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01レン
②依依恋恋のレン
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「……情けねぇ顔してやんの」
「兄ちゃんに言われたくない!ばぁぁぁか!離して!」
村の入口まで戻ってきたシュランは、顔を下に向けていた。 そして誰とも顔も合わせずに自分の家に入ろうと、開けたままだった扉に手を開けたから片手で通せんぼをして引き止めたところ見事に怒られた。
泣いているのは確実なのに、顔をあげない所を見ると誰に似たのかと少し呆れ混じりで頭をわしゃわしゃと撫でる。 そうしているとついには俺の胸に頭をグリグリと押し付けて、なんて言っているのかも分からない叫び声を上げながら泣いている。
数十秒も経たないうちに俺の衣装はシュランの涙で濡れていく。 きっとこの子からしたら俺はいつまで経っても兄にしかなれないのだろう。 俺の事を男として見てくれる日はないのだろう。
モグリよりも俺の方がシュランの事を、何倍も何十倍も知っている。 幼い頃からずっと一緒で、俺もシュランもほかの大多数の奴らも村長が俺たちに手を差し伸べてくれたから繋がる事の出来た縁だった。 この村にも家族という概念こそあれど村の外を詳しく知る人間なんてほとんど居ないはずだ。
この村で産まれ育った奴よりも、流れに流れてこの村に定着していった人がほとんどだし、村の外のことを知っていてもそれぞれが口に出せないような、そんな事情を抱えているから、むらの外のことなんてほとんどしらないし、だからといって興味がある訳でもない。
……唯一、俺が事情を知っているのはゴンチャンくらいだろう。 彼は元々ここから南。 それこそ城を挟む必要が出てくるから本当に正反対の遠い場所からやってきた。 領主を殺してから。もう8年も前になるだろう。
当時やってきたゴンチャンは、今じゃ考えられないけどに悪人の顔をしていた。 その背中にやせ細った女性を抱えて居なければすぐにでも彼はこの村から追い出されていただろう。 本気で。
当時はまだ、大人になりきれてなくてシュラン含めた周りの子供たちを守りたいって気持ちに流されて、真っ先に攻撃を仕掛けたのも覚えている。
まぁその前にハリーヌさんに背中を掴まれて叶わなかった。 まぁ、しかし驚いた事にその直後にゴンチャンがやせ細った女性を地面に優しく寝かせ、土下座したのだ。 少しの間でもいいからこの村に置かせてくれと。 俺はいいから、せめてこの女性だけでも救ってくれと懇願してきた。それも額を地面にこすりつけて。
そしたらまだ、腰もそこまで曲がってなかった村長がひょいひょいとやってきてゴンチャンの目の前にしゃがんだ。 誰も言葉にはしてなかったが、それでも完全に警戒していない人は居なかったから村の皆はどよめいた。 だけど内心では皆、村長はきっと皆みたいに受け入れるんだろうな、なんて感じてたはずだ。事実、後でハリーヌさんに聞いたらその時には既に二人のサイズを目測で見極めていたらしい。ほんと、この人恐ろしいと思う。
そして村長は言った。ようこそ名も無き村へと。 その直後ゴンチャンはしゃくりあげながらも何度も何度もお礼を言った。 村長がその次にいつものセリフである「何があったかは言わんでいい」その言葉の三分の一も言えずにゴンチャンは被せるように言ってきた。
「こんな! 領主を殺してきた俺を!受け入れてくれて!ありがどうごじゃいます」と。
もちろん、俺は暴れた。 村長も気持ちばかり何歩か後ろに下がって首がギギギギギと効果音がつきそうなくらいにゆっくりと俺たちの事をみて目で訴えていた。 何を言いたいのか当時の俺も今の俺も分からんが涙目だった事だけは覚えてるな。あの村長。
