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第三章「公爵家令嬢殺人事件」
密談、そして捜査続行
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捜査の合間、俺は何気なく開けたクローゼットの中で――息が止まるようなものを見てしまった。
それが何か、どういう意味を持つのか。
考えるより先に、俺の背中を冷たい汗が伝っていた。
「……やばい。これ、やばすぎる……!」
息を殺して扉を閉じ、周囲に誰もいないことを確かめる。
心臓が暴れるみたいに跳ねて、今にも胸を突き破りそうだ。
俺は慌てて廊下を駆け戻り、渚さんと玉蓮を呼び出した。
三人で使用人のいない小部屋に入り、扉を閉める。
「……倫太郎さん、何か見つけたのですね」
渚さんがすぐに察して、静かな瞳を向けてくる。
「お、おう……いやその……とんでもないものを」
声が震えてしまう。俺は深呼吸し、額の汗を拭った。
「……説明はできない。見せるしかない。でも……絶対に外には言えないやつだ」
「ほっほ……そなた、いつもより顔色が悪いのう」
玉蓮が腕を組み、片眉を上げた。
「さては金貨の山でも見つけたか? いや、もっと厄介なもんじゃな?」
俺は思わず頭を抱える。
「……玉蓮さん、冗談じゃないんだって!……国がひっくり返るぞ」
渚さんは深く頷き、真剣な声で言った。
「分かりました。では、一度だけ私と玉蓮で確認しましょう。その上で……この件は一時的に“封印”します」
「封印……?」
「はい。真実を解き明かすためには必要な情報ですが、時期を誤れば、我々ごと潰される危険があります」
淡々と告げられるその言葉に、背筋がぞくりとした。
玉蓮もさすがに笑みを消し、顎に手を当てる。
「ふむ……そういうことなら、商人の勘で言わせてもらうが――早まれば命取りじゃの」
「……だから、一度“別の場所”に隠す。今は他の捜査を進めるべきです」
渚さんの瞳が鋭く光り、まるで策を織り上げるように言葉を紡いだ。
俺はごくりと唾を飲み込み、力なく笑う。
「……分かった。隠すなら……あの部屋のクローゼットが一番安全かもしれない」
三人の間に重苦しい沈黙が落ちた。
外ではまだ屋敷の人々が慌ただしく動き回っている。
だが、この小部屋の中だけは、別の密やかな緊張が支配していた。
屋敷全体が騒然とする中、俺たちは再び証言の整理に取りかかった。
候補は多い――気弱な妹、両親、執事、婚約者、そして昨夜の晩餐に姿を見せた王子殿下。
だが、その中で一人だけ、どうにも落ち着かない様子を見せる人物がいた。
「……」
王子は長椅子に腰かけているものの、貴族らしからぬほど頻繁に姿勢を変えていた。
組んだ足を戻し、手袋を外しかけてはまたはめ直し、落ち着きなく視線を左右に走らせる。
(……なんだ? この人、明らかに挙動不審だぞ)
俺はペンを握る手を止め、思わず眉をひそめた。
「倫太郎さん、記録を」
渚さんの小声で我に返る。慌ててノートに「王子:落ち着きなし」とだけ書き込んだ。
玉蓮は腕を組み、ひげもない顔でまるで老商人のように唸る。
「ほっほ……腹の中で何か抱えとる顔じゃのう」
「玉蓮さん、軽々しく言わないでください」
渚さんが淡々と窘める。その声色には、王子を“特別視してはいけない”という慎重さがにじんでいた。
俺たち三人は、互いに短い視線を交わす。
だがそれ以上の詮索はせず、あくまで他の容疑者と同じように扱うことにした。
――ここで誰かを決めつけてはならない。
まだ証拠は揃っていない。
今はただ、ひとつずつ糸を拾い上げるしかないのだ。
「……それでは次に、執事殿の証言を伺いましょう」
渚さんが話題を切り替える。
王子は短く息を吐き、額に手を当てて視線をそらした。
その一瞬の仕草が胸に引っかかったが――俺は何も言わず、メモに新しい項目を書き加える。
