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第5章 佐久間修、ここにあり!
第66話 不機嫌な提案
しおりを挟む「あの…、みんな…。受けても…良いかな?」
なんの気なしに僕はクラスメイト達に聞いてみた。みんな乗り気という訳ではなさそうだけどとりあえずまあ良いかな…といった反応だ。
「どっちみち、模擬店やるんだし…」
「佐久間君もやるなら…」
そんな感じだったたので僕は原海先生にやりますと応じた。
「よし、ならば米を使った料理勝負…古式に則り八木対決を執り行う。御簾田、佐久間の両名、並びに両クラスとも良いな!」
「「はいっ!」」
僕と御簾田さんの返事がハモる、そして御簾田さんは僕の方に向き直ると元気な声を上げた。
「よーし!!佐久間君ッ、米料理で勝負だッ!」
どこか昭和アニメの主人公のような香りが漂う言い回しで御簾田味子さんが挑戦の言葉を投げかける、そうなると僕も受けて立たねばならない…ライバルキャラのように…。
「そうこなくっちゃな、勝つんは…ワイやで!」
「え?なんで…関西弁?」
あ、あははは…、懐かしアニメが好きなもんで…とは言えなかった僕は強引に話題を切り替えにいく。
「そ、そう言えばお米の料理対決ですよね!何作ろうかなあ、前にも作ったけどカレーライスかなあ…いやいやそれともオムライスとか…悩みますねえ」
あえて明るい声で作るメニューを提案していく。だが、そこに思わぬ形で待ったがかかった。
「カレー?オムライス?何を言っているのだ、佐久間」
気は確かなのか…とでも言いたげな表情と声で原海先生が僕に声をかけてくる。
「へ?だってこの料理対決、お米を使った献立で勝負するんですよね?だからご飯もののメニューを言ってみたんですが…」
「しまった!!」
岡山先生がしくじったとばかりに声を上げた。
「ふふふ…。佐久間、お前は八木対決がなんたるかを知らぬと見える…」
「八木対決を…知らない…?そ、それってどういう…」
お米料理で対決するんじゃないの…?
「先程お前はクラスメイトの魁・ライトニングから八木対決について聞いていたようだが…、その内容を忘れたのか?」
「えっと…。確か江戸幕府第八代将軍の吉宗が新田開発で獲れたお米の出来を実際に食べて…」
「実際に…、そうだ…炊いた米を食べてその良し悪しを判じたのだ。これがどういう事か…分かるか?」
「炊いたお米を食べて判断した…って事ですよね?…あ、ま、まさかッ!?」
「気付いたようだな…。そう、この八木対決は炊いた米の美味さを競うものだ。つまり、白飯の美味さをな…」
「えええええっ!!?」
「つまり良い米を選び、上手く炊く…それこそが八木対決の真髄…」
原海先生がきっぱりと言った。
「そ、そんな…。僕にはお米の良し悪しを見極める目なんか無いし、まして上手な炊き方も知りませんよ…」
「米に関しては心配いらん、私の元で栽培した有機農法で獲れた米をやろう。無論、御簾田も同じ米を使わせる」
「それなら…まあ、材料は一緒にはなりますけど…」
お米の炊き方はただ研いで炊飯器にセットするだけだし…、正直工夫も何もない…。
「ふむ…。ならば米だけではなく調味料を使う事だけは双方に許可しようか…」
「えっ、調味料?砂糖とか塩とかの…ですか?」
「うむ、その認識で合っている。ただの炊き立ての飯を食うだけでは文字通り味気ないものとなろう。ならば味付けだけは諒としておこうか」
「は、はあ…」
「ただし、具となってしまうゆえ葱などの薬味も使ってはならん」
「うえええっ?」
思わず変な声が出る。
「対決は十日後の金曜日とする。両クラス共、全力を尽くせ」
原海先生がどっしりとした声で僕達に言った。
「えっ?金曜…日に?」
「って事は…前日祭だ…」
ウチのクラスだけでなく他の生徒達もザワザワとしだした。
「前日祭…?」
