大学生、取り憑かれてしまう。〜オカルト研究会⑤〜

釜借 イサキ

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大学生、変な奴に憑かれてしまう。

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 鳴野裕太が秀人に憑依してから数日が経った。本格的な夏の訪れを予感させるような外気をすり抜け、周と琉依は、まだ退院できない秀人の病室に立ち寄っていた。
「おはよー」
「……早……いのか……?」
「……もう昼だぞ。」
いつもの挨拶、いつもの返事。ずっと待っていた、日常。
「秀人くん、明後日退院だったよね?」
「……ああ。」
一連の騒動の後、事が事なので経過観察もかなり厳重に行われたが、目立った異常もないため、退院して様子を見ることになったらしい。
「……あいつ、どうしてるかな……」
周は窓の外に広がる青空を見上げながらぽつりと呟く。大仰なポーズに馬鹿みたいに大袈裟な台詞回し。鬱陶しいが、悪い奴ではなかったと思う。
「……なんだか、元気にしてそうじゃない?」
困ったように笑いながら、琉依も周の視線を追う。
「やあ。」
秀人の肩が、ぴくりと跳ねる。何故だろう。あいつの事を考えていたからだろうか、聞いたことも無いはずなのに、あいつの声が、確かに聞こえた気がする。
「……へ……?」
病室の出入口に鋭い視線を向ける秀人に倣って、周も琉依も、恐る恐るそちらを振り返る。
「こんにちは。」
そこには、他の誰でもない鳴野裕太がそこに立っていた。
 呆気に取られる三人は、二の句を継げない。
「……お前、生きてたのか……?」
眉間に深いしわを寄せながら、秀人は低い声で聞く。
「うん。なんで?」
その体は、全く透けていないのだ。
「だって、お前頭の打ち所が悪かったって……」
周は、胃の辺りを擦りながら言葉を繋ぐ。
「ああ、あれか。脳震盪だよ。」
やれやれ、といった風に肩を竦める裕太に、
「……お前はカナブンか。」
秀人は吐き捨てる。
「……この前とは少し動きが違うような……?」
琉依は、考え込むように小首を傾げる。確かに、この前の大袈裟なフリはすっかり鳴りを潜めている。
「ああ、あれ?」
宙を仰ぐ裕太の言葉を、三人はーー特に秀人は真剣な面持ちで待つ。
「一回やってみたかったんだ。ああいうの。」
何やら憧れるように言う裕太に、秀人は沈黙を返す。その目は非常に恨めしそうだ。
「まあなんだ……手土産でも受け取ってくれ。」
まるで気にするなとでも言わんばかりに箱を差し出す裕太。
「チャーシューマシマシチョモランマんじゅう?……なにこれ。」
反射的に受け取り、中身を見ると、周の脳内には疑問符が沢山浮かぶ。
「というわけで、これからよろしく頼むよ。」
斜め45度はお気に入りらしい。
「もしかして、入部希望?」
琉依は嬉しそうに目を輝かせる。
「却下。」
裕太が頷くのとほぼ同時に、秀人は短く拒絶する。
「えー?」
不服そうな琉依。周は一人、胃痛の予感を感じていた。こうして、世にも奇妙なナルシストーー鳴野裕太が部員になった。
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