滅びゆく王国と平等の国を築く王女

第４７話：戦いの前の最後の舞踏会

戦いの日の前夜、午後８：００時にて：

モンテクレール公爵の屋敷の大舞踏場は、金色のシャンデリアの光に包まれ、その柔らかな光が豪華な大理石の床と精巧に彫られた柱に反射していた。

空気は、クラシックなワルツを奏でるオーケストラの調和のとれたメロディーで満ちており、その音色は優雅さと洗練された雰囲気を醸し出していた。

今夜は平和への別れの夜——戦争が王国を飲み込む前の最後の集いだった。
そして、そのすべての中心に、エヴリン新女王陛下とマリク護衛兵士が立っていた。

彼らはまさに、王族と伝説の誕生を象徴する存在だった。

深紅の威厳あるドレスを身にまとい、絹のような髪の上に金色のティアラを乗せたエヴリンは、まさに王族の象徴だった。

金色のケープが肩から流れ落ち、彼女のすべての動きを女王たらしめる存在感で引き立てていた。

彼女の傍らには、マリクが堂々と立っていた。

彼は見事に仕立てられた黒と金のスーツを身にまとい、その黒い肌が貴族の衣装と対照的で、彼の威厳ある存在感をさらに引き立てていた。

彼はもはやただの戦士と護衛兵士ではない——今夜、彼は特別な称号も騎士として認められたりすることもないが、それでも大いに王の風格を備えているようだ。

オーケストラが壮大なワルツに移ると、二人は磨かれたダンスフロアに足を踏み入れた。

そして——彼らは踊った。

彼らの動きは流れるように滑らかで、正確で、魅惑的だった。
それぞれのターン、それぞれのステップ、それぞれのスピンは、彼らが共に築き上げたものの象徴だった。

彼らの周りでは、貴族や商人たち——味方も懐疑的な者も——畏敬の念を抱いて見つめていた。

舞踏場の端では、モンテクレール公爵が壁に寄りかかり、驚きと喜びを混ぜた表情で見つめていた。

彼はワインのゴブレットを一口飲みながら、笑みを浮かべた。
「はあ。もしあの愚かな王が自分の娘のこれを見たら……なんという光景だろうな」

しかし、群衆の中には、もっと複雑な感情を抱いている者たちもいた。

奴隷から解放されたばかりの黒人男性たちが、遠くから複雑な表情で見つめていた——誇り、賞賛……そして嫉妬。

その中の一人、鋭く知的な目をした筋肉質の男が拳を握りしめた。
「見ろよ……この王国で唯一、王族と踊ることを許された黒人だ」

もう一人、若くて痩せた男はゆっくりと口笛を吹いた。
「ちぇっ。元奴隷が、未来の女王と踊るなんて。俺たちには夢にも思わなかったことだ」

三人目の男、年配で疲れた様子の男はため息をついた。
「でも、それには意味がある……そうじゃないか？もし彼があそこに立てるなら、俺たちにも希望があるかもしれない」

しかし、この様々な感情は男性たちだけのものではなかった。

舞踏場の反対側では、奴隷から解放された黒人女性たちも、深い憧れを抱きながら見つめていた。

その中の一人、優雅な特徴を持つ若い女性は、自分の質素なドレスに触れ、かすかな声で呟いた。
「もし私が白人貴族の女性として生まれていたら……」

もう一人、年配で賢そうな女性は、彼女の肩に慰めの手を置いた。
「彼らを羨ましがりすぎないで、子供よ。あの男は歴史の重荷を背負わなければならない。そしてあの金髪の白人女王……彼女は世界を変えようとしているのよ」

