存在しないフェアリーテイル

如月ゆう

文字の大きさ
10 / 81
第一章 始まりの始まり

幕間Ⅱ 騎士団の動向・前編

しおりを挟む
 まだ足元の草木には朝露が残り、空も濃い青に染まっている時分。
 ガシャガシャと鳴る鎧の音や杖がコツコツと奏でる音色を響かせながら、森の中をうろつく不思議な集団がいた。
 ローブや鎧、直剣に槍に杖など装備にばらつきは見られるものの、皆一様に防具のどこかにエンブレムを掲げている。

 彼らの正体は、人間領の王都アンスロポスに在中する王国騎士団だ。
 王都を守る選りすぐりの部隊がなぜここに――等とは思わないでいて欲しい。なぜなら、彼らもまた同様のことを考えているからである。

 その中の一人、背中に自らの身長とさして変わらないほどの大剣を背負っている初老の男性は、苦々しい顔である一点を見つめていた。
 その元にまだ若々しい騎士団員が小走りで向かい、足元で跪く。

「バルディ閣下、キャメロン副団長をお連れしました」

 恭しく頭を下げ報告する団員に、閣下と呼ばれる初老の男性――グンドルフ=バルディは困ったような顔を向ける。

「閣下は止してくれよ。僕はそんな大層な人間じゃあ無い」
「いえ、未だに騎士団長としてご健在でありながら、日々の研鑽を欠かさないそのお姿は我々の憧れであり目指すべき目標でございます。閣下と呼ぶに相応しきかと」

 盲信的な団員の言葉に「困ったなぁー」と頬を掻く。その謙虚さもまた、騎士団員の尊敬すべき点とは知らずに。

「グンドルフ団長、お呼びですか?」

 その時、爽やかな声音で誰かが話しかけてきた。
 その姿を見たグンドルフはにこやかに出迎える。

「やぁ、ローラン君。わざわざ済まないね」
「いえ、団長がお呼びとあらば私達は何処へでも駆けつけますよ」

 そう敬礼をしながら語る姿は、先程の騎士団員と比べても遜色ないほどに若かった。輝く銀髪と端正な顔立ち、誰もが見惚れるほどに格好良く、おそらくは十代後半といった見た目だ。しかし、その肩書きには雲泥の差がある。
 彼の名はローラン=キャメロン。栄えある王国騎士団の副団長であり、詰まるところ人間の中で二番目に強い存在だ。

「それじゃあ早速だけど、アレを見てくれるかな?」

 そう言って先程まで見つめていた場所を指差すグンドルフ。
 その先には、半壊した馬車の荷台と無惨な死体が転がっていた。酷く荒らされているが、人と馬の死骸だということだけは見て取れる。

「…………どう思う?」

 顎に手を当て、静かに問いかけるグンドルフにローランは答えた。

「荷台に商会のマークがありますし、私達が捜索しているもので間違いないでしょう。ただ、死体は食い荒らされているようですし……最近住み着いたという獣の仕業ですかね?」
「……ふむ。まぁ、普通はそう思うよねぇ」
「…………?  何か気になることでも?」

 意味ありげな発言をするグンドルフにそう尋ねてみるも、彼は緩く首を振るだけだ。

「いや、ローラン君は気にしなくていいよ。どうせ、王城の彼が何とかしてくれる筈さ」

 そう会話をしていると、またしても騎士団員が言伝を伝えに戻ってくる。

「閣下、キャメロン副団長、オーディ副団長がお呼びであります。何でも、大量の獣の死体を見つけた、と」

 タイムリーな出来事にローランは少し驚く素振りを見せ、グンドルフは笑みを浮かべた。

「分かった、今行く」

 ローランのその言葉を皮切りに、三人は森の北側へと歩いていく。

「……うーん、やっぱり閣下はないよねぇー」

 そう呟かれたグンドルフの苦言だけを残して。


 ♦ ♦ ♦


 目的の場所に辿り着くと、そこにはローブに身を包み手には杖を持った身長の高い男が現場を指揮していた。

「ご苦労さま、ワーナー君。今日も精が出るね」
「…………団長も……お変わりなく」

 そう答える彼の名はワーナー=オーディ。ローブから覗く細すぎる腕とフードを目深にかぶり目元を隠しているのが特徴的で、お世辞にも二枚目な雰囲気は出ていない。そんな彼はローランと同じ副団長でありながら所属部隊は異なり、彼は魔法部隊を任されている。

