最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル

文字の大きさ
194 / 214

第183話

しおりを挟む
「ただいま~」
「あ、ユーマ」
「もう食事はしてしまったぞ」
「ユーマさんおかえりなさい!」

 家に帰ると皆が迎えてくれる。

「ご飯は今から少しだけもらおうかな」
「ゴゴ」
「あと、皆に今から少し話もしたくて」

 俺が家に帰ってきたのは、皆に会いたかったからという理由もあるが、もしかしたらイベントに備えることが出来るんじゃないか? という思いもあったからだ。

「どうした?」
「実は……」

 俺はモニカさん達に、4日後の朝9時頃からモンスターが街に襲ってくるというイベントの話をしてみることにした。
 イベントはこの世界をコピーした世界で行われるため、実際にこの世界の人達が何か被害を受けるわけではないけど、今のうちにモニカさん達へこの情報を伝えたらどうなるのか知っておきたかったのだ。

「私達の方にも、ほとんどのプレイヤー様がその時間から居なくなるという話は来ている」
「え、そうなんですか?」
「詳しい内容はぼく達に知らされてないけど、プレイヤー様がどこか遠くの世界に行くって、その時間から1日くらい居なくなるって通達があったんだ」

 確かに言われてみればプレイヤーが急にその時間から居なくなることを、この世界の人達が知らないわけないか。
 自分の視点ばっかりで考えてたけど、言われてみれば当たり前だ。こんな大がかりなイベントをするなら、この世界の人達にも何らかの形で俺達が居なくなることは知らせてるよな。

「でも、まさかモンスターが襲ってくるとは思いませんでした。今から準備するとして、自分はどうすれば……」
「ハティお嬢様、ユーマ様のお話によると、私達は関係ありません」
「確かにぼく達は関係ないけど、準備しておかないと向こうの世界のぼく達は危ないんだよね?」
「ということはやっぱり何かしないと……」

 皆の言ってることは正しい。
 ハティが言ったように今からモンスターに備えないと向こうの皆は危ないし、サイさんの言うように別に何もしなくてもこの世界にいる自分達には関係ないし、モルガが言うように向こうの皆のためを思うなら自分達が準備しないといけない。
 皆の言ってることは全部正しいのだ。

「話の内容としては、プレイヤー様が行く世界は、言ってみればこの世界を模倣した嘘の世界ってことで合ってるか?」
「……そうですね、端的に言えばそうだと思います。イベントが終わった後もその世界が続くかはまだ分からないですけど。俺はたぶん消えるんじゃないかなと思いますし」
「ではその嘘の世界のために私達が今から準備することに、何の意味があるんだ?」

 モニカさんのあまりにも芯を食った質問に、俺は少し言葉が出なくなる。

「私達は何も変わらずここに居続ける。それなのに襲っても来ないモンスターのために、何故準備をする必要があるのか教えてくれ」
「……それはそうですね。今考えると皆には全く関係のない話でした」

 イベントとして認識してるのは俺達プレイヤーであり、モニカさん達からするとイベントの日プレイヤー達が世界から消えるだけで、何も特別なことが起こるわけではない。
 この世界の人達が頑張ってくれれば、俺達プレイヤーが報酬を貰えるって話なんかしても、それこそそんなのは関係ないと言うだろう。

 そして俺の印象だとこの世界の人達は本当にこの世界に生きていて、NPCのような扱いを受けることを嫌っている。
 それなのに俺はコピーされた世界がどうだのと言って、やってることは皆をNPC扱いしてるのと同じだ。

 少しイベントで気持ちが高ぶってたのかもしれない。これは反省しよう。

「でも、自分は向こうの世界の自分が倒されるのは嫌です!」
「ごめんねハティ。俺のせいで気を遣わせちゃって」
「ち、違います! 自分はホントに自分のことが心配で!」

