俺がワガママ王子なわけがない! ~交通事故で転生したら、評判最悪の王族になっていた件~

角砂糖

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第六章 王都騒乱録 ~不協和と珍騒動~

お粗末さまでございます(物理)

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糸目執事の過去回想

王都爆破前夜(過去)

目を開けたとき、糸目執事は知らぬ街路に立っていた。
見慣れぬ石畳、重苦しい空気――そして、背広の代わりに纏っていたのは執事服。
彼もまた異世界転生者だった。

「……転生、ってやつか?」
状況を呑み込む暇もなく、耳に飛び込んできたのは盗賊団の打ち合わせだった。

「明日だ。王都を吹き飛ばす。執事、お前も手を貸せ」

――そう。彼が宿った肉体は、本来ならば王都を裏切り混乱に導く“スパイ”。
だが、前世の血が即座に反応した。

(そんな真似、俺が許すわけねぇだろ)

次の瞬間。

「アチョッ!」
「ぐわっ!?」

目にも止まらぬ体術と、即席で掴んだロープの連撃が盗賊団を襲った。
蹴り、投げ、締め、殴り――一人、また一人と床に沈んでいく。

「な、なんだコイツ!? 裏切ったのか!?」
「ぎゃあああっ!」

盗賊団にしてみれば、信頼していた仲間が突如豹変したに等しい。
だが真相を知るのは、彼だけだった。


翌朝(過去)

兵士たちが突入したとき、盗賊団のアジトは既に壊滅。
縛り上げられた賊と、立ち尽くす糸目の執事がいた。

「な、なんと……! 一人で……!」
「王都を救ったのだ! よくやった!」

歓声が上がり、その場で表彰が決まった。

「……え? これ……表彰されるやつなのか?」
当の本人は呆然と呟いた。

彼にしてみれば、正義感に従っていつも通り動いただけ。
だが王国にとっては、大規模テロの芽を潰した英雄だったのだ。


――ただし、このときはまだ気づいていなかった。

糸目で常に笑んだ顔。
怪しげな雰囲気。
“裏切りそうな風貌”。

そのせいで後に、どれほど忠義を尽くそうとも「怪しい」「裏切りそう」と損する体質であることを。




王都の執務室で、一人ランプを灯す糸目の執事――シモン・グレイヴス。
彼は机の上に古びた記録を並べ、深くため息をついた。

「……やはり、そうか」

そこに記されていたのは“王都に潜入した裏切り者”という烙印。
彼の前世、パイロンが知る限り――それは自分が転生した、この身体の“本来の運命”だった。
しかし続きが記載されている。潜入捜査であって裏切りではないと最近書かれたばかりだった。


回想:前世

銃声。
ビルの屋上で、パイロンは銃弾に倒れた。
国際警察の仲間を庇い、凶弾に撃たれたのだ。

(俺は……ここで終わりか……)

遠ざかる意識の中で、彼は「守る」という信念だけを胸に刻み、暗闇へと沈んでいった。


そして現世では気づけば、彼は“裏切りそうな糸目執事”の体に宿っていた。
だが、与えられた役割は――「テロリストに寝返り、王都を混乱に陥れるスパイ」。

(……なんて転生だ)

パイロンは自嘲するように笑う。
前世では正義の警官。
今世では“裏切り者になるはずの執事”。

「……だが、俺は裏切らん」

唇を固く結び、机を叩いた。
王都に惨事が起きる前――その瞬間に転生してきたのは、偶然ではない。
そう信じるしかなかった。


そして今。
兵士や侍女からは相変わらず「裏切りそう」と言われ続けている。
だが、彼の胸中には前世から変わらぬ信念が燃えていた。

「俺は……守る。たとえ“裏切りそうな執事”と呼ばれようとも」

ランプの火が揺れ、影が壁に伸びた。
その背に、かつての国際警察官の矜持が、確かに重なっていた。


現在

ギルド本部・廊下

「……強いのは分かった。けどなぁ……」
巽はジト目で糸目執事――シモンを睨んでいた。

昨日の盗賊団壊滅、そして模擬戦全勝。
確かに実力は本物だ。
だが巽の中ではどうしても「裏切りそうな顔」という不安が拭えない。

「……やっぱ怪しい」
「またその目を……」
シモンは苦笑を浮かべるしかなかった。

一方で、ミラは首をかしげながら呟いた。
「でも……シモン様って、昔からあんなに強かったでしょうか?」
「……え?」
倫太郎も思わず振り返る。

しかしその直後。

「おや?」
シモンの足元に置かれていたモップが、カランと転がった。

「……っ!」
「わ、わぁぁっ!?」

糸目執事、見事にモップを踏んで転倒。
ド派手に床を滑り、壁に頭をゴンッとぶつけて転がった。

「……だ、大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄るミラ。

「……お粗末さまでございます」
シモンは何事もなかったかのように立ち上がり、服の裾を整える。
だが顔はほんのり赤い。

その姿を見た巽はさらにジト目を細め、肩をすくめた。
「……強いんだかドジなんだか、どっちだよ」

渚は小さくため息をつき、湯呑を差し出す。
「……糸は、あなたの間の悪さすら包み込んでいます」

シモンは受け取りながら、心の中でそっと苦笑した。
(……ドジは、前世からの体質だからなぁ……)

――今のところ、彼が“転生者”であることに気づいている者は、誰一人としていなかった。
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