「それで?獣の死体とはどこだ、ワーナー」

 ローランも横から会話に参加してきたが、特に咎めることもなく道の先を杖で指し示す。

「……この先…………ずっと行くと、ある」
「そうか、ならば見に行くとしよう」

 グンドルフの言葉に皆が頷くと、ワーナーの案内の元、件の場所へと足を進める。
 そこは、まさに死体の山だった。
 まだ経験の浅い騎士団員はともかく、それなりに経験と実力を積んだグンドルフ達までもがその光景に目を見張る。

「……鮮やかな切り口だと思わんかね、ローラン君」

 手近な死体の切り口を見て、グンドルフはそう問いかけた。

「はい。しかも切り口がどれも同じです。おそらく、一人でこの数を相手取ったのだと……」

 ローランの推測にグンドルフも頷く。

「うん、僕もそう思うよ。……しかし、あの国に我々以外でこんな芸当をやってのける者はいたかね?」
「…………いたら……噂。……人材部隊…………スカウト、する」
「はっはっは、確かに!彼らは優秀だからな」

 ワーナーの呟きにグンドルフは笑って答えた。
 しかし、お供していた騎士団員は気が気ではない。
 和やかに会話されているがその内容は、少なくとも副騎士団長クラスの人間がいるというもの。騎士団に引き入れるだけで、この国の軍事力は大幅に増すこととなる。

「それで、誰の仕業か分かったのかな?」

 グンドルフの一言にワーナーは静かに頷く。

「……さっき、ギルドの職員、来てた。…………今……話、聞いている」
「そうか……。ふむ、それじゃ私達もその話を聞きに行こうか」



「お疲れ様です、閣下!キャメロン副団長、オーディ副団長!」

 話を聞いていた二人の団員のうちの一人が、こちらに気づき挨拶をする。

「はい、ご苦労さま。それで、何か分かったかな?」

 未だに話を聞いている団員にちらと目を向け、もう一人にそう問いかけた。

「はっ!いえ、それが……レスコット=ノーノという少年が一人でこの依頼を受けたようなのですが、どうにも傭兵になりたてのようで詳しい事は分からないそうです」
「ふぅーん、やっぱり一人だったんだねぇー」

 顎を撫で、グンドルフはポツリと呟く。

「――はい。はい、ご協力ありがとうございます」

 その時、丁度よく向こうの話も終わったようで、話を聞いていた団員はこちらに気づくや敬礼を見せた。

「閣下、副団長の皆様、お疲れ様であります!」
「それで、首尾はどうだったんですか?」

 ローランがそう尋ねるも、団員は首を横に振るだけだった。

「いえ、これといって特には……。ただ、ギルドに行けば登録情報を教えられるかも、と」
「やはり、そうなりますか……。団長、どうしますか?」
「んー、これ以上手がかりがないんじゃ、しょうがないね。ここの捜索を続けるグループと一度国に戻るグループに分けようか」

 やれやれとばかりに肩を竦め、「そろそろ彼にも判断を煽ぐべきだろうしね」と付け加えた。

「…………同感。……私は、残る」
「そうだね。連絡役も欲しいし……それじゃあ――ワーナー君を除いたこの四人で行こうか」

 グンドルフのその決定に、不満の声をあげる者は誰もいなかった。


 ♦ ♦ ♦


 ギルドから出てきたグンドルフ一向であったが、その顔は皆一様に苦々しいものであった。
 確かに登録情報は確認させてもらえたのだが、そのどれもが役に立つ情報とは言えなかったからである。
 何でも普段は旅生活であり、この街にも一時的に立ち寄っただけ。それに加えて宿の場所も分からず、当の本人は人探しの依頼に出たそうだ。

「やれやれ、参ったね。仕方ないけど、城に残っている他の団員を使って虱潰しに宿を当たってもらうしかないかな、これは」

 グンドルフのボヤきにローランも頷く。

「ですね。ギルド前での張り込みはさすがに非効率的ですし」
「まぁ、丁度いいよ。ついでに彼にも現状を報告しておこう」

 そう言うと、グンドルフは城へと足を向ける。
 街と森との行き帰り、長い時間の捜索、事情聴取と続き、辺りはすっかり暗くなっていた。この事実に気づき、彼らはそっとため息を漏らした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

Millennium226 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 6】 ― 皇帝のいない如月 ―

kei
歴史・時代
周囲の外敵をことごとく鎮定し、向かうところ敵なし! 盤石に見えた帝国の政(まつりごと)。 しかし、その政体を覆す計画が密かに進行していた。 帝国の生きた守り神「軍神マルスの娘」に厳命が下る。 帝都を襲うクーデター計画を粉砕せよ!

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

処理中です...