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02エドワード
③茨道へと思い馳せ
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――色々と彼に対して聞きたいことはあった。しかし私のどこをどう見たら魔物に見えるのか、という点にばかり気を取られて上手く思考が回らないのだ。
……この私が、あの下賎な魔物共と一括りにされたと言う事実にかなりショックを受ける。そんなに私の顔は醜いだろうか?
「私は……魔物、なのか?」
「へ、?」
思わず、若干涙目になりながらも目の前で腰を抜かしながらもジリジリと後ろに下がる男の肩を両掴みにして聞いてみると、彼の目が見開かれた。
「す、少なくともグラウィールの人間でねぇのは確かだろ!?だ、だって俺たちの暮らす村はグラウィールの最北端だ。隣国から来るには正規のルートが必要らしいが、ここより奥は森だらけだし、ここから近い隣国は海だし、ここよりも西の方の海から出た方がちげえし、そもそも正規のルートもこっち方面にゃあるって聞いたこともないし!!」
するとあんまりにも凄い勢いで捲し立ててくるものだから、今度は私が目を見開いてしまう。それにしても、長い間あの村にいたが反対方面に海があるなんて聞いた覚えも無いが……川はあったからきっと何処かにはあるのだろう。
――その時、少し遠くから女の子の声が聞こえてきた。
「ハーバエからはなれんじゃぁああい!」
思わずそっちの方を振り返ると、まだ幼いであろう女の子がこちらに向かって走ってきている。恐らく木の枝であろうものを必死に握り締めながら。
するといつの間にか鼻水やら涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた男が大声で叫ぶ「こっちに来んなァ!おめぇは」
男は未だに腰が抜けて動けないようだが、それでも必死に走ってくる女の子に手を伸ばして来るなと叫ぶ。それに対して女の子は言葉にならない言葉を叫び、構わずに私の方に突進をしようとしてきているようだが。
――そんな光景を他人事のように見つめつつ、同時に私はあの日の光景がフラッシュバックしてしまっていた。そのせいで思わず体勢を崩してしまう。
胸があまりにもズキズキと痛んで、服ごと鷲掴みにして荒い呼吸を繰り返す。自分自身に今は今だと何度も何度も言い聞かせて冷静になろうと努力する。気づけば地面まであと数センチの距離で、私の顔から吹き出る汗が次から次にポタリポタリと落ちていた。
魔物の襲撃にあった日、ただ、ただ妹を守ろうと必死だった。自分と妹、どちらが国にとって価値があるかなんて分かりきっていたことだ。だけど、そこは家族。母上の命と引き換えに産まれた大切な妹。大切な家族。そんな彼女を見捨てるなんて、どう考えたって出来るわけがなかった。
過去と現在の行き来が激しい中、歯を食いしばって勢いよく上を向いた。地面に着いた手のひらに何とか力を入れて体勢を直す。
「ハァッッ……私を、私をッ魔物なんぞと一緒にしないで頂こうか」
余りの苦しさに、若干涙目になりつつも何とか目の前の男としっかり視線を合わせて訴える。本当はもう少し格好をつけたかったが、少し声が上擦ってしまったのは仕方ないだろう。すると男の方もようやく冷静になってきたらしい。
「本当に魔物じゃ……ないのか?」
「ハーバエのばぇぇぇか!まもにょの言葉をしんじゆな!!っていわれてんじゃん!!」
「おわっ」
そして何とか向こうもしっかりと私と視線を合わせて、聞き返してきた時だった。女の子が私と彼との合間に勢いよく突っ込んできて、私は情けなくもあっという間に尻もちを付いてしまった。
その女の子は震えながらも一生懸命に、自分の大切な人を守ろうと必死な様子だった。どこか幼い頃の妹の姿と重ね合わせてしまいながらも、安心させるように笑顔を向ける。
「まもにもはそうやっって!いつも私たちをだます!!そんちょーもいってた!あたしのままもぱぱもあたしの真似をした、まももに!殺されたッって!」
しかしまるで取り付く島もない様子に、若干のお手上げを感じていると先程まで震えていた男が立ち上がった。そりゃそうだよね。男たるもの、いつまでも幼女の背中に隠れるんじゃありません。