聞き慣れない単語に思わず僕は呟きを洩らした。その呟きに岡山先生が反応した。
「我が校の文化祭は五月二十二日、二十三日の土曜日曜に行われるがその前日の金曜日の午後に前日祭というものが行われるんだ」
「はあ…、金曜の午後に…。でもなんでわざわざ前日にするんですか?」
「主な理由としてはふたつある。ひとつ目は土曜、日曜の文化祭の本番前に行うリハーサルとしての意味だ。土曜日の朝に始めてみたら運営に致命的な欠陥があった…となってしまったら文化祭が成り立たないからな」
「なるほど…。では…、もうひとつというのは…?」
「校内の生徒や我が校と関係が深い地元の方々に落ち着いて文化祭を楽しんでもらう為だ。土曜日曜の両日は他校などから訪れる方もいるし、我が校の生徒にしてもその対応をするだろうからな。そうなれば自校の文化祭を楽しめるのは前日しかないだろう…」
今回の八木対決、言ってしまえば学内の内輪揉め。それにA組とD組が巻き込まれたようなものだ。そういう意味では余計な混乱を招かないようにするという意味もあるのかも知れない。
「うーん、まあいっかあ…」
「そーだねー。でも、御簾田さんがやるならウチら負けイベみたいなモンだし…」
「佐久間君と共同作業体験イベントと思えば…」
ウチのクラスからそんな声が聞こえてくる。なんだろう、あきらめムードみたいなものが漂っている。それを見て原海先生が鼻を鳴らした。
「むっ…」
その表情から原海先生はいかにも不機嫌といった感じだ。
「そう言えば…この勝負の勝者に対する褒美についてまだ言及していなかったな…」
すっ…。
原海先生が前に進み出た。
「褒美?」
「そうだ、佐久間よ。元々この八木対決は将軍徳川吉宗公が始めた米の味比べが始まりだ。当然、その年の一番に選ばれた米を作った村には褒美が下される…」
その原海先生が僕のそばに来てポン…と肩に手を置いた。
「「「「きゃっ!!?」」」」
体育館内に生徒達の声が木霊する。
「今回の八木対決、D組が勝った場合…」
そこまで言って原海先生はいったん言葉を切った。そして左から右へとぐるりと視線を巡らせる。
「佐久間修…。お前は一週間、一年D組に移籍してもらう!」
「「「「ええええええーっ!!!?」」」」
「「「「きゃあああああっ!!!!」」」」
「「「「うおおおおおっ!!!!」」」」
まさに三者三様、一年A組からは悲鳴が上がり一年D組からは喜びの歓声、その他のクラスからは驚きの声が体育館に響きわたる。
「せ、先生ッ!そ、そんな勝手になにを…」
決めちゃってるんですか…と言おうとした。しかし、その言葉に割って入るようにして原海先生が僕に言って聞かせるように話しかけてきた。
「佐久間、お前はこの学校に来たばかり…。これを機にクラスで一致団結し交流を深めるも良し、あるいは負けたにしても他のクラスの者と知遇を得る事になる。決して無駄となる訳ではあるまい」
「それはまあ…、そうですけど」
「ふふん。なにもずっとD組に移る訳ではない」
「それなら…」
「もっともD組にずっといたいというのであらばその限りではないがな」
「えっ!?」
そんな原海先生のやりとりにウチのクラスの女子生徒達がざわつき始めた。
「ヤ、ヤバいよコレェ!」
「し、しかも一週間とか言って佐久間君を囲い込む気マンマンじゃん!」
「だ、誰だよ、この勝負をやろうなんて言ったのは…」
「オ、オマイら、もちつけッ!」
「これがもちついていられるかっ!」
わーわー、ぎゃーぎゃー、A組は大混乱だ。一方のD組はやる気に満ち溢れ一致団結といった雰囲気、これはやる前から勝負あり…みたい空気が漂う。
「さあ、佐久間…。これは私からの挨拶代わりだ、男なら見事この状況を逆転してみろ!」
原海先生の言葉がやけに力強く響いた。
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