そしてゴンチャンも自分の言った発言に気付いたのか細くするように様々な事を付け加えてきた。 かなり順番も何もかも複雑だったけど簡単に言えば、この村の正反対に位置する街の領主の屋敷に仕える騎士だったと言う。 そしてその領主の娘がゴンチャンの抱えていた女性。 その女性が私生児だった事も影響して、領主の娘への扱いがあんまりにも酷かったらしい。
しまいには領主が娘の命にまで手を出そうとしたから、我慢ならずに持っていた槍で胸を貫いて逃げてきたらしい。 それを聞いた俺はボロボロ涙を流したが村長と同じタイミングで泣いたことか未だに許せない。そこからは何かを感じ取った村長に抱きつかれて逃げる事に必死だった。
まぁ長くなってしまったが、本当にこの村の連中はゴンチャンのような者も少なくないはず。今でも伝説になっているのは、ゴンチャンもその女性も村に来てから一ヶ月近く立っても目立たないように肩身狭くしていた時に、一人の村の男がゴンチャンに「んな、一人殺してきたくらいで縮こまるなよ」と言い出した。
偶然聞いていた俺もシュランも周りの何人かの村のみんなも凍りついていた。 いや、まぁ言葉の揶揄だよな?と何度も言い聞かせながら。あの兄ちゃんがそんな、な? な?とみんなで現実逃避した。 その直後に規制したくなるほどのありとあらゆる殺し方をゴンチャンに話して泣かせてたけど、その全て作り話だよね?だよな?とシュランと二人で身を寄せて泣いた。
今でも真実が怖くて聞けない事のひとつでもある。 ついでにその兄ちゃんはハリーヌさんの夫でもある……ふっ。 あの夫婦にだけは何も聞けねえよ。
――そんな昔の事も思い出してたらシュランに(おそらく)頭突きをされて現実に引き戻される。
「レンのばかぁああああ、話しかけてるのに無視するんじゃないわよ」
そう言ったシュランは今の事は忘れて!!と言いながら今度こそ本当に家の中に戻っていってしまった。ご丁寧に固定まで。
その姿を見守りながらもう一度、心の中で呟く。俺は小さい頃からシュランの事を知っている。 薄らとしか記憶にないけど、まだヨチヨチ歩きもそこそこの俺はボロボロの服で森を歩いている所を、同じくボロボロの服を着て、まだしわくちゃな顔のシュランを抱っこしたハリーヌさん。 彼女に拾われてこの村にたどり着いて住み始めた。 まぁ本当にほとんど覚えてないから、たまに聞くハリーヌさんの思い出話補正も多いからどこまでが事実なのか今となっては分からない。
「シュラン……もう聞いてなんてないと思うけどいつでもおれ…………や、村の皆んなはお前の味方だから。その事を忘れるなよ」
だからこそ、なのかもしれない。俺がシュランに告白出来ないているのは。 誰よりも家族に近い関係で過ごしてきたからこそ告白を失敗した時の代償が怖い。
……そう、怖いんだ。 だって成功すればもっと親密な関係になれるのは確かだ。だけど同時に失敗をすれば取り返しのつかないことになる恐れの方が何倍も、何十倍も大きい。
結局おれはモグリが来る前も来たあとも去った後もなんにも変わらない臆病者だ。 そうだよ俺は善人じゃない。善人なんかじゃない。
誰よりも自分勝手で、愛した女一人にすら気持ちも伝えられない臆病者だ。 それでこそ俺だ。きっとこれからもそうあり続けるんだろう。
だからこそ俺は今日も、この村を自分に出来る精一杯の事をして守る。 それがこの村に住むシュランを守る事にも繋がる。
大好きで、大好きで仕方の無い女なのならば、告白出来る勇気もないのならば、裏で支えて守っていくってもんが道理ってやつだろう。
そうして俺は自分の両頬を叩いてからシュランの家を背に走り出す。満面の笑みで。
「ハリーヌさんー! シュランのやつおやついらないって~!俺にくれ!」