「急に驚かせた私も悪かった……これが魔物じゃない証だ。信じてほしい」
そう言って私は、懐に入れていた針で自分の親指の腹を軽く切ってぷくりと血を出す。真っ赤な血を、だ。他にも色々な方法はあるが今この場で手っ取り早いのは血を見せる事だった。
魔に侵された生き物は皆等しく神に嫌われ、赤く尊い生命の液体は汚れ、緑色になるのだ。色々な本はあれど、私も小さい頃から聞かされてきたほど有名な話である。とは言っても魔物なんてそもそも人の形をしているもの自体見た事もないし聞いたことも無いから、本当に今の今まで忘れていた神話の一部でもあるが。
だからこそ、なぜ私を見てこの男が、私を初めから魔物だと断定したのか気になるし、それこそ女の子が言っていた意味を知りたい。人間の真似をする魔物とはどういうことか、と。
「緑じゃあ、ない……そ、それじゃあ本当に人間なのか?」
「えぇ……これでどうか少しでも話を聞いて貰えないですか?」
そして親指を軽く口に加えて止血をする。 きっとこんな光景を城の者にでも見られでもしたら、阿吽絶叫どころじゃ無くなるだろう。昔の私だったらあまりの汚さに顔を歪めると思うが、モグリとして生活を送る上で、そんな些細なことを気にする余裕すら無かった。
「……分かった。魔物じゃないなら、まぁ。 だ、だけど!村に着いたら後は村長の言う通りにしろよ!着いてこい!案内しちゃる……だけど前はお前が歩いてくれ」
その言葉に一安心して、深呼吸をする。 男はいつの間にか女の子を抱っこしていた。その女の子はと言えば、これでもかと言わんばかりに私に対して威嚇をしてきているが。
目をガン開きにして、歯をイーッと見せてきている。あまりの可愛らしさに少し微笑んでいると、舌まで出されてしまう。
恐らく、寝首をかかれることでも恐れているせいか、その男の条件通りに彼らの前に立った私は後ろから聞こえてくる案内を元に歩いていくとにした。
一悶着あったものの、これは一歩前進と受け取っても良いはずだ。とりあえず今は色々な人と交流を持って、様々な情報を集めていくことが先決だろう。
まだ見ぬ村に対して、ほんの少しの期待を背に頬を叩いて笑った。昔どこかのほんで見たきりだが、笑う門には福来る、と言うらしいじゃないか。
……この私が、あの下賎な魔物共と一括りにされたと言う事実にかなりショックを受ける。そんなに私の顔は醜いだろうか?
「私は……魔物、なのか?」
「へ、?」
思わず、若干涙目になりながらも目の前で腰を抜かしながらもジリジリと後ろに下がる男の肩を両掴みにして聞いてみると、彼の目が見開かれた。
「す、少なくともグラウィールの人間でねぇのは確かだろ!?だ、だって俺たちの暮らす村はグラウィールの最北端だ。隣国から来るには正規のルートが必要らしいが、ここより奥は森だらけだし、ここから近い隣国は海だし、ここよりも西の方の海から出た方がちげえし、そもそも正規のルートもこっち方面にゃあるって聞いたこともないし!!」
するとあんまりにも凄い勢いで捲し立ててくるものだから、今度は私が目を見開いてしまう。それにしても、長い間あの村にいたが反対方面に海があるなんて聞いた覚えも無いが……川はあったからきっと何処かにはあるのだろう。
――その時、少し遠くから女の子の声が聞こえてきた。
「ハーバエからはなれんじゃぁああい!」
思わずそっちの方を振り返ると、まだ幼いであろう女の子がこちらに向かって走ってきている。恐らく木の枝であろうものを必死に握り締めながら。
するといつの間にか鼻水やら涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた男が大声で叫ぶ「こっちに来んなァ!おめぇは」
男は未だに腰が抜けて動けないようだが、それでも必死に走ってくる女の子に手を伸ばして来るなと叫ぶ。それに対して女の子は言葉にならない言葉を叫び、構わずに私の方に突進をしようとしてきているようだが。
――そんな光景を他人事のように見つめつつ、同時に私はあの日の光景がフラッシュバックしてしまっていた。そのせいで思わず体勢を崩してしまう。
