存在しないフェアリーテイル

如月ゆう

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第四章 何かを護る、たった一つの条件

第十四話 ――そして現在。

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「――ってことがあったよ」

 レスが眠っていた空白の三ヶ月間。
 その全てを話した私は、疲れからため息を一つ吐く。

 しゃべりどおしで喉がカラカラ。
 レスのリュックからとある魔導具を取り出すと、魔力を流して水を生み出して喉を潤した。

 ……ふぅ、美味しい。

「……あぁ、そっか。ルゥはもう魔法が使えるんだもんな。魔導具もしっかりと扱えて当然か……」

 そんな私の姿を見つめながら、レスはそう呟く。
 その瞳はこの三ヶ月間で得た私の成長を生温かく見守っているようで、恥ずかしくもあり、少し誇らしくもあった。

 ともすれば、部屋の外からはタタタッと何かの駆ける音が近づき、次の瞬間には大きな音を立てて扉が勢いよく開く。

「レスの起き上がる気配を感じたわ!」

 開口一番からそんな台詞。
 相も変わらず、リズさんの持つ対レス専用の勘の精度は凄まじい。

 そして、その後ろからはソニアが息を切らして走ってきていた。

「はぁ、はぁ…………リズ姉、速すぎる……よぉ…………。急に走って……はぁ……どう、したの?」

 膝に手を付き、何度も浅い呼吸を繰り返す。
 しばらくすれば落ち着いたようで、顔を上げると私を見つけた。

「あ、ルゥちゃん。もう、遅いよー。皆がご飯を待ってるんだから、早く来な……い……と――」

 視界の端にその人物を捉えたのか。はたまた気配を感じたのか。
 次第にその声音を小さくか細いものへと変化し、反対に瞳は大きく見開かれていく。

「よぉ、ソニア。それに、リズも。…………なんか、心配かけたみたいだな」

 対称的な軽い反応。
 私もそうだったけど、「どれだけ心配したと思っているのか」という怒りと、「無事に目覚めて良かった」という安心感とで、浮かぶ表情は歪なものとなる。

 結果、一人は強がり、もう一人は行動でその憤りを体現した。

「もう、レスくーん! 皆、心配してたんだからねー!」

 タックルと遜色ないレベルでレスの胸へと飛び込むソニア。
 一方のリズさんは顔をそむけ、唇を尖らせる。

「ふん、私は別にそこまで……。付き合いが長いんだし、アンタがあれくらいじゃ死なないって知ってたから」

 私は事実を知っており、他の二人は彼女の性格を理解しているため、その言動を苦笑混じりに眺めていた。
 その微笑ましい雰囲気が気に食わなかったのか、なおも言い募られる。