 ハティとモルガはバランスを取るために俺に寄った発言をしてるだけで、心の中ではモニカさんやサイさんと同じ気持ちだと思う。
 たぶん俺みたいに事前にこうやってイベントのことを知らせて、この世界の人達にも手伝ってもらおうとするプレイヤーが現れるのは運営も想定済みだ。
 俺はてっきり会話がおかしくなったり、意味が通じなくなったりするのかもと思ってたが、こういう感じで来るのか。

 こうなるなら、向こうの皆に死んでほしくない! みたいな感情ゴリ押し作戦くらいしかこの世界の人を動かす方法が思いつかない。
 まぁ俺はそこまでするつもりは今のところ無いけど。
 なぜならそもそもここにいる人達は滅茶苦茶強いからだ。口では戦いの準備をして欲しいなんて言ったけど、何の準備もせずに乗り切るだろうなって思うくらい皆は強い。
 モニカさんとモルガとサイさんが居て街が崩壊するなら、大半が第2陣のプレイヤーで守ることになるだろうこの街はどうやっても崩壊する。

「なんか変な話をしてしまってごめんなさい」
「いや、私達も気になっていたことではある。ユーマから話が聞けて良かった」
「クゥ!」「アウ!」「……!」「コン!」「キノ!」

 ウル達は今の話に興味がないのか、ゴーさんが用意してくれたご飯を美味しそうに食べている。

「じゃあ皆さんには関係ないですけど、俺は当日王国領の方に行こうと思うので、もし良ければこの家のことよろしくお願いします。何か予定があればそっちを優先してもらってもいいので」
「……一応その日は家に居るようにするか」
「じゃあぼくはその日にハティへ魔法を教えようかな」
「本当ですか!」

 いつも通り探索へ行かれると皆が街の中に居ないから不味かったが、この様子だと家には居てくれそうだ。そういう意味ではイベントの話をモニカさん達にした意味は少しでもあって良かった。

「キノさんはモンスター退治に興味って」
「キノキノ」
「無いよね。じゃあいつも通りお留守番お願いします」
「キノッ!」

 こうしてモニカさん達に話したいことは話せたし、しっかりご飯も食べたので、またクランハウスへと戻ることにする。

「あ、そうだ。ユーマに伝えなければならないことがある」
「はい、どうしました?」
「最近私達の後ろをつけてくる者がいてな。申し訳ないがその者にこの家がバレてしまったかもしれない」
「あぁ、たぶんそれは俺のせいですね。何かされませんでした?」
「私達は何もされていないが、撒く事が出来なかった。すまない」

 俺の動画を見てる人なら家の場所を知りたいって人はいっぱい居るだろう。
 動画に出てきたモニカさんを追いかけて家を特定はなかなかやってることが陰湿だが、モニカさん達に被害がないなら良かった。

「まぁ正直モニカさんを追いかけなくても街の中を探せばいつか家は見つかりますし、気にしなくて大丈夫です」
「私達もプレイヤー様のようにクリスタルを移動できれば良いのだがな」
「まさかモニカのストーカーじゃなくてユーマのストーカーとは思わなかったなぁ。いつもユーマはぼくに凄いって言うけど、ユーマも十分凄いじゃん!」
「それで言うとカーシャの家にユーマを紹介しに行った事があるんだが、家から出るとプレイヤー様が大勢……」

 俺がプレイヤー達に少し知られている存在だということを、モニカさんは実際にあったエピソードを交えてモルガやハティに説明している。
 まさか自分よりユーマが目立つなんて、と嬉しそうに話すモニカさんを見て、たぶん元騎士であるこの人はストーカーが全然怖くなかったんだろうなと思ってしまった。

「じゃあグーさん一緒に来てくれる? 夜の間に鉱石掘りに行くかもしれないし、そうじゃなくても松明とか探索中持ってもらおうかなって」
「ググ!」
「コゴ」

 ゴーさんに頑張ってこいよというような感じで送り出されたグーさんを俺はパーティーに入れて、クリスタルから一度クランハウスへと向かう。



「あれ、なんか皆居ないけどどこ行ったの?」
「あ、クラン長。皆レベル上げに行きましたよ」
「え、今?」
「まだイベントの日まで時間はありますし、25レベルでサキさん達攻略パーティーが王国領に行けたって聞いて、それならギリギリ自分達も王国領に行けるかもしれないってことで、皆で頑張ることになりました」