それでも、その感情は空気の中に漂っていた。

今夜、マリクとエヴリンは、彼らのような人々のために作られていない世界に住んでいた。
しかし、すべての困難を乗り越えて——彼らはここにいた。

ダンスは続き、彼らをより近く、より速く、より深く、忘れられない瞬間へと導いていった。

ワルツの最後の音が舞踏場に響き渡ると、マリクはエヴリンをしっかりと抱き寄せ、彼らの息が混ざり合い、彼らの視線は言葉にできないが、否定できない何かで通じ合った。

明日、彼らは戦場に向かう。

しかし、今夜は……

今夜は彼らのものだった。

ダンスが終わり、二人は静かに舞踏場の端に移動した。エヴリンはマリクの腕に軽く手を置き、彼の目を見つめた。

「マリク、あなたは今夜、本当に素晴らしかったわ」
とエブリンは優しく言った。

マリクは微笑み、彼女の手を握り返した。
「陛下もだ。...いつも俺を驚かせてくれる」

彼女は頬を赤らめ、少し照れくさそうに笑った。
「でも、本当に……あなたがいてくれてよかった。この戦いが終わったら、一緒に新しい王国で幸せに暮らしましょう？」

マリクは深く頷き、彼女の目を見つめた。
「陛下が望むなら、俺はどこまでも付いていく。でも、一つだけ約束してくれ」

「何？」

「陛下自身を忘れないでくれ。たとえ王都が解放された暁に正式な女王として戴冠された後でも、陛下はエブリンだ。その心を失わないでほしい」

彼女は深く頷き、彼の手を握った。
「約束する。あなたがいてくれるから、私は強くなれるのよ」

二人は静かに夜の空を見上げ、迫りくる戦いの重さと、彼らが背負う責任を感じていた。
しかし、彼らは孤独ではなかった。互いの存在が、暗闇の中に一筋の光をもたらしていた。

そして、彼らは新たな時代の夜明けを信じて、次の日を迎える準備をした。

...................

舞踏場の片隅では、モンテクレール公爵が小貴族たちと話していた。
彼らの表情は複雑で、エヴリンとマリクのダンスを見つめながら、ため息をついていた。

「公爵様、あの光景を見て……私たちはどう思えばいいのでしょうか？」
と一人の貴族が尋ねた。

公爵は冷静に答えた。
「彼らは新しい王国の未来を担ってくれる重要人物だ。私たちは陛下達を支持し、陛下達のビジョンを実現するために戦う。それ以外のことを考える必要はない」

貴族たちは黙ってうなずき、それぞれの心に新たな決意を刻んだ。

........................

夜が更けるにつれ、エヴリンとマリクは屋敷の庭に出た。
月明かりが彼らを照らし、静かな夜の空気が彼らを包み込んだ。

「マリク、前に私の言った言葉、...まだ覚えていてくれるの？」
とエヴリンは優しく聞いた。

マリクは彼女の目を見つめ、微笑んだ。
「ああ、...その時が来たら、...俺達は...」

「うん」

「俺達は、....いや、『俺が』、何としても、陛下の心と意思を一番に尊重し、陛下のために動くと誓う。それだけが、陛下のお陰で奴隷身分から解放された、今の俺の存在意義だ」

彼女は深く頷き、彼の手を握った。
「...そう。でも、...これだけは忘れないでほしい。あなたを私の一番近くに置きたい理由は、...政治的なものではなく、......あなたを誰よりも、大切で、大事な人だってー」

ドカ―――――ン！ド――――カン！
「「－！？」」

新女王の言葉を遮るように、いきなり遠くの空でエルフから送られてきた祝祭用の魔導花火が炸裂した！
だからか、それ以上何も言わなくなった二人はお互いに照れて、それぞれの自室に戻っていくのだった。
明日の戦いに身も心も覚悟を決め、備えるために...

それから......

二人はそれぞれの自室のヴェランダにて、静かに夜の空を見上げ、迫りくる戦いの重さと、彼らが背負う責任を感じていた。

しかし、彼らは孤独ではなかった。互いの存在が、暗闇の中に一筋の光をもたらしていた。

そして、彼らは新たな時代の夜明けを信じて、次の日、戦いが始まる運命の日を迎える準備をした。