俺がワガママ王子なわけがない! ~交通事故で転生したら、評判最悪の王族になっていた件~

角砂糖

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第七章 燃えよ!魚と海賊と大乱闘

消臭剤作成任務開始、そして不死身の守銭奴

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王都・ギルドホール

昼下がり、依頼掲示板の前。
ざわめく冒険者たちの中心で、一枚の紙がひらひらと揺れていた。

「……な、なんだこれ」
理人が手を伸ばし、掲示板から依頼文を引きはがす。

その文字は――力強いのに震え、インクが所々にじんでいる。



【緊急依頼】

地下牢の……に、においが……もう限界でございますぅぅぅ!!!

お願いです!
消臭のための材料を……!
薬草でも香木でも……なにかしら“効くもの”を、どうか……どうか……!

牢番も兵士も皆……倒れてしまいそうでございますぅぅぅ!!!

報酬は出しますからぁぁぁ!
どうか……王国の名誉のために……!

――王国警備隊



ギルド内が、静寂に包まれる。

「……これ、依頼文っていうか泣き落としじゃないか?」
巽が眉をひそめる。

「いや……“泣き叫んでる感じ”が文字から伝わるってどういうことだよ」
怜も呆れ声を上げた。

シモンはその場にしゃがみ込み、口を覆って肩を震わせていた。
「……ふ、ふふ……ぐっ……! だめだ、笑いこらえるのが限界だ……!」

倫太郎も机に突っ伏し、必死に笑いを堪えている。
「……こ、この字面……ニュースで見たことあるやつだろこれ……! 依頼文でやるなよ……っ!」

セレスは依頼文を見つめ、頭を抱える。
「……真剣なのは分かるけど……これ、ギルドの歴史に残る“珍依頼”になるわね」

アイリスは冷静に頷いた。
「ですが、依頼そのものは至って合理的です。材料を集めれば、牢獄の惨状も解決するでしょう」

「合理的だけど! 依頼文のせいで頭に入ってこねぇ!」
ユリウスが叫び、セリナも涙目でうつむく。

ガルドは無言で依頼書を手にし、ただ一言。
「……臭気より、これが一番堪える」

こうしてギルド全体が「笑っていいのか分からない空気」で凍り付く中、
“牢獄消臭ミッション”は正式に発令されたのだった。


「……この依頼、俺は却下する」
倫太郎(アレクシスの姿)は、机の上に置かれた依頼書を押し返した。

場が凍る。

「な、殿下……?」
理人が驚き、怜が眉をひそめる。

巽が立ち上がった。
「おい、ちょっと待てよ! 確かに依頼文はふざけてたけど、牢の連中が臭気でやられてんのは本当だろ!?」

颯真も低い声で続ける。
「巽の言う通りだ。あんたが拒否したら、そのツケは結局、市井の人間に回る」

尊もため息をつきながら、真っ直ぐに見据えた。
「王子殿下がどうあれ、今は“高原倫太郎”としての判断を見せるべきだ」

そこへ剛士が一歩踏み出す。
「……俺も言わせてもらうぜ」
普段は豪快な笑みを絶やさない彼が、真剣そのものの眼差しを向ける。
「この前の捕虜救出の時、村の人たちから山ほど“王子様に感謝を伝えてくれ”って言われたんだ」

倫太郎は息を呑む。

剛士は続けた。
「それでも受けねぇってのか? 人々の声を、全部無視すんのかよ」

一瞬、巽が「剛士にしては――」と呟きかけるが、
すかさず渚と尊に口を塞がれた。

「……っむぐ!?」
巽の抗議は封じられ、場に静寂が落ちる。



渚が一歩進み出て、柔らかく微笑んだ。
「殿下……少し、話しませんか?」

倫太郎は渋々立ち上がり、二人は会議室を出て、静かな廊下を歩く。

「……俺は、ずっと“悪名”を背負わされてきた。勝手に噂され、勝手に嫌われて……今だって、誰も俺を見ちゃいない」
倫太郎は俯き、拳を握る。

渚は首を振り、静かに答えた。
「違います。わたしは見てきました。最初に召喚された時から、あなたがどう生きてきたか。
 仲間のために走り、笑って、悩んで……その姿を、ずっと」

倫太郎の瞳が揺れる。

「どうするか決めるのは……倫太郎、あなた自身です」
渚はそっと手を差し伸べる。
「でも、わたしは――これまで見てきた“あなた”を信じます」

倫太郎は言葉を失い、ただその手を握り返した。



翌朝。

王都の空は澄み渡り、鐘の音が響く。
会議室に現れた倫太郎は、すでに“王子”の装いを整えていた。

「……消臭依頼、受けるぞ」
はっきりとした声が広間に響く。

巽が驚き、尊が微笑み、剛士は力強く頷いた。
渚はただ静かに目を細め、その背中を見つめていた。

倫太郎の決意は――確かに、皆の心を支える光になっていた。


王都郊外・森の奥

倫太郎(元の姿)は腰に手を当ててため息をついた。
「……まさか俺が“消臭素材探し”に出る日が来るとはな」

隣で渚が微笑む。
「でも、大切なことですよ。牢獄も、城内も、臭気で大変なのですから」

巽は鼻をつまみながら不満顔だ。
「ったく……俺たち、魔獣討伐より先に“消臭剤の材料”探してんのかよ……」

尊は冷静に地図を確認していた。
「報告によると、この先の谷に“清香草(せいこうそう)”が群生している。揃えば調合できるはずだ」

颯真は半ば呆れながら肩をすくめる。
「こっちはこっちで、平和っちゃ平和だな」

その時だった。



静香から通信が入った。
『……聞こえますか? 一報が入りました。玉蓮が、盗賊団残党に捕まったそうです』

「な、なんだって!?」
倫太郎が目を剥く。
「やばいじゃん、それ! 助けに行かなきゃ!」

巽も剣を抜きかける。
「ったく、あの守銭奴! 目立つことしやがって……!」

――しかし。

「ほっほ、心配ご無用でございますぞー!」

森の木陰から、元気いっぱいに飛び出してきたのは――玉蓮本人だった。

「……え?」
一同、絶句。

玉蓮は涼しい顔で、肩に縄をぐるぐる巻きつけたまま笑った。
「縄抜けなど楽勝でございます。むしろ練習にもなりましたわ」

颯真が思わず頭を抱える。
「……あんた、本当に捕まってたのか……?」

「ええ、ええ。ついでにアジトの鍵も針金で全部開けて差し上げました」
玉蓮は得意げに胸を張る。
「“解錠サービス込み”で請求してもよろしいですかな?」

尊が額を押さえた。
「……つまり盗賊団残党、今ごろ……」



その頃、盗賊団残党のアジト。

「な、なんで檻の中の奴まで解放されてんだ!? 俺たちの宝物庫までカラッポだし!」
「カ、カギが全部開いてる!? どういうことだよ!!」

残党たちは頭を抱えて大混乱していた。



倫太郎はもう力なく笑った。
「……なんで毎回、こうなるんだよ……」

渚は小さく肩を揺らして笑い、巽はジト目で玉蓮を睨んだ。
「……あんた、盗賊よりタチ悪ぃな」

「ほっほ、それほどでもございませんぞ」
玉蓮は胸を張り、懐を叩いた。

こうして“消臭素材探し”は、思わぬ形で波乱の幕開けを迎えたのだった。
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