幼馴染みと目指す冒険の旅【新しい天賦が目覚めたので、無双します】

なりちかてる

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序の章:雪解け水は骨まで凍る(Degelakvo frostiĝas ĝis la ostoj)

第8話 試練の間にて

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 そして、ぼくたちは何だかまた、風変わりな場所へとやって来ていた。
 天井は高く、広々とした空間だ。
 ——何だか、嫌な雰囲気だな……。

 肌がなんだか、ぴりぴりとする。
 本能的に、ここは危険だ、と告げている。
 引き返したほうがいい、と思うのに、どうしてか、脚を止めることが出来ずにいた。
 心臓が高鳴り、どくん、どくん……と胸が痛いほどに鼓動を刻んでいる。

 内臓を思わせるパイプや滑らかに曲線を描く、見たことのない装置などが並んでいる。
 ガラス窓がぐるっと、この空間を囲んでいるのだけど、窓はどれも曇っており、その向こうに何があるのかは、わからない。
 窓にはひびが入っているものもあるが、それだけだ。
 割れてはおらず、叩いてみても、びくともしない。

 左手には、昇ることのできない、急斜面の壁があり、ガラス窓との間で左にカーブした通路を形作っている。
 通路はぐるりと一周しており、歩き続けていると、また、ぼくたちが入ってきた扉へと戻ってきてしまった。
 天井は、そのさらに上にあり、巨大などんぶりの中央に小さな丸い台が置かれている、という感じだ。

「……もう、上しか残ってませんわ」
 チカが、左手の斜面を指差しながら言った。
 斜面は、はしごが付いている部分があり、壁の上へと登れるようになっている。

 気軽に、じゃあ、そうしよう……と言える雰囲気ではなかったが、そこしか、進むべきところは見当たらなかった。
 まずは、ぼくがはしごを昇り、探ることにした。
 本当なら、偵察ならチカのほうが適任なんだろうけど、ぼくがやる!と強く訴えたのだ。

 はしごの長さは、それほどでもない。
 ぼくの背丈の二倍ほどで、昇りきることが出来た。
 斜面の上は平らで、幅はそれなりにあるようだ。

 ちょっと、歩き回ってみることにした。
 円形の舞台のようで、床が仄かに光っている。

 少し暗く感じるが、それは天井がさらに高いからだろう。
 ここが塔のなか——ということを忘れてしまうぐらい、ここの空間はかなり広かった。

 舞台は、一方の側が少し高くなっていて、そちらには階段が続いている。
 階段の奥には、玉座のようなものが置かれていた。

 アカネとチカを呼び寄せ、ぼくたちは、その舞台を調べてみることにした。
 舞台の縁に立つと、さっきまで、ぼくたちが歩いていた通路を見下ろすことが出来る。
 広さは、ちょっとした公園ぐらいはあり、少しぐらい、走り回っても、大丈夫のようだ。

 ぼくは床の上に、深く穿たれた跡や強打されたと覚しき凹み、鋭利なもので引き裂かれたような傷のようなものを見つけた。
 まるで——ここで、激しい戦闘が行われたみたいだった。
 床は金属のように硬く、それなのに、これだけの傷がついている、ということは、どんな武器を使い、どれほどの戦士たちが戦いを繰り広げていたのだろうか。

 アカネたちに、戦いの跡を教えようとした時だった。
 突然、床全体が光り出した。
 まばゆい光が周囲を充たし、視界が白い闇に閉ざされる。

 悲鳴が聞こえる。
 何かが、風を切りながら、横切っていくのを感じた。
 そして——光が少しずつ、薄らいでいった。

 じきに、視力が戻ってくる。
 アカネとチカが、舞台の上に倒れ伏していることに、気づいた。
 ——えっ……。

 ふたりは、舞台の奥のほうを、調べていたはずだ。
 また、トラップだろうか。

 駆け寄ろうとすると、パイプやホースなどが舞台の上をのたうちながらうごめき、そして、アカネとチカの体に絡みついていった。
 ふたりを持ち上げ、両手を広げた形に腕を留めると、そこでホースなどの群れが停止した。
 呪性金属プライマリア・メタルだ。
 もとはドリフテッド・シングスのひとつで、魔力に応じて金属を思い通りに形を変え、固着化させることが出来る。

