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第四章 何かを護る、たった一つの条件
第十三話 空白の三ヶ月⑩
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それから時が過ぎること一ヶ月。
起きたらソニアと共に寝たきりのレスのお世話をし、午前中は皆と組み手、午後は魔力を感じられるように延々座っているだけ、という日々を送っていくうちに自覚できるほどには成長が見られるようになった。
まずは組み手から。
こちらは平均勝率が三割ほどに上がり、調子の良いときは五分五分で戦えるまでになった。
修行を始めた時期が皆とは違って浅く、また、その期間も短い割には頑張っていると思う。
ただ、それはあくまでも魔力抜きの素手戦闘であり、近接型のルーカスたちには遠く及ばないのだけれど……。
次は魔力操作について。
こちらは始めて二週間くらいだろうか――に、唐突な変化が現れた。
本当に小さく、そして薄い揺らめきではあるが、それが人の周りを漂っている感覚を覚え始めたのだ。
最初は空気の揺らぎというか、陽炎のようなぼんやりとしたもので、それは日を追うごとに確かなものへと変わっていく。
そうして昨日、ナディアお姉さんからお墨付きを貰った私は、ついに魔法の修行へと入ろうとしていた。
「――というわけで、いよいよ魔法を教えるわけだけど……ぶっちゃけ、もう私は要らないのよね」
お昼を食べた午後の一発目。
いきなりそんなことを言われ、私のペースは早速崩される。
「それは、どういうことですか?」
「魔法に必要なのは想像力――つまり、魔力の操作以外には特別な技術が必要のないものなの。云わば、自分との戦いね」
……そういえば、レスも言ってた。
続けていけば魔法を使うのに慣れてくる、って。つまり、あとは一人で練習しているだけで上達するのだろう。
「でもまぁ、折角なんだし少し講義をしてあげましょう。熟練者ならみんな知っている内容だから、ちゃんと聞いておきなさい」
「よろしくお願いします……!」
良かった。
とは言っても、そこから「じゃあ、頑張ってね」などと投げられては少し困っていたところだから。
「じゃあまずは何でもいいから魔法を使ってみましょう。魔力を意識して、それを想像で別のものに変えるイメージね」
言われた私は目を閉じ、自分の魔力を感じる。
大丈夫、今の私なら分かる。感じた魔力を静かに指先へと集めると、空中へと宛もなくなぞった。
その軌跡に、炎が走るイメージを施しながら。
結果は見事に成功し、色取り取りの炎で形成された図形が浮かぶ。そんな中でパチパチと一つだけの拍手が鳴り響いていた。
「上出来ね。……さて、そこでまず教えたいのが『魔法で生み出したものは全て、定めた性質の元で物理法則に従う』ということよ」
最近気づいたことだけど、ナディアお姉さんの説明は一度聞いただけでは分からない。
内容が難しい――というのもあるのだろうけど、それ以上に本質を理解させようとしてくるからピンとこないことが多いのだと思う。
「ま、分かんないだろうから実際に見せるわね」
だから、こうして毎回実演してくれる。
パチンと指を鳴らせば、その手にはいつの間にか二枚の紙が握られていた。
「さて、ここに紙が二枚あるわけだけど……貴方の魔法で燃やしたらどうなるでしょう?」
「…………? 燃えるでしょ?」
燃やしたら、燃える。
否定する要素のない当たり前のことだ。
「じゃあ、試してみなさい」
首を捻りつつも魔法を行使してみると、案の定燃え上がり、その灰は風に流されて空気と混ざる。
――ただし、片方だけ。
「なん、で…………?」
「これがさっきの言葉の意味。私は普通の紙と燃えない紙の二つを魔法で作ったわ。その性質通りに、物理法則に従って結果が生じただけ」
でもならば、私が仮に『何でも燃やす炎』を生み出したらどうなるのだろう?
そんな疑問がすぐに浮かぶも、心を読んだかのようにナディアお姉さんは答えを教えてくれる。
「この話をすれば勘のいい子はこう思うはずよ。『なら、同じように全てを燃やす炎を作ったらどうなるんだ』とね。その答えは、使用者の想定次第。今回の場合だと、私は通常の炎に耐えうるように想像したけど、かといって太陽に耐えられるわけではない。また、そういった性質の付与は魔力の消費に比例するから、何でもかんでも生み出したものに耐性を付けていたら、すぐに魔力切れを起こすわ」
なるほど。使い所と無駄のない使用が必要なんだ……。
となると、魔法による戦闘は私の思った以上に奥深いものなのかもしれない。
「じゃあ、次。二つ目は『魔法の限界について』を教えましょう。魔法を覚えた子らが一番に思うことは、その利便性。けれど、魔法はあくまでも"便利"なだけで、"万能"ではないわ」
その言葉は覚えている。
レスの容態を見ていた時に、私が言われた言葉だ。
「確か……人の体は直せないんでしたよね?」
「そう、だけどそれだけじゃない。少し話が変わるけど、想像力の行き着いた先がどうなるか分かるかしら?」
想像力の行き着いた先……?