 俺がクランハウスを出て行った後、腹ぺこさんがイベントの話を皆ともう少しだけしたらしいのだが、その時に何人かが王国領を目指したいと言い出したらしい。
 うちの攻略パーティーであるサキさん達が24レベルで肥大せし大樹を倒したことにより、自分達も平均25レベルくらいの6人パーティーで挑めば行けるのではないか? となり、サキさん達もボス戦の戦い方を皆に教えてくれて、全員がやる気になったとか。

「皆クラン長達と一緒に戦いたいって気持ちが強いですし、今回はクラン長と一緒は無理でも、今頑張ればサキさん達と一緒になら戦えそうですから」
「確かに初期メンバーも王国領だとほぼアウロサリバで止まってると思うから、第2陣の皆が頑張れば結構クランの皆で一緒に戦えそうかも?」
「なので今は皆ダンジョン攻略に必死です」

 そして今の状況を教えてくれた彼も、トイレから戻ったらすぐダンジョンに向かうからとパーティーメンバーを待たせてるらしく、俺に頭を下げた後扉へと走って行った。

「腹ぺこさんすらクランハウスに居ないのは凄いな」

 本当に今のクランハウスは空っぽだ。夜でこんな状況になった事が今までにあっただろうか。
 もし何も知らないクランメンバーが今ログインしてきたら、たぶんクランが潰れたと思ってびっくりしてしまうだろう。

「でもよく考えたら装備的には今皆のレベルが22、3くらいあっても不思議じゃないのか」

 最初から最低でもダンジョン武器を使用していた第2陣の皆は、相当最初の方のモンスターを倒すのは早かっただろう。
 だから、モンスターをゴリ押しで倒せなかったり、装備更新が必要になるのはこのあたりからのはずだ。
 モンスターを倒してもなかなかレベルが上がらなくなってくるのもこのあたりのはずなので、皆には出来るだけ楽しくこのレベル帯を抜けてくれることを願おう。

「じゃあ皆も居ないし、鉱石掘りにでも行くか」
「クゥ」「アウ」「……!」「コン」「ググ」

 俺はクリスタルから南の街に移動した後、皆が今必死にレベル上げをしているであろうダンジョンには行かず、グーさんに松明を持ってもらって、骨粉集めと鉱石集め、薬草採取や採石を同時並行で進めながら、もう慣れた夜の森を歩き回るのだった。


 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

【完結】VRMMOでスライム100万匹倒して最強になった僕は経験値で殴るゲームやってます

鳥山正人
ファンタジー
検証が大好きな主人公、三上ハヤト。 このゲームではブロンズ称号、シルバー称号、ゴールド称号が確認されている。 それ以上の称号があるかもしれないと思い、スライムを100万匹倒したらプラチナ称号を手に入れた主人公。 その称号効果はスライム種族特効効果。 そこからは定番の経験値スライムを倒して最強への道かと思ったら・・・ このゲームは経験値を分け与える事が出来て、売買出来るゲーム。 主人公は経験値でモンスターを殴ります。 ────── 自筆です。

俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~

仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。 ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。 ガチャ好きすぎて書いてしまった。

もふもふで始めるのんびり寄り道生活 便利なチートフル活用でVRMMOの世界を冒険します!

ゆるり
ファンタジー
【書籍化!】第17回ファンタジー小説大賞『癒し系ほっこり賞』受賞作です。 (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~』です) ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。 最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。 この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう! ……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは? *** ゲーム生活をのんびり楽しむ話。 バトルもありますが、基本はスローライフ。 主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。 カクヨム様でも公開しております。

処理中です...