してだった。よっぽど信頼されてなければこうは言われない!」

「そうだ!それに….し、寝食を共にすると彼は言っていたなっ!だっ、誰だ、誰なんだ!?ええい、食事の方はこの際どうでも良い!問題は寝る方だ!」

「そうだ!寝る…、それも共に寝るような間柄の者がいるのか?この署内にはッ!良いッ、良いぞ!実に良い!」

「うむ!非常にディモールト非常《ディモールト》ッ、非常にディモールトに良いッ!!仮にその何某なにがしかと結婚でもしてみろ!そして生まれてきた赤ん坊が男だったら…!大金星…、いや金メダルとも言えるだろう!」

「真賀里君!その…佐久間君とそんな間柄になったのは誰か把握してるのかね?」

「いえ、それは分かりませんが…。しかし、少年…いや佐久間君はまだ十五歳…未成年と同衾どうきんはさすがに…」

 マズいんじゃないの?と言わんばかりの真賀里署長。

「ええい!分からんのかっ!そ、それに十五歳と言えども同意さえあれば…」

「本部長ッ!?」

「ま、まあ良い。今回の警護に当たったのは六名だったな。そのうちの誰かだろう!それとも複数か?うんうん、今時珍しい話だが彼は特別に激しいのかも知れん。まあ、今はそれで良しとしようッ!その六名が熱心に警護した事も彼の信頼を勝ち得た一因だろう」

「ならその六名を昇給でもさせるか?やる気も出るだろうし」

 幹部達は勝手に盛り上がっている。

「いや、この四月一日付けで定期昇給をさせたばかりだろう。この短期間で二回も昇給となるとないささか他とのバランスが悪い。おおやけに出来る手柄でもないし…。そうだ!真賀里君、彼女達の夏のボーナス査定に一つプラスをつけてやれ!」

「おおっ!そうだな!それなら…」

 勝手に盛り上がり続ける幹部達になんだかな…と感じる真賀里署長であった。
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