答えが分からないのは言うまでもないことだけど、それ以上に問われた内容の意味さえも理解しにくい。
ナディアお姉さんも始めから答えが出るとは思っていないようで、尋ねながらもすぐに答え合わせをする。
「正解は『思い込みや先入観、無意識』。そうであろうという想像は、いつしかそうなるという思い込みや先入観となり、無意識下でそれは当然のものへと昇華される。それは魔法の使用において最も強固な存在なの。そして同時に、人に直接働きかける魔法が厳しい証左でもある」
…………話が読めない。
思い込みが想像力よりも強い、というのは何となく分かる。けれど、それが後半の内容に全然繋がらない。……あと、『証左』の意味も分からない。
話を途切らせると余計に分からなくなりそうなので、取り敢えずはこのまま聞いているけど……。
「つまりは、どういうことか。例えば、私が貴方に幻を見せる魔法を使うとする。この際、必要になってくる想像は『相手の目線で私が見せたいものを見ている』というもの。この相手の目線が、重要になってくるのよ。人は身体的機能を魔力を用いることで作用させていると言われているわ。それはすなわち、脳が無意識に魔力を――魔法を使っているということ。なら、そこに魔力で私が干渉した時……一体どうなるのかしらね」
何となく、話が読めた。
「より強い無意識下での魔法が優先される……ってことですか?」
「その通り!」
パチンと指を鳴らして、肯定してくれる。
魔法を使う時によく見かける動作だけど、どうやらそれはナディアお姉さんの癖みたいなものらしい。
「まぁ、長く話しちゃったけど……要は人には魔法で直接働きかけることができないってことよ。自分を除いてね。だから、ちゃんと考えてから使用しなさい」
締めらしく簡潔に、そしてしっかりとまとめられた言葉。
その意味をしっかりと受け取った私だった。
「さて、じゃあ最後に使えたら便利な魔法を紹介しておくわね」
嘘。全然締めじゃなかった。
けど、本人が「最後」と言ったのだし、本当にコレで講義は終わるのだろう。
「まずは――」
それからは、ナディアお姉さんの指導の元、様々な魔法を扱ってみる。
また、空いている時間を見つけては魔力の続く限り反復で魔法を使用し、練習を行っていった。
そんな生活を送ること二ヶ月。
――そして、時は舞い戻る。
起きたらソニアと共に寝たきりのレスのお世話をし、午前中は皆と組み手、午後は魔力を感じられるように延々座っているだけ、という日々を送っていくうちに自覚できるほどには成長が見られるようになった。
まずは組み手から。
こちらは平均勝率が三割ほどに上がり、調子の良いときは五分五分で戦えるまでになった。
修行を始めた時期が皆とは違って浅く、また、その期間も短い割には頑張っていると思う。
ただ、それはあくまでも魔力抜きの素手戦闘であり、近接型のルーカスたちには遠く及ばないのだけれど……。
次は魔力操作について。
こちらは始めて二週間くらいだろうか――に、唐突な変化が現れた。
本当に小さく、そして薄い揺らめきではあるが、それが人の周りを漂っている感覚を覚え始めたのだ。
最初は空気の揺らぎというか、陽炎のようなぼんやりとしたもので、それは日を追うごとに確かなものへと変わっていく。
そうして昨日、ナディアお姉さんからお墨付きを貰った私は、ついに魔法の修行へと入ろうとしていた。
「――というわけで、いよいよ魔法を教えるわけだけど……ぶっちゃけ、もう私は要らないのよね」
お昼を食べた午後の一発目。
いきなりそんなことを言われ、私のペースは早速崩される。
「それは、どういうことですか?」
「魔法に必要なのは想像力――つまり、魔力の操作以外には特別な技術が必要のないものなの。云わば、自分との戦いね」
……そういえば、レスも言ってた。
続けていけば魔法を使うのに慣れてくる、って。つまり、あとは一人で練習しているだけで上達するのだろう。
「でもまぁ、折角なんだし少し講義をしてあげましょう。熟練者ならみんな知っている内容だから、ちゃんと聞いておきなさい」
「よろしくお願いします……!」
良かった。
とは言っても、そこから「じゃあ、頑張ってね」などと投げられては少し困っていたところだから。
「じゃあまずは何でもいいから魔法を使ってみましょう。魔力を意識して、それを想像で別のものに変えるイメージね」
言われた私は目を閉じ、自分の魔力を感じる。
大丈夫、今の私なら分かる。感じた魔力を静かに指先へと集めると、空中へと宛もなくなぞった。
その軌跡に、炎が走るイメージを施しながら。
結果は見事に成功し、色取り取りの炎で形成された図形が浮かぶ。そんな中でパチパチと一つだけの拍手が鳴り響いていた。
「上出来ね。……さて、そこでまず教えたいのが『魔法で生み出したものは全て、定めた性質の元で物理法則に従う』ということよ」
最近気づいたことだけど、ナディアお姉さんの説明は一度聞いただけでは分からない。
内容が難しい――というのもあるのだろうけど、それ以上に本質を理解させようとしてくるからピンとこないことが多いのだと思う。
「ま、分かんないだろうから実際に見せるわね」
だから、こうして毎回実演してくれる。
パチンと指を鳴らせば、その手にはいつの間にか二枚の紙が握られていた。
「さて、ここに紙が二枚あるわけだけど……貴方の魔法で燃やしたらどうなるでしょう?」
「…………? 燃えるでしょ?」
燃やしたら、燃える。
否定する要素のない当たり前のことだ。
「じゃあ、試してみなさい」
首を捻りつつも魔法を行使してみると、案の定燃え上がり、その灰は風に流されて空気と混ざる。
――ただし、片方だけ。
「なん、で…………?」
「これがさっきの言葉の意味。私は普通の紙と燃えない紙の二つを魔法で作ったわ。その性質通りに、物理法則に従って結果が生じただけ」
でもならば、私が仮に『何でも燃やす炎』を生み出したらどうなるのだろう?
