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第三章 人神代理戦争 勃発
十六話 誰を英雄と讃えるのか 其の拾陸
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空気が足りず、手足が動かなくなると涅槃寂静を握る力が弱まり、バサラは生み出された海の中に沈んで行く。
プルートはそれを見てまだバサラが確実に死んでおらず、その首を切り裂くまでは殺せていないと思い、槍を構え、最後の一撃を放とうと近付いた。
バサラに近づいた時、彼は目を開けた。プルートという神をこの短い間で分析して、自分を確実に殺しにくると知った上で自分の意識を一瞬だけ落とし、無理矢理呼び覚ます、あまりにも強引な行動。
だが、バサラにとって神を殺せるならそれくらいやってのけると自らを奮い立たせる、そんな無茶であった。
涅槃寂静の柄をギリギリで掴むとバサラは今出せる自分の全力、その一撃をプルートに放った。それは先程よりも必死から来る力強さであり、プルート自身、槍を挟むことが出来ず、直撃を免れない。
少年が見せた死の光景、プルートは自分がこの一撃で死ぬと確信してしまう程であった。
プルートに打つかる直前、海が割れた。
ネプチューンが生み出した海のフィールド、それを破壊したのはプルートの死が見えた瞬間、自身の攻撃が間に合わないと彼が判断した結果であった。
海のフィールドは決壊し、彼らは空中に放り出されるとバサラは呼吸を整えながらなんとか地面に着地する。ゲホゲホと水を口から出し、空気を吸いながら立ち上がるもその前にはプルートが彼が立ち上がるのを待っていたかのように座っていた。
「何だ? 待っててくれたのか?」
バサラは剣を地面に突き刺し、自分の水浸しの髪を捲り上げるとプルートに聞いた。それに対して彼は薄っすらと笑みを浮かべ、答えた。
「そうだ」
「幾らでもあんたの槍なら殺せたろ」
「かも知れないし、逆に殺されてたのは俺かも知れない。それはたられば論だ今はそんなのどうでも良い。プルート、俺の名だ。少年、俺はお前の名を知りたい。教えてくれないか?」
「神様ってのはどいつもこいつも何で名乗らないといけないんだ? 殺した奴ら全部名乗ってたからおかげで全員覚えちまってて始末困るんだよ」
「律儀だな、少年。意外と君と俺は似てるのかも知れん」
プルートはそう言い、バサラに笑顔を向けた。そこには敵意は無く、バサラはここまで一柱たりとも自分に敵意を向けなかった相手がいなかった故に、動揺した。
(氣を読んでも本心から言ってる。調子狂うなこの神とやるの)
「バサラだ、少年じゃねえ」
バサラが名乗るとそれを聞いたプルートは嬉しそうにし、彼は得物を構えた。
「そうか、バサラか、良い名前だな。バサラ、お前は神を殺しただが、その仕事は俺の役割だ、お前の役割では無い。」
「知らねえよ、お前らが奪うから俺も奪う側に立っただけだ。役割やら何やら関係ない。あるのは純粋なまでの殺意だけだ」
プルートが構えるのを見て、バサラも構えると彼らはほぼ同時に地面を蹴り、距離を詰める。神と人、それは紛れも無い違いでありながら、プルートとバサラは似ていた。
人でありながら神を殺し、神であるが故に神を殺す。そして、殺した相手を一度たりとも忘れずに覚えている。
神と人でなければ彼らは分かり合えたかも知れない。だが、今、彼らに与えられたものは人と神と言う違い。
ならば、その身で鎬を削り合う。
それ以外の和解はある訳が無かった。
プルートはそれを見てまだバサラが確実に死んでおらず、その首を切り裂くまでは殺せていないと思い、槍を構え、最後の一撃を放とうと近付いた。
バサラに近づいた時、彼は目を開けた。プルートという神をこの短い間で分析して、自分を確実に殺しにくると知った上で自分の意識を一瞬だけ落とし、無理矢理呼び覚ます、あまりにも強引な行動。
だが、バサラにとって神を殺せるならそれくらいやってのけると自らを奮い立たせる、そんな無茶であった。
涅槃寂静の柄をギリギリで掴むとバサラは今出せる自分の全力、その一撃をプルートに放った。それは先程よりも必死から来る力強さであり、プルート自身、槍を挟むことが出来ず、直撃を免れない。
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プルートに打つかる直前、海が割れた。
ネプチューンが生み出した海のフィールド、それを破壊したのはプルートの死が見えた瞬間、自身の攻撃が間に合わないと彼が判断した結果であった。
海のフィールドは決壊し、彼らは空中に放り出されるとバサラは呼吸を整えながらなんとか地面に着地する。ゲホゲホと水を口から出し、空気を吸いながら立ち上がるもその前にはプルートが彼が立ち上がるのを待っていたかのように座っていた。
「何だ? 待っててくれたのか?」
バサラは剣を地面に突き刺し、自分の水浸しの髪を捲り上げるとプルートに聞いた。それに対して彼は薄っすらと笑みを浮かべ、答えた。
「そうだ」
「幾らでもあんたの槍なら殺せたろ」
「かも知れないし、逆に殺されてたのは俺かも知れない。それはたられば論だ今はそんなのどうでも良い。プルート、俺の名だ。少年、俺はお前の名を知りたい。教えてくれないか?」
「神様ってのはどいつもこいつも何で名乗らないといけないんだ? 殺した奴ら全部名乗ってたからおかげで全員覚えちまってて始末困るんだよ」
「律儀だな、少年。意外と君と俺は似てるのかも知れん」
プルートはそう言い、バサラに笑顔を向けた。そこには敵意は無く、バサラはここまで一柱たりとも自分に敵意を向けなかった相手がいなかった故に、動揺した。
(氣を読んでも本心から言ってる。調子狂うなこの神とやるの)
「バサラだ、少年じゃねえ」
バサラが名乗るとそれを聞いたプルートは嬉しそうにし、彼は得物を構えた。
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「知らねえよ、お前らが奪うから俺も奪う側に立っただけだ。役割やら何やら関係ない。あるのは純粋なまでの殺意だけだ」
プルートが構えるのを見て、バサラも構えると彼らはほぼ同時に地面を蹴り、距離を詰める。神と人、それは紛れも無い違いでありながら、プルートとバサラは似ていた。
人でありながら神を殺し、神であるが故に神を殺す。そして、殺した相手を一度たりとも忘れずに覚えている。
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