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01シュラン
③あたしの告白
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――だったら、だったら、私を!貴方のお嫁さんにしてよ!私は貴方の事が心の底から!大好きなの!
そう、伝えるよりも前に、残酷なほどまでの現実を、私の言葉に被せながら伝えられた。 ねぇ……嘘って言って。 そんな言葉を貴方から聞きたくて私は追いかけて来たんじゃない。
「ごめん、言葉被っちゃったね……何言おうとしてたの?」
「もういい! もういい!早く!はやく自分の城に帰ればいいじゃない!」
抱きしめていた彼を、押すようにして引き離した。 ぽつりぽつりと雨が降ってきたけど、私の足元に出来る水溜まりの方が他よりも早かった。
元々、私は身分なんて気にした事も無いし、考えた事も無かった。だけど明らかに無礼にあたる言葉を投げかけ続けている事くらいわかる。それなのに彼はただ、困ったように笑うだけ。
「帰るなって言ったり、帰れって言ったり、本当にわがままで可愛い妹だよ……あっ、もしかして。ごめん。泣いてるのに気付かなかった。そんなに妹だって言われるのが嫌だったなんて……親友としてちゃんと対等に接するよ」
「泣いてない!これは雨よ!」
そう言って今度こそ、彼の顔を見ないように背を向けようとしたのにそれよりも先に、右肩を掴まれて額にキスをされる。そして彼は「またね……シュラン。君から受けた恩は一生忘れない」そう言って前に歩みだした。雨が強くなってきたからか、彼は駆け足で去っていきあっという間に見えなくなった。こちらをちっとも振り返らずに。
……もう追いかけようなんて思わない。 最後の最後まで私の想いが、彼に通じる事は無かった。 私の背がもう少し高かったら、彼は私を愛してくれていたの?
「またね……なんて言わないでよ。一国の王子様がこんな所に来れるわけ無いじゃない」
泥だらけの地面に膝から崩れ落ちながら、そんな文句を言っても私の口から「さようなら」の五文字を紡ぐ事はしなかった。
出来ない、じゃないの。 しないのよ。 まだ、私は彼に会わなきゃ行けない理由がある。 この三年間で伸びた貴方の髪の毛を一本に結っていた、私の大切な緑色のリボンを返して貰わないと行けないから。このリボンは私の大好きで大切な人の為のものだから。
モグリ……いや。記憶の戻った貴方の事はこう呼ぶべきかしら。エドワード・サン・グラウィール。 私達の住まうグラウィール王国の王太子殿下、とね。私の大嫌いな人。
私の大好きな人はモグリ。 モグリただ一人。 彼が言ってくれた言葉を今でも覚えている。
「シュランの手はいつも暖かいね。それにご飯も美味しい。君の料理を毎日食べていたいよ……もちろん!僕が君が食べ物で困る事がないように獲物をたくさん狩ってくるからさ!」
モクリ……帰ってきてよ、モグリ。私が世界で一番、愛している人。モグリは、モグリならば私の事を一人の女性として、見てくれるって分かっている。
だから返してよ、王太子様。私の、私のモグリを返して。 私は世界で一番、モグリの事を奪ったあなたの事が大嫌い。
「そのリボンを返しに来る時だけなら――」
その言葉はきっと、もう彼に届く事は無いのだろう。 でも、それでいい。どうせ来ない事なんて分かりきっているから。
もう、私達の住む世界に薄情者の中央の人間なんて誰一人として招き入れないし、助けてもやらないんだから。見捨ててやる。
そして遠くを睨みつけながら、私は今度こそ村へと足を進めた。
――もう涙は流れてなどいなかった。
そう、伝えるよりも前に、残酷なほどまでの現実を、私の言葉に被せながら伝えられた。 ねぇ……嘘って言って。 そんな言葉を貴方から聞きたくて私は追いかけて来たんじゃない。
「ごめん、言葉被っちゃったね……何言おうとしてたの?」
「もういい! もういい!早く!はやく自分の城に帰ればいいじゃない!」
抱きしめていた彼を、押すようにして引き離した。 ぽつりぽつりと雨が降ってきたけど、私の足元に出来る水溜まりの方が他よりも早かった。
元々、私は身分なんて気にした事も無いし、考えた事も無かった。だけど明らかに無礼にあたる言葉を投げかけ続けている事くらいわかる。それなのに彼はただ、困ったように笑うだけ。
「帰るなって言ったり、帰れって言ったり、本当にわがままで可愛い妹だよ……あっ、もしかして。ごめん。泣いてるのに気付かなかった。そんなに妹だって言われるのが嫌だったなんて……親友としてちゃんと対等に接するよ」
「泣いてない!これは雨よ!」
そう言って今度こそ、彼の顔を見ないように背を向けようとしたのにそれよりも先に、右肩を掴まれて額にキスをされる。そして彼は「またね……シュラン。君から受けた恩は一生忘れない」そう言って前に歩みだした。雨が強くなってきたからか、彼は駆け足で去っていきあっという間に見えなくなった。こちらをちっとも振り返らずに。
……もう追いかけようなんて思わない。 最後の最後まで私の想いが、彼に通じる事は無かった。 私の背がもう少し高かったら、彼は私を愛してくれていたの?
「またね……なんて言わないでよ。一国の王子様がこんな所に来れるわけ無いじゃない」
泥だらけの地面に膝から崩れ落ちながら、そんな文句を言っても私の口から「さようなら」の五文字を紡ぐ事はしなかった。
出来ない、じゃないの。 しないのよ。 まだ、私は彼に会わなきゃ行けない理由がある。 この三年間で伸びた貴方の髪の毛を一本に結っていた、私の大切な緑色のリボンを返して貰わないと行けないから。このリボンは私の大好きで大切な人の為のものだから。
モグリ……いや。記憶の戻った貴方の事はこう呼ぶべきかしら。エドワード・サン・グラウィール。 私達の住まうグラウィール王国の王太子殿下、とね。私の大嫌いな人。
私の大好きな人はモグリ。 モグリただ一人。 彼が言ってくれた言葉を今でも覚えている。
「シュランの手はいつも暖かいね。それにご飯も美味しい。君の料理を毎日食べていたいよ……もちろん!僕が君が食べ物で困る事がないように獲物をたくさん狩ってくるからさ!」
モクリ……帰ってきてよ、モグリ。私が世界で一番、愛している人。モグリは、モグリならば私の事を一人の女性として、見てくれるって分かっている。
だから返してよ、王太子様。私の、私のモグリを返して。 私は世界で一番、モグリの事を奪ったあなたの事が大嫌い。
「そのリボンを返しに来る時だけなら――」
その言葉はきっと、もう彼に届く事は無いのだろう。 でも、それでいい。どうせ来ない事なんて分かりきっているから。
もう、私達の住む世界に薄情者の中央の人間なんて誰一人として招き入れないし、助けてもやらないんだから。見捨ててやる。
そして遠くを睨みつけながら、私は今度こそ村へと足を進めた。
――もう涙は流れてなどいなかった。
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