胸があまりにもズキズキと痛んで、服ごと鷲掴みにして荒い呼吸を繰り返す。自分自身に今は今だと何度も何度も言い聞かせて冷静になろうと努力する。気づけば地面まであと数センチの距離で、私の顔から吹き出る汗が次から次にポタリポタリと落ちていた。
魔物の襲撃にあった日、ただ、ただ妹を守ろうと必死だった。自分と妹、どちらが国にとって価値があるかなんて分かりきっていたことだ。だけど、そこは家族。母上の命と引き換えに産まれた大切な妹。大切な家族。そんな彼女を見捨てるなんて、どう考えたって出来るわけがなかった。
過去と現在の行き来が激しい中、歯を食いしばって勢いよく上を向いた。地面に着いた手のひらに何とか力を入れて体勢を直す。
「ハァッッ……私を、私をッ魔物なんぞと一緒にしないで頂こうか」
余りの苦しさに、若干涙目になりつつも何とか目の前の男としっかり視線を合わせて訴える。本当はもう少し格好をつけたかったが、少し声が上擦ってしまったのは仕方ないだろう。すると男の方もようやく冷静になってきたらしい。
「本当に魔物じゃ……ないのか?」
「ハーバエのばぇぇぇか!まもにょの言葉をしんじゆな!!っていわれてんじゃん!!」
「おわっ」
そして何とか向こうもしっかりと私と視線を合わせて、聞き返してきた時だった。女の子が私と彼との合間に勢いよく突っ込んできて、私は情けなくもあっという間に尻もちを付いてしまった。
その女の子は震えながらも一生懸命に、自分の大切な人を守ろうと必死な様子だった。どこか幼い頃の妹の姿と重ね合わせてしまいながらも、安心させるように笑顔を向ける。
「まもにもはそうやっって!いつも私たちをだます!!そんちょーもいってた!あたしのままもぱぱもあたしの真似をした、まももに!殺されたッって!」
しかしまるで取り付く島もない様子に、若干のお手上げを感じていると先程まで震えていた男が立ち上がった。そりゃそうだよね。男たるもの、いつまでも幼女の背中に隠れるんじゃありません。
「急に驚かせた私も悪かった……これが魔物じゃない証だ。信じてほしい」
そう言って私は、懐に入れていた針で自分の親指の腹を軽く切ってぷくりと血を出す。真っ赤な血を、だ。他にも色々な方法はあるが今この場で手っ取り早いのは血を見せる事だった。
魔に侵された生き物は皆等しく神に嫌われ、赤く尊い生命の液体は汚れ、緑色になるのだ。色々な本はあれど、私も小さい頃から聞かされてきたほど有名な話である。とは言っても魔物なんてそもそも人の形をしているもの自体見た事もないし聞いたことも無いから、本当に今の今まで忘れていた神話の一部でもあるが。
だからこそ、なぜ私を見てこの男が、私を初めから魔物だと断定したのか気になるし、それこそ女の子が言っていた意味を知りたい。人間の真似をする魔物とはどういうことか、と。
「緑じゃあ、ない……そ、それじゃあ本当に人間なのか?」
「えぇ……これでどうか少しでも話を聞いて貰えないですか?」
そして親指を軽く口に加えて止血をする。 きっとこんな光景を城の者にでも見られでもしたら、阿吽絶叫どころじゃ無くなるだろう。昔の私だったらあまりの汚さに顔を歪めると思うが、モグリとして生活を送る上で、そんな些細なことを気にする余裕すら無かった。
「……分かった。魔物じゃないなら、まぁ。 だ、だけど!村に着いたら後は村長の言う通りにしろよ!着いてこい!案内しちゃる……だけど前はお前が歩いてくれ」
その言葉に一安心して、深呼吸をする。 男はいつの間にか女の子を抱っこしていた。その女の子はと言えば、これでもかと言わんばかりに私に対して威嚇をしてきているが。
目をガン開きにして、歯をイーッと見せてきている。あまりの可愛らしさに少し微笑んでいると、舌まで出されてしまう。
恐らく、寝首をかかれることでも恐れているせいか、その男の条件通りに彼らの前に立った私は後ろから聞こえてくる案内を元に歩いていくとにした。
一悶着あったものの、これは一歩前進と受け取っても良いはずだ。とりあえず今は色々な人と交流を持って、様々な情報を集めていくことが先決だろう。
まだ見ぬ村に対して、ほんの少しの期待を背に頬を叩いて笑った。昔どこかのほんで見たきりだが、笑う門には福来る、と言うらしいじゃないか。
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