彼は私を妹と言った薄情者

永遠みどり

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01モグリ

①僕の足跡

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僕にはこの村へ来る前の記憶が無い。 話を聞くと僕はかなりの大怪我をした状態でこの村の川に流されて来たようだ。 自分の名前すら分からない。思い出そうとする度に頭がズキズキと傷んで仕方ない。

 だけどそんな、誰かも分からない僕を村の皆は受け入れてくれた。 無理に思い出さなくていいと言ってくれた。 それが、心のそこから嬉しかった。

 村長のシュー爺さんと村長の娘のライラちゃんにライリちゃん。 それから僕のいま着ている衣装を作ってくれたクロスさんにハリーヌさんにミシェルさんも暇さえあれば声をかけてくれる。

 そして特に僕を気にかけてくれているのは、現在一緒の家で暮らさせて貰っているレン、それから隣に住むシュランだ。 レンには本当に生活全般でお世話になっているが、もしもこの村で特に一人に感謝をするのは誰だと言われたら真っ先にシュランの名前を呼んでしまうかもしれない。

 僕のお腹くらいまでの身長で、ウグイス色の長い髪の毛を一本に束ねている可愛らしい女の子。 いや、女性と言うべきか。 この見た目で成人をしていると知った日には本当に驚いたのを今でも覚えている。

 それに背に関しては言えば、この村の人は比較的に小さい人が多い。 これでも僕は小柄な方なんだ、と言えばお前で小柄なら俺たちはどうしてくれるんだ!とレンに叩かれながら怒られた。

 もしかしたら、僕よりも背が大きい人達に囲まれていたような気がしたんだけど、確かにレンの言う通り、子どもの頃の記憶と混ざっていたらそんな認識になってしまっていてもおかしくない。

 村に来るまでは、レンが村一番に背が高い男として君臨していたが、僕が来てからというものの毎日が悔しくて仕方ないと言われたこともある。 でも、確かにレンは僕の首元辺りに頭があるから他の人たちよりも話しやすいかもしれない、感じていた。

 その度に、ごめんね、と謝れば謝って欲しくて突っかかってるんじゃない、と怒られて何度もご飯を抜きにされたからいつの間にかこの手の話題は無くなっていた。その都度、もっと上手く答えられたら彼は笑ってくれていたのかな、と、と反省もした。

 確かに反省は心の底からしていたし実際に、申し訳なさも感じていた。 だけど僕は、なによりもその会話が無くなってレンが怒る機会が減ったことで、ご飯を抜きにされることも同時に無くなった事の方がいちばん嬉しかったかもしれない。

 朝と晩の食事はいつも、隣に住むシュランが持ってきてくれる。 シュランの作る料理はとっても美味しい。 レンも僕も料理は出来ないから有難かった。その代わりにいつも山の方まで行って二日分位の肉を狩ってくる。 

 最初の頃は狩りのついでに、近くに生えていた果実や木の実等を持ち帰ろうとしたが、何度もレンにそれだけはしないで良いと厳しい顔で叱られ続けた。 最初はなんでだと、効率が悪いじゃないかと疑問にも思っていた。 しかし、それも理由を聞いてからは納得をした。納得をするだけの理由があった。

 果物や山菜を採ってくるのは子ども達の仕事らしい。幼い頃からそうやって過ごす事で少しずつ体力をつけさせながら、将来的に食事に困らないように教育していくことがこの村の伝統らしい。まさか最初から大人になったら狩りに行って肉を確保できると思ってんのか?とジト目で言われた時は目を泳がせながら頬を人差し指でポリポリとしてしまった。

 確かに、レンや他の村の人達に狩りを教えてもらった時も僕はかなり皆に迷惑をかけるくらい動けなかったし、何度も遅いぞとからかわれた。 レンにも中央の人間だとは思っていたがまさかお貴族様なんじゃないのかと言われるくらい。

 その言葉に僕含めた周りの皆は笑った。 村長にこの国の事を教えてもらったけど、もしも僕が貴族だったならパンツ一丁でこの村の川に流されて来る事は無いだろう。 それに、本当に貴族ならばすぐにでも迎えが来そうなものだよ。それがないってことは、特に僕を心配するような人達は居ないって事だとわかる。

 だけど周りの皆に、ご飯にがっつくような奴が貴族であってたまるか!なんて笑われたのはちょっと不快だったからゴンチャンの脛を蹴って逃げ出した事もあったけ。
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