シン・三毛猫現象 〜自然出産される男が3万人に1人の割合になった世界に帰還した僕はとんでもなくモテモテになったようです〜

ミコガミヒデカズ

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第4章 不意打ちから始まる高校生活

第64話 佐久間修の有用性に気付き始めた者

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 河越八幡女子高校で行われる文化祭における飲食を伴う模擬店についつ当事者の生徒達よりも原海・岡山の両教諭が自分勝手にヒートアップしていた頃…。

 東京都千代田区霞ヶ関…、日本の政治政策の中心地とも言えるこの場所には数多くの政府機関がある。

 その政府機関のひとつ厚生労働省…その厚生労働省庁舎ビルの隣にはもうひとつ…当の厚生労働省の庁舎ビルとまったく同じ形をしたビルが建っている。その形といいすぐ隣に建っている事から人間に例えれば瓜二つ、双子のきょうだいが並んで立っているような印象を受けるだろう。

 その厚生労働省庁舎ビルの隣に建っているビルの名称は男性保護省庁舎ビル。元々は厚生労働省の一部署である『男性保護課』としてスタートした。しかし男性出生数の改善は一向に叶わず、また地球規模で起こった男性消失現象の解決や原因究明並びに男性出生数の改善がまったく見られない事からその重要性はすぐに高まっていき課から部へと、さらには男性保護庁へとどんどん格上げされていった。

 だが、格上げされたものの庁のままでは予算や権限などを上位組織の厚生労働省に握られている。そうなると有効な手立てを打とうにもできやしない、さらにはその資金を上位組織側が自分達にキックバックするなどの汚職なども発覚し危機感を募らせた。

 そこで時の政府は厚生労働省から指図を受ける事なく独立した省を創立した。さらにはその独立性をアピールする為に元々あった厚生労働省庁舎ビルの隣りに全く同じ形のビルを作り、厚生労働省と同格であると見た目にもら明らかにしたのであった。いや、むしろ男性に対する政策全部に絡むという面からすれば厚生労働省より注目度合いはより高いと言える。

 その男性保護省庁舎ビル内の一室にてテーブルを挟んでソファーに座った状態で二人の人物が相対していた。二人とも女性、共にスーツを着ているいかにも官僚といった感じだ。そのうちのひとり、三人がけの横長のソファーに座っている女性…肩のあたりで髪を切り揃えた真面目な印象が女性が正面に対面する女性に電話帳のような厚さがある資料を手渡しながら口を開いた。

阿久根あくね課長…こちらがP11ピーイチイチ…、160103Nイチロクマルイチマルサンエヌ、佐久間修君のデータになります。万一のデータ流出などを防ぐ為、通信でのやりとりは避け書類ペーパーにてお持ちいたしました」

「ありがとう…、阿知須あしす君。ふむ…、P11…と。ああ、そうか。埼玉県の人だったね、彼は…」

 そう言うと阿久根課長と呼ばれた女性は手渡された分厚い資料に目を通し始めた。渡された側のこちらは髪の長い女性だ、その彼女はさっそく資料をめくり始める。先頭近くのページには対象者である佐久間修の個人情報《パーソナルデータ》が記載されていた。

 ちなみにP11の11とは都道府県名を表している。とは日本の47都道府県を北から順に番号を付けていった場合、北海道…青森県…と来て11番目になるのが埼玉県だからである。その11という数字から阿久根課長は埼玉県という事を思い出したのであった。

「ふゥん…」

 パラパラとページを手繰りながら渡された資料にササッと目を通していく、そこに書かれていたものは医療センター内で判明したデータ…これはすでに知らされていたものと大差ない。そこに加筆された内容もあるがせいぜい埼玉県警河越八幡警察署内で研修を受けていた日々について記されたエピソードの数々、まあそれはそれで面白さはある。というのも佐久間修少年の暮らしぶりだ。彼の世の男性とはかなり違う考え方、価値観を持っているようであるからだ。

 そして彼の健康データや日常生活について書かれた部分、その数ページを読み終えるとその後に続いて記載されていたのは0から9までの数字やアルファベットなどがびっしりと紙いっぱいに敷き詰められたかのように書かれたページである。それがこの電話帳のような分厚い紙の束のほぼ全てを占めているのだ。

 一般人から見ればただの数字やアルファベットの羅列にしか見えないそれであるが阿久根課長は熱心に目を通していく。

「非常に期待できる男性ですね、佐久間修君は…」

 阿久根課長に今回の資料を手渡した女性がどこか満足気に話し始めた。

「この彼の遺伝子情報…、相性にもよりますが通常の生殖可能男性よりも高確率で提供される精子からは男性が生まれる確率が高いという事が分かりました。もちろん母体となる女性との相性にもその確率は左右されますが…」

 今回、阿久根課長に手渡された資料は佐久間修の健康データと|人物像、そして彼の生殖能力についての遺伝子情報を記載したものだった。ただの無意味なランダムにしか見えない英数記号の配列がなんと佐久間修の遺伝子情報を解析した生殖能力のデータなのである。そこから分かるのは男児の妊娠確率…、およそ三万人に一人しか男性が生まれてこない中でそれこそ0,0001%…百万分の一の確率でも男性出生確率が高い事は国を挙げて喜び尊ばれる事だ。

