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第一章 始まりの始まり
幕間Ⅱ 騎士団の動向・前編
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まだ足元の草木には朝露が残り、空も濃い青に染まっている時分。
ガシャガシャと鳴る鎧の音や杖がコツコツと奏でる音色を響かせながら、森の中をうろつく不思議な集団がいた。
ローブや鎧、直剣に槍に杖など装備にばらつきは見られるものの、皆一様に防具のどこかにエンブレムを掲げている。
彼らの正体は、人間領の王都アンスロポスに在中する王国騎士団だ。
王都を守る選りすぐりの部隊がなぜここに――等とは思わないでいて欲しい。なぜなら、彼らもまた同様のことを考えているからである。
その中の一人、背中に自らの身長とさして変わらないほどの大剣を背負っている初老の男性は、苦々しい顔である一点を見つめていた。
その元にまだ若々しい騎士団員が小走りで向かい、足元で跪く。
「バルディ閣下、キャメロン副団長をお連れしました」
恭しく頭を下げ報告する団員に、閣下と呼ばれる初老の男性――グンドルフ=バルディは困ったような顔を向ける。
「閣下は止してくれよ。僕はそんな大層な人間じゃあ無い」
「いえ、未だに騎士団長としてご健在でありながら、日々の研鑽を欠かさないそのお姿は我々の憧れであり目指すべき目標でございます。閣下と呼ぶに相応しきかと」
盲信的な団員の言葉に「困ったなぁー」と頬を掻く。その謙虚さもまた、騎士団員の尊敬すべき点とは知らずに。
「グンドルフ団長、お呼びですか?」
その時、爽やかな声音で誰かが話しかけてきた。
その姿を見たグンドルフはにこやかに出迎える。
「やぁ、ローラン君。わざわざ済まないね」
「いえ、団長がお呼びとあらば私達は何処へでも駆けつけますよ」
そう敬礼をしながら語る姿は、先程の騎士団員と比べても遜色ないほどに若かった。輝く銀髪と端正な顔立ち、誰もが見惚れるほどに格好良く、おそらくは十代後半といった見た目だ。しかし、その肩書きには雲泥の差がある。
彼の名はローラン=キャメロン。栄えある王国騎士団の副団長であり、詰まるところ人間の中で二番目に強い存在だ。
「それじゃあ早速だけど、アレを見てくれるかな?」
そう言って先程まで見つめていた場所を指差すグンドルフ。
その先には、半壊した馬車の荷台と無惨な死体が転がっていた。酷く荒らされているが、人と馬の死骸だということだけは見て取れる。
「…………どう思う?」
顎に手を当て、静かに問いかけるグンドルフにローランは答えた。
「荷台に商会のマークがありますし、私達が捜索しているもので間違いないでしょう。ただ、死体は食い荒らされているようですし……最近住み着いたという獣の仕業ですかね?」
「……ふむ。まぁ、普通はそう思うよねぇ」
「…………? 何か気になることでも?」
意味ありげな発言をするグンドルフにそう尋ねてみるも、彼は緩く首を振るだけだ。
「いや、ローラン君は気にしなくていいよ。どうせ、王城の彼が何とかしてくれる筈さ」
そう会話をしていると、またしても騎士団員が言伝を伝えに戻ってくる。
「閣下、キャメロン副団長、オーディ副団長がお呼びであります。何でも、大量の獣の死体を見つけた、と」
タイムリーな出来事にローランは少し驚く素振りを見せ、グンドルフは笑みを浮かべた。
「分かった、今行く」
ローランのその言葉を皮切りに、三人は森の北側へと歩いていく。
「……うーん、やっぱり閣下はないよねぇー」
そう呟かれたグンドルフの苦言だけを残して。
♦ ♦ ♦
目的の場所に辿り着くと、そこにはローブに身を包み手には杖を持った身長の高い男が現場を指揮していた。
「ご苦労さま、ワーナー君。今日も精が出るね」
「…………団長も……お変わりなく」
