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冷たい手
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腕時計を見ると時刻は5時を指していた。
土曜日ということもあり人通りはまずまず多い。
映画を彼女と見て、あとは帰るだけ。
ただそれだけなのにこの時間が愛おしい。
夕日がまぶしい。
こうして落ち着いて夕日を見るのは久しぶりだ。
学生の頃はよく夕日を眺めながら帰っていたものだ。
誰も待つことのない家へ帰るのは嫌だった。
高二の夏、交通事故で両親が亡くなってからは、ずっと一人だった。
美味しいものを食べても何も感じず、楽しい、嬉しい、悲しい、などの感情までが1つ、また1つと消えた。
そんな毎日を救ってくれたのは彼女、実花との出会いだった。
おせっかいで、どれだけ追い払っても諦めずに話しかけてきた。
いつもコンビニ弁当を買っていたがそれでは身体に悪いとお弁当までおしつけてくる始末。
そんな彼女に降参して、一緒にいる時間が少しづつ増えていった。
いつの間にかに心の隙間が埋められ、気づいたら1人の女性として好きになっていた。
横でスマホをいじっている彼女に手を差し伸べる。
「ん」
不思議そうな顔をして実花はこちらを見ている。
実花の手を無理やり繋いで、ポケットの中へ引き寄せる。
「私の手、冷たいので触らない方がいいですよ」
「俺の手、あったかいだろ?」
「…わかりません」
照れたのか大きな瞳が震えるように動いている。
彼女の手に握られたスマホの画面には料理の写真が並んでいた。
「何を見てるの?」
「夕ご飯、何が食べたいですか?」
どうやらレシピサイトを見ていたらしい。
「なんでもいいよ」
「そういうのが一番困るんですよ」
「実花は何がいい?」
「わたしは食べないので」
「痩せちゃうよ」
つんつんと指先で実花の横腹をつつくと、ムスッとして頬を風船のように膨らます。
「痩せません」
実花の百面相のように変わる表情は見ていて飽きない。
怒りつつも、手を握り返してくれた。
実花といると心があたたまる。
なくしていた感情が胸の奥深いところから生まれてくる。
彼女の手は冷たい。
「手、やっぱつめたいな」
にこりと笑う実花。
立ち止まりこちらを見つめる。
夕日に照らされた横顔が美しくも儚く、今にも消えてしまうんじゃないかと思える。
「…ロボットですから」
「知ってる」
もう片方の手で実花の頭をなでると、
「
ほら、はやく家に帰りますよ」
と言って手を引っ張り歩き出した。
土曜日ということもあり人通りはまずまず多い。
映画を彼女と見て、あとは帰るだけ。
ただそれだけなのにこの時間が愛おしい。
夕日がまぶしい。
こうして落ち着いて夕日を見るのは久しぶりだ。
学生の頃はよく夕日を眺めながら帰っていたものだ。
誰も待つことのない家へ帰るのは嫌だった。
高二の夏、交通事故で両親が亡くなってからは、ずっと一人だった。
美味しいものを食べても何も感じず、楽しい、嬉しい、悲しい、などの感情までが1つ、また1つと消えた。
そんな毎日を救ってくれたのは彼女、実花との出会いだった。
おせっかいで、どれだけ追い払っても諦めずに話しかけてきた。
いつもコンビニ弁当を買っていたがそれでは身体に悪いとお弁当までおしつけてくる始末。
そんな彼女に降参して、一緒にいる時間が少しづつ増えていった。
いつの間にかに心の隙間が埋められ、気づいたら1人の女性として好きになっていた。
横でスマホをいじっている彼女に手を差し伸べる。
「ん」
不思議そうな顔をして実花はこちらを見ている。
実花の手を無理やり繋いで、ポケットの中へ引き寄せる。
「私の手、冷たいので触らない方がいいですよ」
「俺の手、あったかいだろ?」
「…わかりません」
照れたのか大きな瞳が震えるように動いている。
彼女の手に握られたスマホの画面には料理の写真が並んでいた。
「何を見てるの?」
「夕ご飯、何が食べたいですか?」
どうやらレシピサイトを見ていたらしい。
「なんでもいいよ」
「そういうのが一番困るんですよ」
「実花は何がいい?」
「わたしは食べないので」
「痩せちゃうよ」
つんつんと指先で実花の横腹をつつくと、ムスッとして頬を風船のように膨らます。
「痩せません」
実花の百面相のように変わる表情は見ていて飽きない。
怒りつつも、手を握り返してくれた。
実花といると心があたたまる。
なくしていた感情が胸の奥深いところから生まれてくる。
彼女の手は冷たい。
「手、やっぱつめたいな」
にこりと笑う実花。
立ち止まりこちらを見つめる。
夕日に照らされた横顔が美しくも儚く、今にも消えてしまうんじゃないかと思える。
「…ロボットですから」
「知ってる」
もう片方の手で実花の頭をなでると、
「
ほら、はやく家に帰りますよ」
と言って手を引っ張り歩き出した。
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