俺がワガママ王子なわけがない! ~交通事故で転生したら、評判最悪の王族になっていた件~

角砂糖

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第一章 マジかよ!?俺がワガママ王子!?

織り手の微笑み、少年の本音

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夜――王宮の廊下は、日中の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

倫太郎(=アレクシス)は、渚の手ほどきで「王子の日常」を学ぶ。
ギルバートの資料に四苦八苦し、ミラの紅茶で一息。渚のささやかな慰めに、ようやく笑みが戻りかけた――その矢先。

部屋の灯りがふっと翳る。
気配もなく現れた黒衣の男が、まっすぐ倫太郎へ迫った。

(え、急に!? ゲームなら即バトル画面なんだけど!?)

「王子――アレクシス様。お覚悟を」

剣を抜く間もない。
だが次の瞬間、渚が倫太郎の前に静かに立つ。

「……喧噪は波紋を広げます。どうか暴れず、おとなしく」

穏やかな声に反して、暗殺者の体は糸に絡め取られたように動きを失う。
どんな抵抗も、流水のような体捌きで受け流され、男は床に膝をついた。

「──え、渚さん今なにしたの? 自宅警備どころか王城警備レベル……!」

渚はうなずき、腕ごと暗殺者の動きを封じる。
「あなたの心にも、深い絡まりがありますね」

まるで悩み相談のように、淡々と語りかけた。

廊下が騒がしくなる。兵士たちが押し寄せ、ギルバートが指示を飛ばす。
「下がれ! ……だ、誰だ貴様は!」

渚は兵士に目もくれず続ける。
「この方からは、弱々しくも確かな“恨みの糸”が流れています。――この場のどなたかが、その源ですね」

短いやりとりののち、暗殺者が兵士の一人に視線で合図。
張り詰めた空気に耐えきれず、その兵士が崩れるように膝をついた。

「……王子のやり方に納得いかねぇやつ、みんな我慢してるんだ……!
オレがやらねぇと、一生……!」

(どんだけ嫌われてたんだ、俺――いや、“王子”よ!)
悲しさと情けなさが、一度に押し寄せる。

渚はその兵士へ、糾弾ではなく諭す調子で告げる。
「糸が乱れたままでは、やがて大きなほころびになります。
悪しき想いを断つなら、まず“思いを話す”ことから。王の側にある者もまた、迷うのです」

場に静寂が落ちる。何人かの兵士が、涙をこらえるように俯いた。
最後はギルバートが険しい顔で兵士たちを連行する。

渚は倫太郎を振り返った。
「倫太郎。あなたの糸も強く乱れています。――今宵はゆっくりお休みを」

世界一不名誉な王子のはずが、余計「やばい奴」と思われた気がして、倫太郎は視線を落とした。

(どんだけだー……オレの異世界、波乱しかない!)
それでも、渚と心が通った手応えが、不安を少しほどいてくれた。


王宮の夜。
アレクシス王子という“自分”の現実に、倫太郎は頭を抱える。暗殺者、そして内通者。
(自分じゃない悪評が、命の危機レベルって……)

枕元では、渚が静かに気遣っていた。
やがて、彼女がそっと提案する。

「倫太郎。この世界に“変身”の魔法は?」

「変身魔法? あったら便利だけど……急にどうして?」

「王子としての立場は難儀です。もし“別の姿”になれれば、心休まる時間が作れるかもしれません」

もっともだ。だが警戒心も働く。
「……ギルバートに直接聞くと、“何に使う”って怪しまれるよな」

「では、私が伺います。王宮の者として問うのは不自然ではありません」

翌朝。
渚は廊下でギルバートに丁寧に声をかけた。

「ギルバートさん。王子様のご所望です。禁書や宝物に、“変身”あるいは“姿を変える道具”は?」

一瞬「またワガママか……」という顔をしつつも、ギルバートは即答する。
「姿を変える“変化の杖”が禁宝庫に。歴代王が式典や政務で密かに用いた記録がございます」

渚はその情報を、すぐ倫太郎へ報告した。

その日の午後。
王子の“ワガママ”が、堂々と発動する。

「ギルバート! 余は気分転換がしたい。“変化の杖”をすぐ持て!」

「……かしこまりました、アレクシス様」

理由は問わず、杖のみを調達するのがギルバート流だ。

部屋では渚が控え、静かに告げる。
「では、始めましょう。ここはお二人だけの空間です」

倫太郎は禁宝庫から持ち出した“変化の杖”を握る。
使い方はひとつ――強く望む姿を思い浮かべること。

元の自分――高原倫太郎を思い描いた瞬間、柔らかな光に包まれた。

鏡に映ったのは、見慣れた日本の高校生の顔。
「……うわ、本当に戻ってる。これ、マジで魔法……!」

涙ぐみながら渚に笑いかけると、彼女も静かに微笑む。
「この秘密――あなたが“王子”と“倫太郎”、二つの顔を持つことは、私だけの目論見。お互いだけの秘密ですね」

倫太郎は深く頷いた。

以後、公務以外の時間や城外のお忍び、部屋で過ごすひとときは、“変化の杖”で高原倫太郎の姿に。
渚は、王子のときは側近メイドとして、倫太郎のときは相談役――年上のお姉さんとして寄り添う。

そしてようやく、倫太郎には「自分を自分として」過ごせる時間が生まれた。

王子としての立場と、倫太郎としての本心――二重生活が始まる。
それは「彼だけの秘密」であり、「渚だけが知る癒しの時間」でもあった。
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