「先程そのエピソードは読んだ」

 紙の束を相変わらずパラパラとめくりながら阿久根課長が応じる、だがその視線は資料に書かれた文字の羅列からはらさない。

「非公式ながらIDカード接触による簡易妊娠率鑑定を河越八幡警察署の女性刑事2名と行ったようだねぇ、武田なにがしと館本なにがしだったっけ?その数値はそれぞれ0,8%、0,9%超え…そのベースとなる確率は不確定要素によって上下しそうだがねェ…」

「はい、1パーに近い確率です。もしこの確率が他の女性にも同じようになるなら…」

「男性出生数の改善が期待される…
かねェ…」

 パラパラパラパラ…、指の腹を使い紙をめくる音が室内に響く。阿久根課長は相変わらず文字の羅列に目を走らせ続けた、そのうち彼女の口からは楽しそうな声が洩れ始める。

「ふ…、くふふっ…」

 そしてそれはいかにも楽しげな大きなものとなっていく。

「…あははははっ!」

「ど、どうされたんですかっ、阿久根課長!突然笑い出して…」

 戸惑いながら阿久根課長に尋ねる阿知須あしすと呼ばれた女性、その姿勢は座っていたソファーから半《なか》ば立ち上がりかけている。

「これが笑わずにいられようか!?あははははっ!!面白いよ、実に面白いよっ!」

 幼い子供が何か面白い物を見つけた時のように心底楽しそうに笑う阿久根課長、その瞳は何かに酔いしれているような…それでいてどこか狂気さえも感じられるかのような笑みを浮かべつつもページをめくる手は止まらない。同時に笑みを浮かべている為に細められているその瞳もまた文字の羅列を追い続けている。

「なんなんだい彼はッ!?こんなのまるで別の生き物じゃないかっ!あはははははっ!!この遺伝子情報を示しているだけの英数記号がッ、まるで神が記した奇跡としか言えないような配列じゃあないかッ!!くふっ…くふふふふっ!!なんという特異さ、なんというバランスッ!!」

「は、はあ…」

「これはものすごい事だよっ!!こんな凄まじい特性を持っていたらハッキリ言って支離滅裂、とても子なんて成せないよ!たとえ受精できても受精卵がとてももたないよっ!出産するまでに自壊する…、それも妊娠初期にね。うんっ、自覚のない流産になってしまうだろうねっ!」

 興奮した様子で阿久根課長は語る、その様子は夢中になれるおもちゃを与えられた子供のようにはしゃいでいる。

「えっ!?そ、それは子供が生まれないという事では…受精卵が自壊なんて…」

「そうなんだよっ!あははははっ!!」

「わ、笑ってる場合ですかっ!それでは何の意味も無いではないですかッ!?せ、せっかく高確率で男性が生まれるかもしれない精子の持ち主であったのに…」

 阿知須の落胆する声が室内に響く。

「そう、まさにバランスブレーカー!男子出生率の常識をぶっ壊すバランスブレーカー精子だよ!だけど同時にその受精卵さえも壊す破壊者ブレーカーだと…そう思うだろうねェ…、この遺伝子情報を調べたら…。うん、普通はねェ…」

 先程までずっと上げていた笑い声、それをスッと落ち着いたものに変え阿久根課長は阿知須の落胆した声に応じた。

「えっ…?」

「だけどねェ…、同時にすごく良いんだよ…このバランスが…ねェ」

 渡された資料の束をテーブルの上に静かに置いて阿久根がふう…と息を吐いた。

「こんな危なっかしいと言っても良い特異性に満ちた遺伝子…、とても普通の女性が持つ卵子ではもたないものだよ。だけど同時にとてつもないバランスを持った遺伝子情報だよ、そのバランスが受精卵の自壊を防ぐ。あまりに特異な遺伝子を持つ精子、その精子には同時に卵子の自壊を防ぐ遺伝子情報も持っているんだよ」

 すう~っ!ひとつ大きく息を吸って阿久根は言葉続けた。

「このバランスがほんのわずかでも…それこそ地球一周の距離がわずか1ミリ狂っただけのような差異でもこの奇跡のような受精卵自壊を防ぐ遺伝子情報は失われてしまうだろうねェ…」

「そ、それじゃあ…」

「うん、間違いない。彼はまさに奇跡の遺伝子情報を持つ男性だよ、ああっ!」

 突然、阿久根がその身を震わせたかと思うとソファーからガバッと立ち上がった。

「会いたいなァ…、調べてみたいなァ…、佐久間修君かァ…。ああっ、居ても立っても居られないよォッ!」

「あ、あの…、阿久根…課長…?」

 恐る恐るといった表情で阿知須は自分の上司の名を呼んだ、これはきっと面倒な事を巻き起こすのではないかと諦めの気持ちさえ抱きながら…。

「なァ…、阿知須君」

 そんな部下の心も知らず阿久根課長は部下に話しかけた。

「僕は佐久間君に会いたくなってきたよ、だから彼に会えるように調整をしてくれ!良いだろう?」

 ニンマリと満面の笑みを浮かべながら阿久根は部下に要望を告げる。一方で阿知須はそれがどんなに無茶振りか…、そして同時にいつもの事なんだよなあと小さなため息をくのだった。
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