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第9話 復讐者
再会
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烏の社を後にした二階堂は、白紫稲荷神社へと車を走らせていた。
運転する彼の表情には、一か月前の絶望感は微塵もない。柚月との修行で相当な自信がついたのだろう。
気がかりなのは、蒼矢の容態である。神様に預けたのだから大丈夫だと思っていても、やはり心配なことに変わりはない。どうしても、アクセルを踏む足に力が入ってしまう。とはいえ、もちろん法定速度は守っているわけだが。
安全運転で、かつ、できる限り急いで神社へと向かう。車窓から見える空は、透き通るくらいに澄んだ青空だった。
約一時間半のドライブの後、二階堂は白紫稲荷神社に到着した。駐車場に車を停め、鳥居をくぐり境内へと歩く。
参道は、秋の空気も相まって、よりさわやかで清々しく感じられた。
境内に到着すると、数人の参拝客だろう人影を認めた。
(……人がいなくなるまで待つか)
わずかの逡巡、二階堂は境内を散策することにした。
ここには多数の木々があり、赤や黄色に色づいた中に緑の葉が見え隠れしている。そのコントラストがとてもきれいで。二階堂は、しばし時を忘れてその美しさに魅了されていた。
どのくらい経ったのだろう、気がつくと、辺りは静寂に包まれていた。先程までいた参拝客の姿もない。
「さて、と……」
無意識にそうつぶやいて、二階堂は本堂に向かった。
財布から小銭を出して賽銭箱に入れ、二礼二拍手一礼をして神様に呼びかける。
「久しぶりだね、誠ちゃん」
その言葉とともに、白梨が目の前に現れた。
「お久しぶりです。白梨様」
「おや? 少し見ない間に、男前があがったんじゃないかい?」
と、白梨は軽口に包んで感想を口にした。
「ご冗談を。……まあでも、柚月さんに稽古をつけてもらいましたからね。前の僕とは、多少なりとも違うんじゃないですか」
「それは楽しみだね」
「それで、蒼矢の方は……?」
二階堂が問うと、
「後ろを見てごらん」
と、ふわりと笑みを浮かべて白梨が告げた。
不思議の思いながらも、二階堂は振り返る。
「――っ! 蒼矢っ!」
「……よう」
そこには、照れくさそうに軽く手をあげる蒼矢がいた。
「よかった……。本当によかった」
「悪い、心配かけちまったな」
「それは別に……。それより、もう大丈夫なのか?」
「ああ、蛇女の術もきれいさっぱりだとさ。本当にすげえよな、神様は」
と、蒼矢は軽口に包んで本音を告げる。
二階堂は白梨に向き直ると、
「白梨様、ありがとうございました!」
そう言って、深々と頭をさげる。
「礼には及ばないさ。これから、蛇女を倒しに行くんだろう?」
「ああ。このままやられっぱなしってのは、性に合わねえからな」
白梨の問いに答える蒼矢の瞳には、剣呑な色が浮かんでいた。
それに気づいたのか、白梨は小さくため息をつくと、
「くれぐれも無茶はしないように。いいね?」
と、釘をさす。
しかし、蒼矢は聞き飽きたとばかりにぞんざいな返事をして鳥居の方へと歩き出してしまった。
「大丈夫ですよ。蒼矢が無茶しそうになったら、僕が止めますから」
そう言ってもう一度深く礼をすると、二階堂は蒼矢を追うようにその場を後にした。
「――まったく、素直じゃないんだからな」
すぐに追いつくと、二階堂は揶揄するように蒼矢に声をかけた。
「うっせえ。それより、これからどうすんだよ?」
「そうだな……。とにかく、相手の居場所がわからないと――」
動きようがないと言おうとしたところで、二階堂のスマートフォンが着信を知らせる。
「もしもし」
『やっと出た! 二階堂、今までどこ行ってたんだよ? 何度も電話したんだからな!』
怒気を含んだ声が聞こえてきた。榊である。
「悪い、ちょっと野暮用でな。何かあったのか?」
『あったよ。かなり悪いことがな! 相手は、しばらく大人しくしてるんじゃなかったのか?』
そう詰め寄る榊の言葉で、二階堂は何が起きたのか察した。
おそらく、蛇目あいが行動を再開したのだろう。それも、思っていた以上に早い時期に。そして、被害者が以前よりも多いだろうことが、彼の言葉から容易に想像できた。
「榊、詳しく教えてくれ」
二階堂は、彼の問いには答えず静かにそう言った。
榊は一つため息をつくと、警察署に来てほしいと告げる。
「わかった。それじゃ、また」
そう言うと、二階堂は電話を切った。その表情は、とても険しいものだった。
その表情から何かを感じ取ったのだろう蒼矢は、
「あいつか?」
どこかうれしそうに尋ねた。
「おそらくな。どうやら、悠長にしてる暇はなさそうだ」
