23 / 64
第3話 鼠
翌日
しおりを挟む
翌朝、二階堂は頬に当たるざらりとした感触で目が覚める。まぶたを開けると、目の前には黒猫の顔があった。
「……おはよう」
見慣れない光景に一瞬息を飲むが、すぐに平静を取り戻して声をかける。
黒猫は、やっと起きたと言わんばかりに一声鳴くと、隣で寝ている蒼矢の方に行った。
起き上がって座り直した二階堂は、昨夜まで感じていた殺意と妖気が跡形もなく消え去っていることを知り、胸をなでおろす。
ふと、隣で寝ている蒼矢を見て、思わず笑ってしまった。三匹の猫が蒼矢の頬を舐めたり、蒼矢の腹の上に乗ったりして懸命に起こそうとしていたのだ。だが、蒼矢が起きる気配はまったくない。
しばらくその様子を眺めていた二階堂だったが、次第に猫達がかわいそうになり、蒼矢に声をかけることにした。
「蒼矢、朝だよ。起きろ」
肩を叩き、何度目かの呼びかけでようやく蒼矢は目を覚ました。
「……もう少し寝かせろよ」
「ここ、自宅じゃないからな」
二階堂が言うと、蒼矢は寝ぼけ眼で周囲を見回した。
「あ~……悪ぃ」
ここがどこなのか把握したらしい蒼矢は、短く言って頭を振る。
そこへ、扉をノックする音が聞こえた。扉の方を見ると、木綿子が顔をのぞかせた。
「あら」
「おはようございます。すみません、部屋を用意していただいたのに」
二階堂が、違う部屋で寝てしまったことを謝罪する。
「いいのよ、気にしないで。私も結構やっちゃうから」
と、木綿子は笑いながら言った。
持っていた猫のえさをえさ皿に入れると木綿子は、
「朝食、もう少しでできますから、顔洗って来てください」
と、二階堂と蒼矢に言う。
タオルは、準備してあるのを使ってほしいとのことだった。
二人は、場所を聞いてから洗面所に向かい顔を洗う。軽く身支度を整えてから、リビングに向かった。
リビングに行くと、ちょうど朝食の配膳が終わったところだった。
テーブルの上には、焼き鮭、卵焼き、きゅうりの漬物とご飯と味噌汁といった朝食らしいメニューが並べられている。
三人は、ほぼ同時に食卓につき食べ始めた。
焼き鮭は塩加減が絶妙で、少し甘めの卵焼きは思った以上にふわふわだった。両方とも美味しくて箸が進み、あっという間に食べ終わってしまった。
「ごちそうさん」
「ごちそうさまでした」
蒼矢と二階堂はほぼ同時に言った。
少し遅れて食べ終わった木綿子は、
「お粗末さま」
と、笑顔で告げて食器を片づける。
食器の片づけが終わったらしい木綿子は、人数分のお茶を準備してリビングに戻ってきた。
「……それで、どうでした?」
お茶を配って先程の場所に座ると、木綿子はおもむろに二階堂に尋ねた。
「もう大丈夫です。旧鼠は退治しましたから」
二階堂は笑顔でそう告げた。
「そうですか、それはよかった。本当にありがとうございました」
心底ほっとしたような表情で木綿子が礼を言うと、
「生きたまんまの鼠、もう猫にやるなよ?」
蒼矢が釘をさす。
「ええ、ええ。もう、与えませんとも。大切な家族が殺されていくのは、もう嫌ですからね」
もう懲りごりだとばかりに、木綿子は言った。
お茶を飲み干した木綿子は、思い出したように立ち上がると、少し待っていてほしいと告げてリビングを後にした。
しばらくして、木綿子が財布を持って戻ってきた。
「お代はいかほどですか?」
「そうですね……」
二階堂がわずかに思案してから金額を提示すると、木綿子は少し多めに手渡した。
提示した金額より多いことを告げるが、
「ほんの気持ちですから」
だから受け取ってほしいと、やや強引に二階堂に握らせる。
その強引さに根負けした二階堂は、ありがたく受け取ることにした。
「すみません、いろいろとお世話になってしまって」
恐縮する二階堂に、木綿子はその必要はないと告げる。助けてもらったのは自分の方なのだから、と。
「また何かありましたら、ご連絡ください」
そう言って、二階堂は席を立った。蒼矢もそれにならう。
木綿子は優しい笑顔を浮かべて、二人を玄関まで送る。
「また、猫達に会いに来てやってくださいね」
そう告げる木綿子に、二人はうなずいて玄関を出た。
車に乗り込むと、
「花江のばあさん、大丈夫だろうな?」
と、蒼矢が少し心配そうな様子を見せる。
「大丈夫だと思うよ。猫達のこと、家族って言ってたし」
だから、同じ轍を踏むことはないだろうと、二階堂は告げる。
「だといいけどよ」
まだ不安が残るのか、蒼矢はそう言ってシートベルトを締める。
「たまに来てやるんだろ? 猫達に会いに」
「そのつもりだよ。懐かれちゃったしね」
シートベルトを締めながら、二階堂はどこか嬉しそうに言う。
「それに、花江さんの料理、また食べたいし」
「美味かったもんな」
と、蒼矢。
二人は、また必ず会いに来ようと心に決めて花江家を後にしたのだった。