「なによ、私は本当に――!」

 しかし、すぐに無駄だということを理解したのだろう。
 諦めてため息を吐いた。

「…………はぁ、もういいわ。それよりレス、ウィリーがか・な・り怒ってるわよ?」

「マジか……いや、そうだよなー。…………面倒だ」

 そのため息は連鎖を起こし、室内はなぜか変な空気へと変わる。
 そんな折、雰囲気を壊すようにレスにしがみついていたソニアが声を上げた。

「それはそうと……皆がご飯を待ってるんだし、移動しない?」

「そうだな。俺も顔を合わせるために行くか」
「そうね、私もいい加減お腹が減ったわ」
「うん」

 三者三様、それぞれが返事をして立ち上がる。

「……そういえばアンタ、ずっと寝っぱなしだったけど身体は平気なの?」

 食事場へ向かう道中。
 先頭を歩いていたリズさんは何かを気にしたようにチラと振り返り、レスに尋ねた。

 一方の問われた側は、自身の腕に触れたり、肘を伸ばしたりと身体の調子を確かめ始める。

「何とも…………ないな、うん。理屈も理由も分からんが、寝たきりだったのに全く筋肉が衰えてない」

「でも、さすがに胃は弱ってるだろうから、私が何か作るよ」

 続いて、レスの右手を占領していたソニアがそんなことを提案した。
 ちなみに、左手は私。

「いや、自分のことは自分でするから別にいいよ。ソニアの食べる時間を奪うのも悪いしな」

「いいのー! レスくんに上達した私の腕を見せたいんだから!」

 断るレスに対して、駄々をこねるように我を通すソニア。
 けれど、私にはその気持ちが分かる。

 この三ヶ月間で成長した自分の姿をレスに見て欲しい。
 そんなことを考えながら、私は会話に耳を傾けた。

「そう言うなら、ソニアに頼むか。……期待してるぞ、シェフよ」

「うん、任せて!」

 皆の集まっている食事場まではもう少しだ。


 ♦ ♦ ♦


「――見舞いだ、受け取れ! このバカ兄弟子!」

 扉を開けて早々に出迎えてくれたのはウィリーさん。
 まるで見計らっていたかのような良いタイミングで、レスへと攻撃を仕掛けてきた。

 ……というか、本当に拳を見舞ってる…………。

 しかし、対するレスも負けてはいない。
 即座に意識を切り替えると、掴んでいた私たちの腕を振りほどき、攻撃に備えた体勢をとる。

「――いてっ!」

 そして、躱される拳。響く声。
 それは私の下から聞こえていた。

「あの……ルゥ、ちゃん……?」

 呆然と投げかけられるソニアの言葉。
 リズさんやウィリーさんは唖然としたまま立っており、他の皆も座った状態から無言。唯一、ナディアお姉さんだけが爆笑していた。

「え…………? ――あっ!」

 そんな状況から、私は大変なことに気が付く。

「ごめん、レス! つい癖で腕を振りほどかれた時に投げちゃった……!」

 綺麗に関節をキメている私と、病み上がりで組み倒されたレス。
 慌てて身体をどかし、自由にすると、彼は肩などをグルグルと回し始めた。

「いや、うん……別にいいんだけど、さ……。…………強くなったな、ルゥ」

 なんとも言えない表情で賞賛を送ってくれる。
 けど、おかしい……。欲しかった言葉なのに、少しも嬉しくない。

 その間も、一人笑っていたナディアお姉さんは、目元を指先で拭ってこう言う。

「はー、面白い! ……三人とも、ここは食事をする場所なんだからあまり暴れちゃダメよ。それとウィリー、さっきのルゥちゃんの一発で水に流してあげなさい」

「……………………分かりました」

「さ、みんな席についてご飯にしましょう。それが終わればいくらでもどこぞのお寝坊さんに構っていっていいから、それまでは我慢しなさいね」

 釘を指すように全体にそう言い放つと、何人かの子供たちはギクリと肩を揺らした。
 まぁ、レスが運び込まれた時も凄い騒ぎだったんだ。起きた今の状況も、本来なら騒ぐべき案件に違いない。

「それじゃ、いただきます」

『いただきます』

 そういうわけで始まった食事。
 ソニアは早々にレスの料理を作りにキッチンへと向かい、ナディアお姉さんは問診と診察を始めていた。

 それを横目に私はパンを頬張る。

「…………本当ね。筋肉が全く衰えていない。いえ、それどころか少し強くなってるかも……」

「こんなことって有り得るのか? 何か心当たりは?」

「あるわけないでしょ。……けど、それを言ったら貴方の傷の回復自体が規格外だったけど…………」

「回復……? お師匠さんが治してくれたんじゃないのか?」

「いいえ。勝手に、自然に治っていったわ。それも凄い速さで。……そっちこそ、何か心当たりはないの?」

「…………………………………………」

 レスは黙り込む。
 心当たりはあるだろう。何せ、私でも思いつくのだから。

「…………まぁいいわ、後で聞くから。この様子でいえば多分胃も弱ってはいないはずだし、普通に食事が出来ると思うけど……」

「いや、やめとく。せっかくソニアが作ってくれてるんだしな」

「それがいいわね。さて、では私も頂きましょうか」

 そこで会話は終了し、丁度よくソニアが料理を運んできた。
 お皿には煮込んだせいでグズグズになった食材とスープ。甘い香りが漂っており、さしずめその正体は果物だろうか?

「はい、コンポートだよ。パンも加えて煮込んだから、栄養的にも消化的にも問題ないと思うけど……」

「ありがとう。それじゃ俺もいただきます」

 そう口ずさみ、レスは一口スプーンで食べる。
 何故だろう……。作ったわけでもないのに、私もドキドキする……。

「…………どう?」

「…………うん、病人食なんてこんなものだよな」

 思わぬ返事に私は転びそうになった。
 そんな答えはないだろう。そう感じてソニアの方を伺ってみると、こっちはこっちで笑っている。

「あはは、まぁ薄いよね! でも、それくらい文句が言えるってことは元気な証拠。今度はお菓子を作るから覚悟しておいて!」

「おう、俺も新作で太刀打ちしてやる」

 けどまぁ、二人が楽しそうならいっか。
 これまで以上の賑やかな食事に、私はもう一個パンを頬張った。
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