と、二階堂。
二人は、参道を足早におりると、車に乗り込み警察署へと向かった。
運転する彼の表情には、一か月前の絶望感は微塵もない。柚月との修行で相当な自信がついたのだろう。
気がかりなのは、蒼矢の容態である。神様に預けたのだから大丈夫だと思っていても、やはり心配なことに変わりはない。どうしても、アクセルを踏む足に力が入ってしまう。とはいえ、もちろん法定速度は守っているわけだが。
安全運転で、かつ、できる限り急いで神社へと向かう。車窓から見える空は、透き通るくらいに澄んだ青空だった。
約一時間半のドライブの後、二階堂は白紫稲荷神社に到着した。駐車場に車を停め、鳥居をくぐり境内へと歩く。
参道は、秋の空気も相まって、よりさわやかで清々しく感じられた。
境内に到着すると、数人の参拝客だろう人影を認めた。
(……人がいなくなるまで待つか)
わずかの逡巡、二階堂は境内を散策することにした。
ここには多数の木々があり、赤や黄色に色づいた中に緑の葉が見え隠れしている。そのコントラストがとてもきれいで。二階堂は、しばし時を忘れてその美しさに魅了されていた。
どのくらい経ったのだろう、気がつくと、辺りは静寂に包まれていた。先程までいた参拝客の姿もない。
「さて、と……」
無意識にそうつぶやいて、二階堂は本堂に向かった。
財布から小銭を出して賽銭箱に入れ、二礼二拍手一礼をして神様に呼びかける。
「久しぶりだね、誠ちゃん」
その言葉とともに、白梨が目の前に現れた。
「お久しぶりです。白梨様」
「おや? 少し見ない間に、男前があがったんじゃないかい?」
と、白梨は軽口に包んで感想を口にした。
「ご冗談を。……まあでも、柚月さんに稽古をつけてもらいましたからね。前の僕とは、多少なりとも違うんじゃないですか」
「それは楽しみだね」
「それで、蒼矢の方は……?」
二階堂が問うと、
「後ろを見てごらん」
と、ふわりと笑みを浮かべて白梨が告げた。
不思議の思いながらも、二階堂は振り返る。
「――っ! 蒼矢っ!」
「……よう」
そこには、照れくさそうに軽く手をあげる蒼矢がいた。
「よかった……。本当によかった」
「悪い、心配かけちまったな」
「それは別に……。それより、もう大丈夫なのか?」
「ああ、蛇女の術もきれいさっぱりだとさ。本当にすげえよな、神様は」
と、蒼矢は軽口に包んで本音を告げる。
二階堂は白梨に向き直ると、
「白梨様、ありがとうございました!」
そう言って、深々と頭をさげる。
「礼には及ばないさ。これから、蛇女を倒しに行くんだろう?」
「ああ。このままやられっぱなしってのは、性に合わねえからな」
白梨の問いに答える蒼矢の瞳には、剣呑な色が浮かんでいた。
それに気づいたのか、白梨は小さくため息をつくと、
「くれぐれも無茶はしないように。いいね?」
と、釘をさす。
しかし、蒼矢は聞き飽きたとばかりにぞんざいな返事をして鳥居の方へと歩き出してしまった。
「大丈夫ですよ。蒼矢が無茶しそうになったら、僕が止めますから」
そう言ってもう一度深く礼をすると、二階堂は蒼矢を追うようにその場を後にした。
「――まったく、素直じゃないんだからな」
すぐに追いつくと、二階堂は揶揄するように蒼矢に声をかけた。
「うっせえ。それより、これからどうすんだよ?」
「そうだな……。とにかく、相手の居場所がわからないと――」
動きようがないと言おうとしたところで、二階堂のスマートフォンが着信を知らせる。
「もしもし」
『やっと出た! 二階堂、今までどこ行ってたんだよ? 何度も電話したんだからな!』
怒気を含んだ声が聞こえてきた。榊である。
「悪い、ちょっと野暮用でな。何かあったのか?」
『あったよ。かなり悪いことがな! 相手は、しばらく大人しくしてるんじゃなかったのか?』
そう詰め寄る榊の言葉で、二階堂は何が起きたのか察した。
おそらく、蛇目あいが行動を再開したのだろう。それも、思っていた以上に早い時期に。そして、被害者が以前よりも多いだろうことが、彼の言葉から容易に想像できた。
「榊、詳しく教えてくれ」
二階堂は、彼の問いには答えず静かにそう言った。
榊は一つため息をつくと、警察署に来てほしいと告げる。
「わかった。それじゃ、また」
そう言うと、二階堂は電話を切った。その表情は、とても険しいものだった。
その表情から何かを感じ取ったのだろう蒼矢は、
「あいつか?」
どこかうれしそうに尋ねた。
「おそらくな。どうやら、悠長にしてる暇はなさそうだ」
と、二階堂。
二人は、参道を足早におりると、車に乗り込み警察署へと向かった。
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