俺がワガママ王子なわけがない! ~交通事故で転生したら、評判最悪の王族になっていた件~

角砂糖

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第五章 安息と騒乱――渚は笑い、倫太郎は赤面

旧友との再会と赤面の倫太郎

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シラカベ村の食堂・昼下がり

湯気を立てる丼を前に、倫太郎と渚は並んで腰を下ろしていた。
「いやぁ……ここの煮込み、マジで美味いな」
「ええ。素材の味を大事にしているのが分かります」

和やかなひととき――だが、その空気は唐突に乱された。

「おい店主! この酒、薄いじゃねぇか!」
「代金? タダにしろや!」

粗野な声とともに、十人のゴロツキが立ち上がり、店主を囲み始めた。
客たちは一斉に息をひそめ、場が緊張で凍りつく。

渚はすぐに立ち上がり、腰の柄に手をかけた。
「倫太郎、下がって」

「ちょっ、渚……!」

だが、その瞬間。
入り口の戸が勢いよく開き、二つの影が飛び込んだ。

「おいコラァ! てめぇら十人で何やってやがる!」
巽の声が響き渡る。

「……数が多いな。だが問題ない」
颯真は静かに前に出て、冷えた視線をゴロツキへ向ける。

「え、えぇぇぇ!? なんで二人がぁぁぁぁ!!」
倫太郎の絶叫は誰の耳にも届かず。

巽は拳一つで相手をまとめて吹き飛ばし、颯真は蹴り一閃で三人を昏倒させた。
武器すら抜かず、十人のゴロツキは瞬く間に床に転がる。

店内に、しんとした沈黙が落ちた。

「……ひ、一撃で……」
「十人がまとめて……」
村人たちの驚愕の声が漏れる。

巽は肩で息をしながら、慌てて振り返った。
「やべっ! バレた!? 俺らがつけてたのバレちまったぁぁ!」

倫太郎はテーブルに突っ伏し、頭を抱える。
「お、お前ら何やってんだよぉぉ!」

しかし渚は、静かに席へ戻り、再び箸を取った。
「……最初から、気づいていました」

「えぇっ!? 渚さん!? 知ってて黙ってたの!?」
巽が青ざめて叫ぶ。

渚は淡々と答えた。
「倫太郎が気づいていないようでしたので。……見守るのも、仕事の一つです」

倫太郎は赤面しながら天を仰ぐ。
「……俺だけ恥かいてる気がする……」

こうして「隠密尾行」から一転、堂々と登場してしまった巽と颯真。
村の食堂に、奇妙な連帯感が漂っていた。


ゴロツキが鎮圧され、村人たちがざわつく中。
巽は頭をかきながら倫太郎と渚に向き直った。

「……まぁ、バレちまったもんは仕方ねぇ。俺と颯真がここに来てたのは、静香さんからの指令だ。お前らの安全確認と監視――まぁ、尾行だな」

「やっぱり……」
渚は静かに息をつき、淡々と続けた。
「気配には最初から気づいていたけれど。……黙っていました」

「えぇっ!? 俺だけ!? 完全に恥かいてんじゃねぇか!」
倫太郎が頭を抱える。

そのやり取りが終わろうとした頃――。


「――ここか、乱闘があったというのは!」
鋭い声が響き、食堂の外に武装した一団が駆け込んできた。

先頭に立つのは、鋭い双刃を携えた少年。
叢雲 尊。

その後ろには、治癒杖を抱いた霧島 透花と、覆面レスラー風の鎧姿、大牙 剛士の姿もあった。

「尊……!」
渚が小さく目を見開く。

「渚……そして、巽、颯真……?」
尊の目が大きく揺れる。
「……颯真、お前……生きて……」

颯真は淡々と頷いた。
「……事情はある。だが、今は説明より結果を優先すべきだ」

「お、おいおい、難しい話はいいじゃねぇか!」
巽が慌てて割り込み、場を丸めようとする。
「颯真がここにいる、それで十分だろ!」

尊は双刃を下ろし、しかし鋭い視線を巽に突き刺した。
「……後で、必ず聞かせてもらうぞ」

透花は呆然と立ち尽くし、やがて小さく微笑んだ。
「……本当に、奇跡みたいね」

剛士は両腕を組み、豪快に笑った。
「はっ! こりゃまた同窓会みてぇなもんだな!」

渚と倫太郎以外、かつての高校メンバーが揃うという異様な光景。
倫太郎はその輪の中でひとり、冷や汗を垂らしながら小声で呻いた。

(やべぇ……渚が俺の“推し”ってこと、知られたら絶対イジられる……。しかも透花さん、男子人気トップの“メインヒロイン”だったんだよな……。周りの男子の大半が透花派だったし……)

横で渚がくすりと笑った。
「……どうしました、倫太郎? 顔が真っ赤です」

「な、なんでもねぇよ!!」
倫太郎は必死に誤魔化した。

予期せぬ顔ぶれが揃い、村の空気は新たな緊張とざわめきに包まれていった。


尊たちとの再会で場がざわつく中。
倫太郎はどこか落ち着かず、視線を泳がせていた。

その肩に、渚がそっと顔を寄せる。
長い銀髪がふわりと触れ、彼女の声が小さく耳に届いた。

「……何もなければ、ゆっくりしたかったから。気づいていても黙っていたの」

「っ――!」
倫太郎は一瞬で耳まで真っ赤になり、慌てて顔を背ける。

「な、なんだよそれ! そんなこと……堂々と言うなよ……!」

渚は微笑を浮かべ、静かに背を伸ばした。
「ふふ。耳打ちだからいいんでしょう?」

倫太郎は言葉に詰まり、丼の残り汁を無理やりすすりながら誤魔化すしかなかった。

――食堂の喧噪の中、ほんの一瞬だけ。
二人の間には、誰にも気づかれない「休暇の約束」が息づいていた。
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