俺がワガママ王子なわけがない! ~交通事故で転生したら、評判最悪の王族になっていた件~

角砂糖

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第四章 再生の火は物語を照らす

揺らぐ心、寄り添う糸

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ギルド会議室

重苦しい空気の中、縄で縛られた盗賊団のリーダーが椅子に座らされていた。額には冷や汗、虚勢を張ろうとするが声は震えている。

巽が机を叩きつけ、顔を近づける。
「てめぇ! 召喚石をどこで手に入れた! 答えろッ!」

「ひっ……!」盗賊リーダーは肩を震わせた。だが唇を噛み、答えようとしない。

巽の拳が振り上げられる。
「ふざけんな! 仲間を危険に晒したんだぞ、殴ってでも吐かせ――」

「待て、巽!」
理人が腕をつかみ、鋭く制した。
「今ここで感情で殴ったら、逆に黙り込むだけだ。データは冷静に取るんだよ」

「チッ……!」巽は拳を握りしめたまま唸る。

その間に、渚が静かに一歩前へ出た。
銀色の髪が揺れ、藤色の瞳が盗賊リーダーを射抜く。

「……あなたの“心の糸”は乱れすぎています。恐怖と欲望に絡まれ、ほころびを広げている」

「や、やめろ……! 近寄るな……!」
リーダーは縛られたまま椅子ごと後ずさろうとするが、動けない。
その視線は、剣よりも渚への恐怖に染まっていた。

「無理に隠しても、糸は語ります。――誰から“召喚石”を受け取ったのです?」

しばしの沈黙。やがてリーダーの顔色が蒼白になり、声がかすれる。
「……黒ずくめの……男だ……! あいつが教えたんだ! 召喚のやり方も……不協和晶獣を呼ぶ方法も!」

渚の目が細められる。
「黒ずくめ……やはり“外の糸”が関わっていますね」

静香が腕を組み、冷たい声で告げる。
「証言は確かに聞き届けました。――この者はすぐに王城へ送ります」

巽はまだ怒りを残しながらも、理人の手を振り払って肩で息をしていた。
リーダーは力なく項垂れ、部屋に重い沈黙が落ちた。


王城・謁見の間

重苦しい沈黙が広がる中、縄で縛られた盗賊団の頭目が跪かされていた。両脇には兵士。周囲の廷臣たちは息をひそめ、ただ玉座を見上げている。

玉座に座るは、アレクシス・フォン・ヴァインベルク第一王子。
その瞳は冷え切った碧。先ほどまで仲間たちと笑っていた少年の面影はない。

「……愚か者め」
王子の声は、謁見の間を凍りつかせた。

盗賊団の頭目は脂汗を浮かべ、必死に言い訳を繰り出す。
「わ、我らはただ……! 生き延びるために……っ!」

「黙れ」
倫太郎は一切の感情を見せずに言い放つ。
「貴様らの欲望が招いたのは、不協和晶獣の再臨だ。あの地で働く民、そして我が国を危機に晒した。――言い訳の余地などない」

盗賊頭目の体が震える。
その視線が思わず壇上の脇――控えていた渚に向いた瞬間、さらに蒼白になる。
「ひ……っ……!」

渚は何も言わず、ただ静かに瞳を閉じていた。だがそれだけで十分だった。

倫太郎は、玉座に深く腰掛けたまま宣告する。
「……余はこの者を赦さぬ。地下牢に繋ぎ、王国の裁きに委ねよ。――二度と光を望むこと叶わぬように」

「御意!」
兵士たちが応じ、盗賊団の頭目を引きずるようにして連行していく。
その姿が扉の向こうへ消えた瞬間、謁見の間には冷たい余韻だけが残った。

倫太郎はゆっくりと息を吐き、心の奥で小さく呟いた。
(……これが、“王子”としての責任か)

玉座に座るその背筋は、先ほどまでの少年のものではなかった。
アレクシス王子としての威厳を纏い――だが、その内側で確かに高原倫太郎が息づいていた。


王子の部屋

玉座での裁きを終えた倫太郎は、扉を閉めるなり背中を壁に預け、ずるずると床に座り込んだ。

「……っはぁぁぁ……死ぬかと思った……!」
額を押さえ、深々とため息を吐く。
アレクシス王子としての冷徹な言葉――演じきったつもりでも、心臓はまだドクドクと暴れていた。

「……もう無理。あんなん“俺”じゃねぇよ……」
ぶつぶつ言いながら変化の杖を握りしめる。
淡い光に包まれ、金髪碧眼の王子の姿はかき消え、黒髪の高校生――高原倫太郎へと戻った。

「ふぅ……やっぱ、この姿の方が落ち着く……」

その時だった。
静かに歩み寄る影。

「お疲れさまでした、倫太郎」
柔らかな声とともに、渚が床に腰を下ろした。

「な、渚……」
気まずく視線を逸らす倫太郎の肩に、そっと彼女の手が置かれる。
「張り詰めていた糸が、今にも切れそうです。少し……休みましょうか」

気づけば、渚の膝が差し出されていた。
「え、ちょ、待っ……! さすがにこれは……!」

「ふふ……大丈夫。あなたはもう“王子”ではなく、“倫太郎”なのですから」

優雅に微笑む渚に促され、抵抗する間もなく頭を預けてしまう。
柔らかな感触と、銀髪から漂う落ち着いた香りに、倫太郎の顔は真っ赤になった。

「~~~~っ! いやいやいや! こんなん、照れるに決まってんだろ!」
「照れている顔も……愛らしいですね」

思わず飛び起きかけた倫太郎を、渚が軽く押さえる。
そして、彼女は普段の丁寧な敬語を崩し、少しだけ大人びた声音で囁いた。

「少しくらい……甘えてもいいのよ、倫太郎」

「っ……!」
心臓が跳ね、言葉を失う。
渚の藤色の瞳が、からかうように細められていた。


部屋の片隅、簡素な六畳間に似せた空間。
膝枕に頭を乗せた倫太郎は、真上に揺れる銀の髪をぼんやり見つめながら、深いため息をついた。

「……色々ありすぎて、マジで頭が追いつかねぇ……」
「当然よ、倫太郎」
渚は柔らかく微笑み、彼の前髪を指先でそっと払った。
「ただの高校生だったあなたが、王子として裁きを下すなんて。――混乱しない方が不自然だわ」

「……渚にそう言ってもらえると、ちょっと安心する」
倫太郎は赤面を隠すように目を閉じる。
「でもさ……俺、本当に“王子”なんてできんのかな……」

「できるかどうかじゃないわ」
渚の声は少し低く、だが揺るぎなかった。
「倫太郎が“どうありたいか”。それだけが大事なの」

その言葉が胸に落ち、倫太郎は思わず口を開いた。
「……ありがとな、渚」

渚は一瞬だけ目を細め、いつもの敬語を外した。
「……倫太郎。あなたは、あなたのままでいいのよ」

耳まで真っ赤になった倫太郎は、枕代わりの膝の上でごろりと身をよじった。
「……やめろって、余計照れるだろ……」
「照れてる顔、かわいいわよ」

「~~~~っ!」

彼の抗議は、渚の柔らかな笑みに溶けていった。
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