心臓がざわつく。
だが、ここで口にするのはあまりに軽率だった。
俺は深呼吸し、ペン先を紙に押しつけた。
「……証言記録、続けます」
それが何か、どういう意味を持つのか。
考えるより先に、俺の背中を冷たい汗が伝っていた。
「……やばい。これ、やばすぎる……!」
息を殺して扉を閉じ、周囲に誰もいないことを確かめる。
心臓が暴れるみたいに跳ねて、今にも胸を突き破りそうだ。
俺は慌てて廊下を駆け戻り、渚さんと玉蓮を呼び出した。
三人で使用人のいない小部屋に入り、扉を閉める。
「……倫太郎さん、何か見つけたのですね」
渚さんがすぐに察して、静かな瞳を向けてくる。
「お、おう……いやその……とんでもないものを」
声が震えてしまう。俺は深呼吸し、額の汗を拭った。
「……説明はできない。見せるしかない。でも……絶対に外には言えないやつだ」
「ほっほ……そなた、いつもより顔色が悪いのう」
玉蓮が腕を組み、片眉を上げた。
「さては金貨の山でも見つけたか? いや、もっと厄介なもんじゃな?」
俺は思わず頭を抱える。
「……玉蓮さん、冗談じゃないんだって!……国がひっくり返るぞ」
渚さんは深く頷き、真剣な声で言った。
「分かりました。では、一度だけ私と玉蓮で確認しましょう。その上で……この件は一時的に“封印”します」
「封印……?」
「はい。真実を解き明かすためには必要な情報ですが、時期を誤れば、我々ごと潰される危険があります」
淡々と告げられるその言葉に、背筋がぞくりとした。
玉蓮もさすがに笑みを消し、顎に手を当てる。
「ふむ……そういうことなら、商人の勘で言わせてもらうが――早まれば命取りじゃの」
「……だから、一度“別の場所”に隠す。今は他の捜査を進めるべきです」
渚さんの瞳が鋭く光り、まるで策を織り上げるように言葉を紡いだ。
俺はごくりと唾を飲み込み、力なく笑う。
「……分かった。隠すなら……あの部屋のクローゼットが一番安全かもしれない」
三人の間に重苦しい沈黙が落ちた。
外ではまだ屋敷の人々が慌ただしく動き回っている。
だが、この小部屋の中だけは、別の密やかな緊張が支配していた。
屋敷全体が騒然とする中、俺たちは再び証言の整理に取りかかった。
候補は多い――気弱な妹、両親、執事、婚約者、そして昨夜の晩餐に姿を見せた王子殿下。
だが、その中で一人だけ、どうにも落ち着かない様子を見せる人物がいた。
「……」
王子は長椅子に腰かけているものの、貴族らしからぬほど頻繁に姿勢を変えていた。
組んだ足を戻し、手袋を外しかけてはまたはめ直し、落ち着きなく視線を左右に走らせる。
(……なんだ? この人、明らかに挙動不審だぞ)
俺はペンを握る手を止め、思わず眉をひそめた。
「倫太郎さん、記録を」
渚さんの小声で我に返る。慌ててノートに「王子:落ち着きなし」とだけ書き込んだ。
玉蓮は腕を組み、ひげもない顔でまるで老商人のように唸る。
「ほっほ……腹の中で何か抱えとる顔じゃのう」
「玉蓮さん、軽々しく言わないでください」
渚さんが淡々と窘める。その声色には、王子を“特別視してはいけない”という慎重さがにじんでいた。
俺たち三人は、互いに短い視線を交わす。
だがそれ以上の詮索はせず、あくまで他の容疑者と同じように扱うことにした。
――ここで誰かを決めつけてはならない。
まだ証拠は揃っていない。
今はただ、ひとつずつ糸を拾い上げるしかないのだ。
「……それでは次に、執事殿の証言を伺いましょう」
渚さんが話題を切り替える。
王子は短く息を吐き、額に手を当てて視線をそらした。
その一瞬の仕草が胸に引っかかったが――俺は何も言わず、メモに新しい項目を書き加える。
心臓がざわつく。
だが、ここで口にするのはあまりに軽率だった。
俺は深呼吸し、ペン先を紙に押しつけた。
「……証言記録、続けます」
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