そう答える彼の名はワーナー=オーディ。ローブから覗く細すぎる腕とフードを目深にかぶり目元を隠しているのが特徴的で、お世辞にも二枚目な雰囲気は出ていない。そんな彼はローランと同じ副団長でありながら所属部隊は異なり、彼は魔法部隊を任されている。
「それで?獣の死体とはどこだ、ワーナー」
ローランも横から会話に参加してきたが、特に咎めることもなく道の先を杖で指し示す。
「……この先…………ずっと行くと、ある」
「そうか、ならば見に行くとしよう」
グンドルフの言葉に皆が頷くと、ワーナーの案内の元、件の場所へと足を進める。
そこは、まさに死体の山だった。
まだ経験の浅い騎士団員はともかく、それなりに経験と実力を積んだグンドルフ達までもがその光景に目を見張る。
「……鮮やかな切り口だと思わんかね、ローラン君」
手近な死体の切り口を見て、グンドルフはそう問いかけた。
「はい。しかも切り口がどれも同じです。おそらく、一人でこの数を相手取ったのだと……」
ローランの推測にグンドルフも頷く。
「うん、僕もそう思うよ。……しかし、あの国に我々以外でこんな芸当をやってのける者はいたかね?」
「…………いたら……噂。……人材部隊…………スカウト、する」
「はっはっは、確かに!彼らは優秀だからな」
ワーナーの呟きにグンドルフは笑って答えた。
しかし、お供していた騎士団員は気が気ではない。
和やかに会話されているがその内容は、少なくとも副騎士団長クラスの人間がいるというもの。騎士団に引き入れるだけで、この国の軍事力は大幅に増すこととなる。
「それで、誰の仕業か分かったのかな?」
グンドルフの一言にワーナーは静かに頷く。
「……さっき、ギルドの職員、来てた。…………今……話、聞いている」
「そうか……。ふむ、それじゃ私達もその話を聞きに行こうか」
「お疲れ様です、閣下!キャメロン副団長、オーディ副団長!」
話を聞いていた二人の団員のうちの一人が、こちらに気づき挨拶をする。
「はい、ご苦労さま。それで、何か分かったかな?」
未だに話を聞いている団員にちらと目を向け、もう一人にそう問いかけた。
「はっ!いえ、それが……レスコット=ノーノという少年が一人でこの依頼を受けたようなのですが、どうにも傭兵になりたてのようで詳しい事は分からないそうです」
「ふぅーん、やっぱり一人だったんだねぇー」
顎を撫で、グンドルフはポツリと呟く。
「――はい。はい、ご協力ありがとうございます」
その時、丁度よく向こうの話も終わったようで、話を聞いていた団員はこちらに気づくや敬礼を見せた。
「閣下、副団長の皆様、お疲れ様であります!」
「それで、首尾はどうだったんですか?」
ローランがそう尋ねるも、団員は首を横に振るだけだった。
「いえ、これといって特には……。ただ、ギルドに行けば登録情報を教えられるかも、と」
「やはり、そうなりますか……。団長、どうしますか?」
「んー、これ以上手がかりがないんじゃ、しょうがないね。ここの捜索を続けるグループと一度国に戻るグループに分けようか」
やれやれとばかりに肩を竦め、「そろそろ彼にも判断を煽ぐべきだろうしね」と付け加えた。
「…………同感。……私は、残る」
「そうだね。連絡役も欲しいし……それじゃあ――ワーナー君を除いたこの四人で行こうか」
グンドルフのその決定に、不満の声をあげる者は誰もいなかった。
♦ ♦ ♦
ギルドから出てきたグンドルフ一向であったが、その顔は皆一様に苦々しいものであった。
確かに登録情報は確認させてもらえたのだが、そのどれもが役に立つ情報とは言えなかったからである。
何でも普段は旅生活であり、この街にも一時的に立ち寄っただけ。それに加えて宿の場所も分からず、当の本人は人探しの依頼に出たそうだ。
「やれやれ、参ったね。仕方ないけど、城に残っている他の団員を使って虱潰しに宿を当たってもらうしかないかな、これは」
グンドルフのボヤきにローランも頷く。
「ですね。ギルド前での張り込みはさすがに非効率的ですし」
「まぁ、丁度いいよ。ついでに彼にも現状を報告しておこう」