 ということは、彼女たちを拘束している、誰かがいる、ということだ。
 アカネとチカを一瞬で吹き飛ばし、気絶までさせた——ということは、かなりの実力の持ち主と思っていいだろう。
 ぼくはごくり、と唾を飲み込んだ。

「おやまぁ……ずいぶんと若い坊ちゃんぞねぇ。待ちくたびれたけど、さりとて、妥協するつもりは、ないぞ」
 玉座のほうから、声の主が進み出てきた。

 ぼくは言葉もなく、その相手を見上げた。
 大柄な男性を並んで立っても、彼女のほうが頭ひとつ分くらいは、高いのかもしれない。

 マントを肩にかけ、金縁で飾られた軽装の鎧を身にまとっている。
 豊かな——歩く度に、ぶるんと揺れる大きな胸当てと右の手首から肘、それに両脚の膝の部分だけが、金属製となってはいるが、それ以外は緑色に染められた布に覆われていた。

 右手にしているのは、長い槍だ。
 穂先は、炎を固めたように、波を打っている形をしている。
 あれで抉られたら、相当なダメージを食らってしまうだろうね。

「え……招魂獣?」
 相手を見て、ぼくは反射的に呟いていた。

 どうして、そんな言葉が出てしまったのだろうか。
 でも——ぼくはその人影から、人ならざるものの雰囲気を感じ取っていた。
 顔立ちが、整いすぎているのだ。
 美人だし、喋りもしっかりとしている。

 それなのに、人の温かみのようなものが、相手からは感じ取れなかった。
 作り物めいている、というか——よくできた美術品が動き出したような、そんな感じなのだ。

「失礼な……わしをあの、武骨な招魂獣と思うぞね?」
 思わず、口に出してしまった言葉に、女の人が睨みつけながら、応じてきた。
 まぁ、確かに会話をしてくるような招魂獣なんて、ぼくも聞いたことがないんだけどね。

 草色の、腰までかかる髪を背中に流し、白い肌はこの塔のなかの薄暗がりでも、うっすらと光を放っているみたいだった。
 頭には、兜なのか、王冠なのか、わからないが、金色に輝くものを被っている。

 鎧は煌びやかで、かなり価値のあるものなのだろう。
 けど——彼女のほうがずっと、美麗なものとして、ぼくの目には写った。

 明けの明星を写し取ったような紅の視線が、ぼくに向けられている。
 威圧感が、半端ない。
 背筋に、何とも言えない、寒気のようなものも感じるが、同時に、そんな美人に見つめられて、嬉しくも思ってもいた。

 おっと——こんなことを考えているのがわかったら、アカネやチカに、睨まれてしまうところだ。
 だけど、そのふたりを気絶させてしまったのは、彼女に他ならないのだ。

「さぁ、よーく見てごらんよ。このグリューンさまを、招魂獣と思うぞね?」
「わ……わからないけど、でも……とても、美人と思う」
「ほう? 美人とな。そなた、素直じゃね。ふふっ、なかなか、気に入ったぞ」

 グリューンの表情が、ころころと変わる。
 口調は、いくらか、のんびりとしているのは、彼女の性格なのだろうか。

「武器なしで、この階層までやってきたか……あのふたりに守られてとはいえ、それはなかなかのものじゃの。強運の持ち主と言えるぞね。まぁ、実のところ、凶運かもしれぬがな」
「あなたは……一体——」

「わしを人ならざるもの、と当てたのは、見る目はありそうじゃの。わしはクロノスの使徒であるぞね」
「クロノスの使徒……?」

 そんな言葉、一度も聞いたことがない。
「人ではない。かといって、招魂獣のような、まがい物でもない。試練を与え、それを乗り越えたものに、祝福を与える存在ぞね」
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