彼は私を妹と言った薄情者

永遠みどり

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02エドワード

②茨道へと思い馳せ

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にわかに信じ難いけれど、産まれて直ぐに弟から私の手を繋いだのだと聞いた。

 昔から兄様、兄様と私の後ろをついて歩いてはひたすらニコニコと笑っているようなのが彼だ。王にならなければ行けない重圧でピリピリとして理不尽に当たらなかった事がなかったわけでもないのに、そんな弟のに何度も救われてきた。

 あの子は君主になるにはあんまりにも優しい所が多すぎる。例えばパンが一つしかなかったとして、そこに沢山のお腹を空かせた人々、中には礼儀も知らぬものが集まったとする。そうなったら彼は一人残さずに均等に分け与えるだろう。

 だからこそ彼は王太子の器では無い……と私は思っている。昔から弟にも絶対に僕はそんな表立った仕事なんてしないよ!!僕はこれから先も兄さんの斜め後ろで支えていくんだ、と耳にタコができるくらい言われ続けてきた。

 しかし、現実はそう上手くはいかない……いかなかった。実際に私は自分の役目を忘れてのんびりと過ごしてしまっていたのだから。その事を考えるとこの空白の三年間で弟が王太子になっているであろう事は簡単に想像が着く。

 きっと城に戻ったらすぐにでも冠を思い切り投げてくるだろう。 そしてそれを見た父上もまた、顔面を蒼白にして大切なものをうんたらかんたらと、そう色々言ってくるに違いない。 そして五歳も年下の妹は呆れた様子で腰に手を当てて男って本当に情けない、などと言っているのだろう。

 そこまで考えた所で、はっと意識が現実へと引き戻された。目の前に大きな影ができたから。顔を上げると、そこには人相の悪い男がじっと私のことを見つめていた。思わず息を呑む。

誰もいないという先入観から少し油断しすぎたようだ。しかし相手が何も喋らない事にほんの少しの不気味の悪さを感じて、いつでも逃げられるように1歩、2歩と徐々に後ろに下がる。

 そして無言で時間が流れること、十秒。恐る恐る私から声を掛けてみる事にした。大きく深呼吸をしながら大丈夫、大丈夫と内心で勇気をつける。笑顔を心がければきっと何とかなるさ。

 「こんにちは、大丈夫ですか?少しよそ見をしてしまっていたようで……」
 「……な、なんだ!? お前は……! 一体何者だ!」

 予想の斜め上を行き過ぎる反応に、耳を塞いでしまった。叫んだその人物は走るようにして向こうのほうへと行ってしまう。 え、えぇ? 

 かなり困惑もしていたが、今は彼だけが数少ない城へ戻るための手がかりになる可能性も高いため、慌てて追いかける事にした。完全にエドワードだった頃ならばここまで、勢いよく走る体力もなかったがモグリとして散々レンに扱かれてきた経験から、見失わずに追い続ける事が出来る現実に嬉しさを感じた。

……まぁ、こんな開けた場所で見失ったら、それこそレンに怒られてしまうだろう。「いままでテメェは何をしてたんだ、ゴラァ」と。そしてシュランにも――そこまで考えたところで頭を強く左右に振る。

 既に燻り始めているあの村での生活に対しての寂しい気持ちを心にしまって警戒心を高める。人がこんなにも思い浸っていたと言うのにかなり面倒くさいことをしてきたものだ。

 確かにこの目で彼の姿を捉えていたのに、本当に一瞬にして私の視界から姿を消したのである。決して整っている身なりでない事と、草刈りナイフを腰に着けていた事もあって、またもや油断してしまう。魔法使いか、腕の経つ剣士なのかと怪しむ。だがしかし空を睨んでも簡単な魔力の気配もしないし、それならば下かと地面を睨んだが特になんの違和感も感じられなかった。

 「しゃがめば大丈夫!!」

 最後に残された選択肢に慌てて大声で自分に対して指示をするという馬鹿げた事をするとビンゴだったようで、後ろから風を切る音が聞こえてきた。確実に私の首を狙ったと思われる位置でナイフを構えているであろう彼の声が。

「ま、魔物のくせに、なんでこんなに賢いんだよ!ここら辺には魔物なんて出ないはずだろ!」
 「は?」

 手に力が入らなくなったのか、ナイフを情けなくも地面に落とした目の前の男は、よく分からん事をごちゃごちゃと言いながら腰を抜かしている様子だった

――いや、一つだけ分かったこともある。それは現在進行形で私が彼に魔物だと誤解を受けている、という事だ。 
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