彼は私を妹と言った薄情者

永遠みどり

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01シュラン

②あたしの告白

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――そんな不思議な出会いだった。

 だけど、本当に本当に楽しかった。彼が記憶を思い出さなければ、今日も明日も、一年後も楽しい思い出を作り続ける事が出来るのに。 なのに彼は、記憶を思い出してしまった。まるでここに残る選択なんて無いと言わんばかりに国に帰るんだと。とても、薄情な人だと思う。

 王太子という身分がなんだ、そんなの関係ない。ここで過ごし続けて行く方が楽しいに決まっている。

 怒りの気持ちの方が、多いのにそれなのにどうしてか涙がボロボロと止まらない。 泣いていると家の扉が開いて、レンが呆れたように入ってきた。

 「やっぱり、ここにいた。 泣き虫のシュラン」
 「レンに言われたくない!あんただって、昨日の夜、うるさいくらい泣いてたの知ってるんだから」
 「う、うるせぇ!俺は影でメソメソしてないでモグリに抱きついて別れの挨拶をしたっつーの」

 入ってきてそうそう、からかってきたレンに怒りながら言い返す。実際に昨晩泣いていたのは事実だったから。しかしすぐにまた、言い返された。

 それにしても、レンが彼の事をモグリと言う度に今でも笑ってしまいそうになる。名前が分からないと言うから仕方ないにせよ、モグモグと美味しそうに食べるからモグリというのも些かどうかと思う。

 すると、今度は急に真剣な顔をして私の腕を引っ張って立たせる。 そのついでに私の涙を拭ってくれる所はいつまでも皆の兄なのだなと再認識してしまう。

 「追いかけないと後悔するぜ……」

 そして紡がれたその言葉に私は心臓がバクバクと高鳴る。 彼は確かに人並みよりも運動神経は良い方だと思う。 だけど、それでも私達みたいなところで暮らす民族には明らかに劣るから追いかけようと思えばまだ間に合うはず。

 「モグリのやつ、自分で出ていくって決めたのに何かまだ未練でもあるのか、時折こっちみてたぜ」

……その言葉を聞いたら、もう迷う必要なんてなかった。 頬を両手でパチンと叩いて気合いを入れた。だけど、途端にカッコつけて歯をキランとさせているレンが何となくムカついた。

 「視力4のド変態レン」

 だからそう言って、彼の急所を一蹴りしてから、家を飛び出るようにして駆け出した。

 【なにしやがる!!!!!ばがしゅらあ”ぁぁぁ】

 数秒後、見事なまでの叫び声がここら辺に響き渡る。次から次へとなんだなんだと驚いたように外に出てきた村の皆を軽くスルーして、モグリを追いかけた。

 少し走れば、すぐに彼の背中が見えてきた。レンの嘘つき。一度もこっちなんて振り返らないじゃない。でも、吹っ切れた私はもう、自分の気持ちから逃げるような真似なんてしない。

――より勢いをつけながら駆けて、そして飛びついた。

 「!?!?!しゅ……シュラン、!どうしてここに」

 少しは顔面から転けて泥だらけになる顔を期待したのに、少し驚いたようにふらついただけで私の想像通りにならなくてつまらなかった。 そして彼の質問に答えた。

 「薄情者を成敗しに?」
 「三週間前から帰る準備をしていたんだけどなぁ」
 「ばか! 私は昨日帰ってきて知ったのよ! 」

 そう伝えると彼は眉を八の字にして、それは本当に悪かったと思っていると言った。 本当に、私の気持ちを分かっていない。 まだ記憶を思い出す前の方が、彼は優しかった。

 だから、おかしいじゃない。 なんで私が遠征に出た一ヶ月の間に急に記憶を思い出すの? 貴方がもう少しで村に来て三年になるから、記念に美味しいものを食べて貰いたくて東の方まで行って、色々な食材を採ってきたのに。

 色々な料理を作りたいな、なんて思いながら彼の事ばかり考えていたのに。 少し刺々しい場所に実っている果実だって、彼の美味しそうに食べる顔を見るためなら、多少のかすり傷もなんてこと無かった。

 それなのに……袋いっぱいに詰めて、村に帰ってきてみれば、彼は翌日にはここを去ると言った。 そんなの、そんなのってあんまりだと思わないの? ねぇ……。

 もう少しここに居てくれても良いじゃない。 そんなに王族として過ごしてきた記憶の方が大切なの?記憶を失って過ごしてきた、この三年間はあっという間に切り捨てられる程に?

 「……シュランには本当にお世話になった。だけど、私は帰って家族の無事を確認しないと行けないんだ。 またいつか戻ってきてお礼はするから」

 そんなことを求めているんじゃない。 今だって君は自分の事を「私」って言っている。記憶を思い出す前は「僕」だったのに。 記憶を思い出す前が、純粋な彼なら、一人称が変わってしまう程に重苦しい環境に戻るくらいなら、今までのように私たちとここで暮らそうよ、過ごそうよ。

 「いや! いやよ!! 行かないで……行って欲しくない」
 「シュランは……とても頼りになる割には、とてもわがまま娘だよなぁ」

 そうして彼は、少し背を屈めて私の頭をワシャワシャと撫でた。違う、そうじゃないの。 そういう事を求めている訳じゃないの。

 「ねぇ……モグリ。モグリは私と離れて寂しくないの?」
 「そりゃもちろん寂しいよ……本当にね、」
 「だっ「この三年間で可愛らしい、もう一人の妹のような存在になっているからね」」
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