――今日も俺は、いつもの日常が変わらないように生きていくだけだ。 モグリが来る前も来たあとも去った後も、この村は何一つ変わらないんだって事を伝えたいから。
「兄ちゃんに言われたくない!ばぁぁぁか!離して!」
村の入口まで戻ってきたシュランは、顔を下に向けていた。 そして誰とも顔も合わせずに自分の家に入ろうと、開けたままだった扉に手を開けたから片手で通せんぼをして引き止めたところ見事に怒られた。
泣いているのは確実なのに、顔をあげない所を見ると誰に似たのかと少し呆れ混じりで頭をわしゃわしゃと撫でる。 そうしているとついには俺の胸に頭をグリグリと押し付けて、なんて言っているのかも分からない叫び声を上げながら泣いている。
数十秒も経たないうちに俺の衣装はシュランの涙で濡れていく。 きっとこの子からしたら俺はいつまで経っても兄にしかなれないのだろう。 俺の事を男として見てくれる日はないのだろう。
モグリよりも俺の方がシュランの事を、何倍も何十倍も知っている。 幼い頃からずっと一緒で、俺もシュランもほかの大多数の奴らも村長が俺たちに手を差し伸べてくれたから繋がる事の出来た縁だった。 この村にも家族という概念こそあれど村の外を詳しく知る人間なんてほとんど居ないはずだ。
この村で産まれ育った奴よりも、流れに流れてこの村に定着していった人がほとんどだし、村の外のことを知っていてもそれぞれが口に出せないような、そんな事情を抱えているから、むらの外のことなんてほとんどしらないし、だからといって興味がある訳でもない。
……唯一、俺が事情を知っているのはゴンチャンくらいだろう。 彼は元々ここから南。 それこそ城を挟む必要が出てくるから本当に正反対の遠い場所からやってきた。 領主を殺してから。もう8年も前になるだろう。
当時やってきたゴンチャンは、今じゃ考えられないけどに悪人の顔をしていた。 その背中にやせ細った女性を抱えて居なければすぐにでも彼はこの村から追い出されていただろう。 本気で。
当時はまだ、大人になりきれてなくてシュラン含めた周りの子供たちを守りたいって気持ちに流されて、真っ先に攻撃を仕掛けたのも覚えている。
まぁその前にハリーヌさんに背中を掴まれて叶わなかった。 まぁ、しかし驚いた事にその直後にゴンチャンがやせ細った女性を地面に優しく寝かせ、土下座したのだ。 少しの間でもいいからこの村に置かせてくれと。 俺はいいから、せめてこの女性だけでも救ってくれと懇願してきた。それも額を地面にこすりつけて。
そしたらまだ、腰もそこまで曲がってなかった村長がひょいひょいとやってきてゴンチャンの目の前にしゃがんだ。 誰も言葉にはしてなかったが、それでも完全に警戒していない人は居なかったから村の皆はどよめいた。 だけど内心では皆、村長はきっと皆みたいに受け入れるんだろうな、なんて感じてたはずだ。事実、後でハリーヌさんに聞いたらその時には既に二人のサイズを目測で見極めていたらしい。ほんと、この人恐ろしいと思う。
そして村長は言った。ようこそ名も無き村へと。 その直後ゴンチャンはしゃくりあげながらも何度も何度もお礼を言った。 村長がその次にいつものセリフである「何があったかは言わんでいい」その言葉の三分の一も言えずにゴンチャンは被せるように言ってきた。
「こんな! 領主を殺してきた俺を!受け入れてくれて!ありがどうごじゃいます」と。
もちろん、俺は暴れた。 村長も気持ちばかり何歩か後ろに下がって首がギギギギギと効果音がつきそうなくらいにゆっくりと俺たちの事をみて目で訴えていた。 何を言いたいのか当時の俺も今の俺も分からんが涙目だった事だけは覚えてるな。あの村長。