そう言うと、グンドルフは城へと足を向ける。
街と森との行き帰り、長い時間の捜索、事情聴取と続き、辺りはすっかり暗くなっていた。この事実に気づき、彼らはそっとため息を漏らした。
ガシャガシャと鳴る鎧の音や杖がコツコツと奏でる音色を響かせながら、森の中をうろつく不思議な集団がいた。
ローブや鎧、直剣に槍に杖など装備にばらつきは見られるものの、皆一様に防具のどこかにエンブレムを掲げている。
彼らの正体は、人間領の王都アンスロポスに在中する王国騎士団だ。
王都を守る選りすぐりの部隊がなぜここに――等とは思わないでいて欲しい。なぜなら、彼らもまた同様のことを考えているからである。
その中の一人、背中に自らの身長とさして変わらないほどの大剣を背負っている初老の男性は、苦々しい顔である一点を見つめていた。
その元にまだ若々しい騎士団員が小走りで向かい、足元で跪く。
「バルディ閣下、キャメロン副団長をお連れしました」
恭しく頭を下げ報告する団員に、閣下と呼ばれる初老の男性――グンドルフ=バルディは困ったような顔を向ける。
「閣下は止してくれよ。僕はそんな大層な人間じゃあ無い」
「いえ、未だに騎士団長としてご健在でありながら、日々の研鑽を欠かさないそのお姿は我々の憧れであり目指すべき目標でございます。閣下と呼ぶに相応しきかと」
盲信的な団員の言葉に「困ったなぁー」と頬を掻く。その謙虚さもまた、騎士団員の尊敬すべき点とは知らずに。
「グンドルフ団長、お呼びですか?」
その時、爽やかな声音で誰かが話しかけてきた。
その姿を見たグンドルフはにこやかに出迎える。
「やぁ、ローラン君。わざわざ済まないね」
「いえ、団長がお呼びとあらば私達は何処へでも駆けつけますよ」
そう敬礼をしながら語る姿は、先程の騎士団員と比べても遜色ないほどに若かった。輝く銀髪と端正な顔立ち、誰もが見惚れるほどに格好良く、おそらくは十代後半といった見た目だ。しかし、その肩書きには雲泥の差がある。
彼の名はローラン=キャメロン。栄えある王国騎士団の副団長であり、詰まるところ人間の中で二番目に強い存在だ。
「それじゃあ早速だけど、アレを見てくれるかな?」
そう言って先程まで見つめていた場所を指差すグンドルフ。
その先には、半壊した馬車の荷台と無惨な死体が転がっていた。酷く荒らされているが、人と馬の死骸だということだけは見て取れる。
「…………どう思う?」
顎に手を当て、静かに問いかけるグンドルフにローランは答えた。
「荷台に商会のマークがありますし、私達が捜索しているもので間違いないでしょう。ただ、死体は食い荒らされているようですし……最近住み着いたという獣の仕業ですかね?」
「……ふむ。まぁ、普通はそう思うよねぇ」
「…………? 何か気になることでも?」
意味ありげな発言をするグンドルフにそう尋ねてみるも、彼は緩く首を振るだけだ。
「いや、ローラン君は気にしなくていいよ。どうせ、王城の彼が何とかしてくれる筈さ」
そう会話をしていると、またしても騎士団員が言伝を伝えに戻ってくる。
「閣下、キャメロン副団長、オーディ副団長がお呼びであります。何でも、大量の獣の死体を見つけた、と」
タイムリーな出来事にローランは少し驚く素振りを見せ、グンドルフは笑みを浮かべた。
「分かった、今行く」
ローランのその言葉を皮切りに、三人は森の北側へと歩いていく。
「……うーん、やっぱり閣下はないよねぇー」
そう呟かれたグンドルフの苦言だけを残して。
♦ ♦ ♦
目的の場所に辿り着くと、そこにはローブに身を包み手には杖を持った身長の高い男が現場を指揮していた。
「ご苦労さま、ワーナー君。今日も精が出るね」
「…………団長も……お変わりなく」
そう答える彼の名はワーナー=オーディ。ローブから覗く細すぎる腕とフードを目深にかぶり目元を隠しているのが特徴的で、お世辞にも二枚目な雰囲気は出ていない。そんな彼はローランと同じ副団長でありながら所属部隊は異なり、彼は魔法部隊を任されている。