「……おはよう」
見慣れない光景に一瞬息を飲むが、すぐに平静を取り戻して声をかける。
黒猫は、やっと起きたと言わんばかりに一声鳴くと、隣で寝ている蒼矢の方に行った。
起き上がって座り直した二階堂は、昨夜まで感じていた殺意と妖気が跡形もなく消え去っていることを知り、胸をなでおろす。
ふと、隣で寝ている蒼矢を見て、思わず笑ってしまった。三匹の猫が蒼矢の頬を舐めたり、蒼矢の腹の上に乗ったりして懸命に起こそうとしていたのだ。だが、蒼矢が起きる気配はまったくない。
しばらくその様子を眺めていた二階堂だったが、次第に猫達がかわいそうになり、蒼矢に声をかけることにした。
「蒼矢、朝だよ。起きろ」
肩を叩き、何度目かの呼びかけでようやく蒼矢は目を覚ました。
「……もう少し寝かせろよ」
「ここ、自宅じゃないからな」
二階堂が言うと、蒼矢は寝ぼけ眼で周囲を見回した。
「あ~……悪ぃ」
ここがどこなのか把握したらしい蒼矢は、短く言って頭を振る。
そこへ、扉をノックする音が聞こえた。扉の方を見ると、木綿子が顔をのぞかせた。
「あら」
「おはようございます。すみません、部屋を用意していただいたのに」
二階堂が、違う部屋で寝てしまったことを謝罪する。
「いいのよ、気にしないで。私も結構やっちゃうから」
と、木綿子は笑いながら言った。
持っていた猫のえさをえさ皿に入れると木綿子は、
「朝食、もう少しでできますから、顔洗って来てください」
と、二階堂と蒼矢に言う。
タオルは、準備してあるのを使ってほしいとのことだった。
二人は、場所を聞いてから洗面所に向かい顔を洗う。軽く身支度を整えてから、リビングに向かった。
リビングに行くと、ちょうど朝食の配膳が終わったところだった。
テーブルの上には、焼き鮭、卵焼き、きゅうりの漬物とご飯と味噌汁といった朝食らしいメニューが並べられている。
三人は、ほぼ同時に食卓につき食べ始めた。
焼き鮭は塩加減が絶妙で、少し甘めの卵焼きは思った以上にふわふわだった。両方とも美味しくて箸が進み、あっという間に食べ終わってしまった。
「ごちそうさん」
「ごちそうさまでした」
蒼矢と二階堂はほぼ同時に言った。
少し遅れて食べ終わった木綿子は、
「お粗末さま」
と、笑顔で告げて食器を片づける。
食器の片づけが終わったらしい木綿子は、人数分のお茶を準備してリビングに戻ってきた。
「……それで、どうでした?」
お茶を配って先程の場所に座ると、木綿子はおもむろに二階堂に尋ねた。
「もう大丈夫です。旧鼠は退治しましたから」
二階堂は笑顔でそう告げた。
「そうですか、それはよかった。本当にありがとうございました」
心底ほっとしたような表情で木綿子が礼を言うと、
「生きたまんまの鼠、もう猫にやるなよ?」
蒼矢が釘をさす。
「ええ、ええ。もう、与えませんとも。大切な家族が殺されていくのは、もう嫌ですからね」
もう懲りごりだとばかりに、木綿子は言った。
お茶を飲み干した木綿子は、思い出したように立ち上がると、少し待っていてほしいと告げてリビングを後にした。
しばらくして、木綿子が財布を持って戻ってきた。
「お代はいかほどですか?」
「そうですね……」
二階堂がわずかに思案してから金額を提示すると、木綿子は少し多めに手渡した。
提示した金額より多いことを告げるが、
「ほんの気持ちですから」
だから受け取ってほしいと、やや強引に二階堂に握らせる。
その強引さに根負けした二階堂は、ありがたく受け取ることにした。
「すみません、いろいろとお世話になってしまって」
恐縮する二階堂に、木綿子はその必要はないと告げる。助けてもらったのは自分の方なのだから、と。
「また何かありましたら、ご連絡ください」
そう言って、二階堂は席を立った。蒼矢もそれにならう。
木綿子は優しい笑顔を浮かべて、二人を玄関まで送る。
「また、猫達に会いに来てやってくださいね」
そう告げる木綿子に、二人はうなずいて玄関を出た。
車に乗り込むと、
「花江のばあさん、大丈夫だろうな?」
と、蒼矢が少し心配そうな様子を見せる。
「大丈夫だと思うよ。猫達のこと、家族って言ってたし」
だから、同じ轍を踏むことはないだろうと、二階堂は告げる。
「だといいけどよ」
まだ不安が残るのか、蒼矢はそう言ってシートベルトを締める。
「たまに来てやるんだろ? 猫達に会いに」
「そのつもりだよ。懐かれちゃったしね」
シートベルトを締めながら、二階堂はどこか嬉しそうに言う。
「それに、花江さんの料理、また食べたいし」
「美味かったもんな」
と、蒼矢。
二人は、また必ず会いに来ようと心に決めて花江家を後にしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる