シン・三毛猫現象 〜自然出産される男が3万人に1人の割合になった世界に帰還した僕はとんでもなくモテモテになったようです〜

ミコガミヒデカズ

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第4章 不意打ちから始まる高校生活

第56話 だ、男子高校生…ナマ着替え…?

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 二時間目、美術。当初の予定では授業を一年A組の教室から美術室に移して…となるはずだったが、まだ校内では男子生徒に慣れていないのではないかという事になり場所はそのまま九条先生がこちらにやってきたのだ。

なんて言うか意志の強さが感じられる太い眉がそうさせるのだろうかちょっと骨太な男性的な印象すら受けるような先生だ、いや十分に整った顔立ちなんだけれど。

 その九条先生は授業が始まると僕達に鉛筆で静物画を描かせていた。描くのは各生徒が持つ物…、消しゴムでもノートでも教科書でも良い。とにかくなんでも良いから描けと言う。

「描写は正確さと精密さ、そして見た物の記憶が消え失せる前に描ききるスピード。その為にはもっと行くぞ、オラ!オラオラオラ…」

 僕達生徒と同じように先生もまたスケッチをしているのだが…これ美術…なんだよね?この授業。普通、絵を描いていてなかなかオラオラって言葉は出てこないんじゃないだろうか。

……………。

………。

…。

 三時間目、国語。担当は原海はらうみ先生、もちろん女性だ。苗字が原、下の名前が海、漢字二文字でフルネームだ。

 原先生は中年を過ぎたくらいの年齢の和服を着た人だった。ドッシリとした…地面に大木がしっかり根付いているような印象を受ける。

 その原先生が大河が流れるように悠然と授業を進めていく。教科書に書かれているのは森鴎外もりおうがい舞姫まいひめ、それを順番に朗読させある程度物語が進んだ所でその読み進めた部分の内容理解や表現方法について解説していく。

 当初は淡々と内容に沿って授業が進められていくのだが、原先生はいきなりヒートアップをする事があるようだ。例えれば雲ひとつ無い晴天からいきなり雷が落ち嵐になるような…。それが今、目の前で起こっている。

「ぬうっ!この主人公の態度たるやなんだっ!!身重みおもの恋人を打ち捨てて、わずかばかりの金だけ置いて自国に自分だけ帰るなど男の風上にもおけぬ!!」

「ええー?先生ー、だけど付き合えて妊娠できただけラッキーだよ。世の中、男の子と付き合えるのって何万人にひとりの確率だよー?」

「そうだよ、ナマの男の子見たのなんてアタシ今日が初めてなんだし」

 憤慨する原先生をよそにクラスメイト達は付き合えただけラッキー、直接見る事が出来ただけマシだよと言っている。

 男の割合が3万人にひとり…、そうなると県内でも同学年の男子生徒って何人いるんだろう。そんな事を考えているといきなり原先生から声がかかった。

「佐久間…、おまえはどう思う…?」

「えっ!?ぼ、僕ですか?」

 いきなり名を呼ばれて僕は少し戸惑った。しかし、これは国語の授業だ。数学みたいに正解がひとつしかない訳じゃない。問われたのはどう思うか、それなら僕が感じた通りに言えば良いんじゃないか…。

「僕は…、この主人公には共感できません」

「ほう…?」

 先生は一声洩らしそのままこちらを注視している、多分このまま続けろという事だろうか…そう解釈した僕は言葉を続けた。

「僕はまだ高校生なのでこのような状況になった事はありませんが、少なくとも不誠実だと思います。なんて言うか…そのまま結婚するとかしたら良いのではないかと…」

「ふむ…」

「この主人公…まったく職が無い訳ではなく、現地の日本新聞社の特派員みたいな形で食べてはいけているんですし…。贅沢は出来ないかもしれませんが恋人とそのお母さんと暮らしていけるんじゃないかと…」

 僕の言葉を先生はまっすぐ見つめながら聞いている、そこで僕は頭の中で考えをまとめながら続けていく。

「それに…主人公は語学にも通じているんだし、それを活かせば現地での仕事が他にもあるかも知れません…。より安定した仕事とか…いずれにせよ好きになった相手なら一緒にいて、出来る事なら結婚してずっと大事にしていきたい…僕ならそう思います」

 ざわっ…。

 教室内が騒つく、なんか見られている感じがしたのでクラスを見回すとみんなの視線が集中している。

「結婚って言った…」

「ずっと一緒にいてくれるの…?」

「好きになった相手と…、お金や地位があるから名義だけ貸してやるとかじゃないんだ…」

 ざわざわ…何やらクラスメイト達が呟いている、なんだかとんでもない事を言っている人も…。

「あっ、そうか…」

 僕は研修などで教わった事を思い出した。現在、地球では男性の割合が3万人に一人の割合だ。それも人工授精などを駆使してのものだ、つまりは男性というだけで希少価値なのだ。

 そうなると極めて稀少価値がある男性を欲する人が出てくる、政治家とか大企業のオーナーとかいわゆる上流階級などである。大金や地位などを手土産にどうかウチに来てくれという訳だ。それは所属だけして働かなくても役員待遇だったり、年額いくらで結婚とかいうもの…。