「それで?獣の死体とはどこだ、ワーナー」
ローランも横から会話に参加してきたが、特に咎めることもなく道の先を杖で指し示す。
「……この先…………ずっと行くと、ある」
「そうか、ならば見に行くとしよう」
グンドルフの言葉に皆が頷くと、ワーナーの案内の元、件の場所へと足を進める。
そこは、まさに死体の山だった。
まだ経験の浅い騎士団員はともかく、それなりに経験と実力を積んだグンドルフ達までもがその光景に目を見張る。
「……鮮やかな切り口だと思わんかね、ローラン君」
手近な死体の切り口を見て、グンドルフはそう問いかけた。
「はい。しかも切り口がどれも同じです。おそらく、一人でこの数を相手取ったのだと……」
ローランの推測にグンドルフも頷く。
「うん、僕もそう思うよ。……しかし、あの国に我々以外でこんな芸当をやってのける者はいたかね?」
「…………いたら……噂。……人材部隊…………スカウト、する」
「はっはっは、確かに!彼らは優秀だからな」
ワーナーの呟きにグンドルフは笑って答えた。
しかし、お供していた騎士団員は気が気ではない。
和やかに会話されているがその内容は、少なくとも副騎士団長クラスの人間がいるというもの。騎士団に引き入れるだけで、この国の軍事力は大幅に増すこととなる。
「それで、誰の仕業か分かったのかな?」
グンドルフの一言にワーナーは静かに頷く。
「……さっき、ギルドの職員、来てた。…………今……話、聞いている」
「そうか……。ふむ、それじゃ私達もその話を聞きに行こうか」
「お疲れ様です、閣下!キャメロン副団長、オーディ副団長!」
話を聞いていた二人の団員のうちの一人が、こちらに気づき挨拶をする。
「はい、ご苦労さま。それで、何か分かったかな?」
未だに話を聞いている団員にちらと目を向け、もう一人にそう問いかけた。
「はっ!いえ、それが……レスコット=ノーノという少年が一人でこの依頼を受けたようなのですが、どうにも傭兵になりたてのようで詳しい事は分からないそうです」
「ふぅーん、やっぱり一人だったんだねぇー」
顎を撫で、グンドルフはポツリと呟く。
「――はい。はい、ご協力ありがとうございます」
その時、丁度よく向こうの話も終わったようで、話を聞いていた団員はこちらに気づくや敬礼を見せた。
「閣下、副団長の皆様、お疲れ様であります!」
「それで、首尾はどうだったんですか?」
ローランがそう尋ねるも、団員は首を横に振るだけだった。
「いえ、これといって特には……。ただ、ギルドに行けば登録情報を教えられるかも、と」
「やはり、そうなりますか……。団長、どうしますか?」
「んー、これ以上手がかりがないんじゃ、しょうがないね。ここの捜索を続けるグループと一度国に戻るグループに分けようか」
やれやれとばかりに肩を竦め、「そろそろ彼にも判断を煽ぐべきだろうしね」と付け加えた。
「…………同感。……私は、残る」
「そうだね。連絡役も欲しいし……それじゃあ――ワーナー君を除いたこの四人で行こうか」
グンドルフのその決定に、不満の声をあげる者は誰もいなかった。
♦ ♦ ♦
ギルドから出てきたグンドルフ一向であったが、その顔は皆一様に苦々しいものであった。
確かに登録情報は確認させてもらえたのだが、そのどれもが役に立つ情報とは言えなかったからである。
何でも普段は旅生活であり、この街にも一時的に立ち寄っただけ。それに加えて宿の場所も分からず、当の本人は人探しの依頼に出たそうだ。
「やれやれ、参ったね。仕方ないけど、城に残っている他の団員を使って虱潰しに宿を当たってもらうしかないかな、これは」
グンドルフのボヤきにローランも頷く。
「ですね。ギルド前での張り込みはさすがに非効率的ですし」
「まぁ、丁度いいよ。ついでに彼にも現状を報告しておこう」
そう言うと、グンドルフは城へと足を向ける。
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