そしてゴンチャンも自分の言った発言に気付いたのか細くするように様々な事を付け加えてきた。 かなり順番も何もかも複雑だったけど簡単に言えば、この村の正反対に位置する街の領主の屋敷に仕える騎士だったと言う。 そしてその領主の娘がゴンチャンの抱えていた女性。 その女性が私生児だった事も影響して、領主の娘への扱いがあんまりにも酷かったらしい。
しまいには領主が娘の命にまで手を出そうとしたから、我慢ならずに持っていた槍で胸を貫いて逃げてきたらしい。 それを聞いた俺はボロボロ涙を流したが村長と同じタイミングで泣いたことか未だに許せない。そこからは何かを感じ取った村長に抱きつかれて逃げる事に必死だった。
まぁ長くなってしまったが、本当にこの村の連中はゴンチャンのような者も少なくないはず。今でも伝説になっているのは、ゴンチャンもその女性も村に来てから一ヶ月近く立っても目立たないように肩身狭くしていた時に、一人の村の男がゴンチャンに「んな、一人殺してきたくらいで縮こまるなよ」と言い出した。
偶然聞いていた俺もシュランも周りの何人かの村のみんなも凍りついていた。 いや、まぁ言葉の揶揄だよな?と何度も言い聞かせながら。あの兄ちゃんがそんな、な? な?とみんなで現実逃避した。 その直後に規制したくなるほどのありとあらゆる殺し方をゴンチャンに話して泣かせてたけど、その全て作り話だよね?だよな?とシュランと二人で身を寄せて泣いた。
今でも真実が怖くて聞けない事のひとつでもある。 ついでにその兄ちゃんはハリーヌさんの夫でもある……ふっ。 あの夫婦にだけは何も聞けねえよ。
――そんな昔の事も思い出してたらシュランに(おそらく)頭突きをされて現実に引き戻される。
「レンのばかぁああああ、話しかけてるのに無視するんじゃないわよ」
そう言ったシュランは今の事は忘れて!!と言いながら今度こそ本当に家の中に戻っていってしまった。ご丁寧に固定まで。
その姿を見守りながらもう一度、心の中で呟く。俺は小さい頃からシュランの事を知っている。 薄らとしか記憶にないけど、まだヨチヨチ歩きもそこそこの俺はボロボロの服で森を歩いている所を、同じくボロボロの服を着て、まだしわくちゃな顔のシュランを抱っこしたハリーヌさん。 彼女に拾われてこの村にたどり着いて住み始めた。 まぁ本当にほとんど覚えてないから、たまに聞くハリーヌさんの思い出話補正も多いからどこまでが事実なのか今となっては分からない。
「シュラン……もう聞いてなんてないと思うけどいつでもおれ…………や、村の皆んなはお前の味方だから。その事を忘れるなよ」
だからこそ、なのかもしれない。俺がシュランに告白出来ないているのは。 誰よりも家族に近い関係で過ごしてきたからこそ告白を失敗した時の代償が怖い。
……そう、怖いんだ。 だって成功すればもっと親密な関係になれるのは確かだ。だけど同時に失敗をすれば取り返しのつかないことになる恐れの方が何倍も、何十倍も大きい。
結局おれはモグリが来る前も来たあとも去った後もなんにも変わらない臆病者だ。 そうだよ俺は善人じゃない。善人なんかじゃない。
誰よりも自分勝手で、愛した女一人にすら気持ちも伝えられない臆病者だ。 それでこそ俺だ。きっとこれからもそうあり続けるんだろう。
だからこそ俺は今日も、この村を自分に出来る精一杯の事をして守る。 それがこの村に住むシュランを守る事にも繋がる。
大好きで、大好きで仕方の無い女なのならば、告白出来る勇気もないのならば、裏で支えて守っていくってもんが道理ってやつだろう。
そうして俺は自分の両頬を叩いてからシュランの家を背に走り出す。満面の笑みで。
「ハリーヌさんー! シュランのやつおやついらないって~!俺にくれ!」
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