そんな疑問がすぐに浮かぶも、心を読んだかのようにナディアお姉さんは答えを教えてくれる。
「この話をすれば勘のいい子はこう思うはずよ。『なら、同じように全てを燃やす炎を作ったらどうなるんだ』とね。その答えは、使用者の想定次第。今回の場合だと、私は通常の炎に耐えうるように想像したけど、かといって太陽に耐えられるわけではない。また、そういった性質の付与は魔力の消費に比例するから、何でもかんでも生み出したものに耐性を付けていたら、すぐに魔力切れを起こすわ」
なるほど。使い所と無駄のない使用が必要なんだ……。
となると、魔法による戦闘は私の思った以上に奥深いものなのかもしれない。
「じゃあ、次。二つ目は『魔法の限界について』を教えましょう。魔法を覚えた子らが一番に思うことは、その利便性。けれど、魔法はあくまでも"便利"なだけで、"万能"ではないわ」
その言葉は覚えている。
レスの容態を見ていた時に、私が言われた言葉だ。
「確か……人の体は直せないんでしたよね?」
「そう、だけどそれだけじゃない。少し話が変わるけど、想像力の行き着いた先がどうなるか分かるかしら?」
想像力の行き着いた先……?
答えが分からないのは言うまでもないことだけど、それ以上に問われた内容の意味さえも理解しにくい。
ナディアお姉さんも始めから答えが出るとは思っていないようで、尋ねながらもすぐに答え合わせをする。
「正解は『思い込みや先入観、無意識』。そうであろうという想像は、いつしかそうなるという思い込みや先入観となり、無意識下でそれは当然のものへと昇華される。それは魔法の使用において最も強固な存在なの。そして同時に、人に直接働きかける魔法が厳しい証左でもある」
…………話が読めない。
思い込みが想像力よりも強い、というのは何となく分かる。けれど、それが後半の内容に全然繋がらない。……あと、『証左』の意味も分からない。
話を途切らせると余計に分からなくなりそうなので、取り敢えずはこのまま聞いているけど……。
「つまりは、どういうことか。例えば、私が貴方に幻を見せる魔法を使うとする。この際、必要になってくる想像は『相手の目線で私が見せたいものを見ている』というもの。この相手の目線が、重要になってくるのよ。人は身体的機能を魔力を用いることで作用させていると言われているわ。それはすなわち、脳が無意識に魔力を――魔法を使っているということ。なら、そこに魔力で私が干渉した時……一体どうなるのかしらね」
何となく、話が読めた。
「より強い無意識下での魔法が優先される……ってことですか?」
「その通り!」
パチンと指を鳴らして、肯定してくれる。
魔法を使う時によく見かける動作だけど、どうやらそれはナディアお姉さんの癖みたいなものらしい。
「まぁ、長く話しちゃったけど……要は人には魔法で直接働きかけることができないってことよ。自分を除いてね。だから、ちゃんと考えてから使用しなさい」
締めらしく簡潔に、そしてしっかりとまとめられた言葉。
その意味をしっかりと受け取った私だった。
「さて、じゃあ最後に使えたら便利な魔法を紹介しておくわね」
嘘。全然締めじゃなかった。
けど、本人が「最後」と言ったのだし、本当にコレで講義は終わるのだろう。
「まずは――」
それからは、ナディアお姉さんの指導の元、様々な魔法を扱ってみる。
また、空いている時間を見つけては魔力の続く限り反復で魔法を使用し、練習を行っていった。
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