 そうなると全く働かない人なんかも出てくる。…いや、それだとまだ良い方で傍若無人な人もいるとか…。もっとも男性そのものが数少ないから直接的に被害が出るのも少ないようだが接触する範囲にいる人には迷惑な話だ。

 しかしそれでも男性に対する憧れがあるのも事実、なんて言うか男性消失以前の普通の世界で言えば普段の性格は最低だけどカメラの前では可愛い子ぶってる女性タレントみたいなもんだろうか。

「ふ、ふふふ…、ふははははっ!!」

 突然、大きな笑い声がした。見れば原先生が愉快そうに笑っている。

「よく言った、佐久間。面白い奴だ…気に入ったぞ。そうだ、昔はこういう男がいたものだ。それがいつの間にかショーケースの中にしまい込むような扱いとなり、間違ったものがさも正当であるかのような世の中となった。だが、お前は違うようだ。昔の男が持つ気概を感じる」

「は、はぁ…」

「佐久間…、佐久間…修だったな。より精進するのだ、楽しみにしているぞ」

 そう言って原先生は授業の終わりを告げたのだった。

……………。

………。

…。

「さ、佐久間君…」

「あ、あの…」

 授業が終わると比較的近くの席の何人かのクラスの子達が話しかけてきてくれた。まだ遠慮がちではあるけれど…。

 一時間目、二時間目が終了した時の休み時間ではチラチラとこちらを見てはいるけどなかなか話しかけては来ない…、警戒…とまでは言わないが遠慮していたような感じだった。

「あ、はい…?川中がわなかさんに…、三良みつよしさん…だよね?」

「ふぐっ!?」

「ひゃいっ!?」

 変な声を出して声をかけてきた二人がビクッと動きを止めた。一人は背が高く身体つきがややしっかりしている川中さん、名前の読み方は『かわなか』ではなく『がわなか』さんとの事、変わった読み方だったから覚えやすかった。もうひとりは三良さん、こちらはやや背が低い。そう言えば二人とも同じ部活じゃなかったっけ…。

「どっ、どうしたの?な、名前間違っちゃった?自己紹介の時、メモを書いて覚えようとしたんだけど…」

「わ、私の名前を…」

「う、うん。確か二人とも同じ部活で、料理をする美食部じゃなかったっけ?」

「「はうっ!?」」

 二人の女子が膝をガクガクさせ始めた、今にも崩れ落ちそうなのを二人が体を支え合ってなんとか持ちこたえている。

「だ、大丈夫?」

「は、はい」

「わ、私達の部活まで覚えていてくれて…」

「そ、そりゃあ…、メモもしてたし。完璧じゃないかも知れないけど…」

 そう返事をしていると他の方から声がかかった。

「じゃ、じゃあさっ!」

「わ、私達は?」

 見ればいつの間に来たのか何人もの女子達が近くに来ていた。

「え、えっと…、こちら側から駒田さん、篠塚さん。んで、黒間手くろまてさんに原さんで…、吉村さん中畑さん…漢字が難しい河埜こうのさんに山倉さん、最後に江川さん…あ、合ってるかな?」

 ちょっと不安になり最後の方は自信がなくなってきたけど名前を言ってみたところ無事に全員正解だった。それというのも人工授精で生まれた子はその影響からか髪の色が赤だったり青だったりとみんな特徴的だったりする。今回はそれが幸いして覚えやすかったのだ。

「お、男の子が…、佐久間君が名前を覚えていてくれた…」

 僕個人としてはそう大した事ではないんだけどクラスの子達はやたらと感動している。うーん、なんていうか…喜ばれるハードルが結構低い。『そんな事で良いの?と思わず尋ねたくなる。

「あっ!つ、次の授業の時間が来ちゃうよ!」

 誰かがそんな声を上げた。

「次は…体育、やだなー。着替えるの面倒」

 別の子が応じた。その声に僕も反応する。

「そうだ、ジャージに着替えなきゃ。急がないと遅れちゃう」

 そう言って僕はバッグからジャージの入った袋を取り出し着替えようとした、すると近くにいた子が反応した。

「おひょっ!?さ、佐久間君!こ、ここでッ、ここで着替えるでござるか?」

「だ、男子高校生…ナマ着替え…(ゴクリ…)」

「あっ…」

 僕は思わず声を上げた。そうだ、中学校、いや小学校のある程度の学年になった時には女子は別の場所で着替えをしていたじゃないか…。

「ごっ、ごめんね。ちょっと別の場所で着替えて来るよ」

 慌てて僕は謝りながらジャージを入れた袋を手に教室を出ようとする。

「い、いやいや。お気になさらず!!」

「そ、そうでござるよ!そこはクラスメイト、みんなで一緒に…」

 周りはなんだか必死に止めるが逆に言えば僕もまた周りの女の子達の着替えを見る事になってしまう、それはそれで問題だ。

「さ、さすがにそれは…、なので別の場所で着替えます」

 僕はジャージが入った袋を手に教室を出る事にした。
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