6 / 12
第一章 討伐、進捗ゼロの勇者たち
第六話:森の結界、通行止めのお知らせ
しおりを挟む
王都と魔王城をつなぐ街道。その途中に広がる“エルフィアの森”。
そこは本来、旅人が通る近道だった。
――が、今は違う。
森全体が淡い緑の結界に包まれ、風も音も遮断されている。
森の主であるエルフ・リュミナが腕を組み、険しい表情で立っていた。
「……もう人間は信じない。何度“協力”と言われて裏切られたことか。」
彼女の声が静かに響く。
「この森は、もう誰も通らせない。」
そこへ現れたのは、一人の旅の男。
白いローブに杖を持ち、どこか商人風の笑みを浮かべている。
「お嬢さん、ちょっとお話、ええですか?」
リュミナは眉をひそめた。
「……人間? ここは閉鎖したはず。」
「人間ちゃいます。ちょっとだけ“魔界のほう”の者です。」
「――魔族!?」
男は軽く頭を下げた。
フードの下、金の瞳が光る。
魔王ガイゼル=ロウ――ただし、変装中。
「いやぁ、最近この森が通れんゆう話、あちこちから聞きましてな。
そらもう“物流”に影響しとる。ウチの舎弟も勇者も、道探して迷子ですわ。」
「あなたたち魔族も、人間と同じ。利用するだけじゃない。」
「……そう思われてもしゃあない。けどな、ワシ、ちょっとだけちゃうんですわ。」
「何が違うの?」
ガイゼルは静かに笑った。
「ワシは“取引”する魔王です。奪うんやなくて、約束を守らせる側。
信頼っちゅうのは、契約みたいなもんや。破ると、どっちも損する。」
リュミナは沈黙した。
結界の光が少し揺らぐ。だが、解けはしない。
「……それでも私は人間を信じない。」
「ええ。それでええ。信じるゆうんは、気分で決めるもんちゃうしな。」
ガイゼルはゆっくり背を向ける。
「ただ――森を閉じるいうんは、店を閉めるのと同じや。
お客さん来ぇへんくなったら、森そのものがさびしなるで。」
それだけ告げると、彼は帽子を押さえて歩き出した。
去り際にぽつり。
「ほな、お体にお気ぃつけて。……ほんなら、また“取引”の機会に。」
リュミナは結界を解かなかった。
けれど、光の色はほんの少し、柔らかく変わった。
一方その頃、森の外。
勇者アルグレイたちは――完全に迷っていた。
「なにこれ!? どこまで行っても木と光しかねぇ!」
「方角が狂ってる……これ、誰かの結界ね!」
「地図燃やしちゃったんだっけ?」
「いや、お前が焚き火に突っ込んだんだろ!」
混乱の中、木陰から顔を出したのは、またしてもあの舎弟――デモやん。
「ど、どうもぉ……ま、また来ましてん……!」
「うわぁぁぁ!! 出たぁぁ!!」
「ちゃいますねん! 今日は“案内”に来ただけで!」
「お前が来ると碌なことにならねぇんだよ!」
デモやんは必死だった。
「ホンマに案内です! “魔王様が結界に話つけてきたから、通れるはずや”言うてました!」
「どこが通れるんだよこれ!」
「……あれぇ? 解けてへん……?」
森の奥は相変わらず緑の壁。
デモやんは頭を抱えた。
「ウソぉ……またワイ怒られる……!」
勇者パーティはすでに逃げ腰。
「ほら見ろ! これ、絶対罠だ!」
「“取引”とか言って魂売らされるやつ!」
「逃げるぞ!」
「ちょ、待って! ワイほんま今回は何も取立てせぇへんて!」
しかし、誰も聞いてくれなかった。
勇者たちは森の中へ走り出し、光の壁に激突。
ドゴン! と派手な音を立てて転がる。
――完全に迷走である。
結局、デモやんはその場にうずくまり、空を見上げた。
「はぁ……また逃げられた……。」
その夜、魔王城・執務室。
ガイゼルが報告を受ける。
「……また逃げよったんか。」
「す、すんません……道が閉まってて……」
「閉まっとることぐらい分かっとるわ! せやからワシが行ったんや!」
「えっ!? 行ってはったんですか!?」
「行ったわ。挨拶もしてきたわ。結界は解かれんかったけどな。」
魔王は湯飲みを置いて、ぼそりとつぶやく。
「せやけど、あのエルフ……“目の光”が少し柔らこうなっとった。
ええねん。それでええ。すぐは無理でも、ちょっとずつや。」
デモやんが涙目でうなずく。
「そ、そうっすね……! でも勇者さん、ほんまに来ませんねぇ……」
「……来るさ。」
ガイゼルは目を細めた。
「ワシが待っとる限り、あいつらも逃げきれん。
――契約ってのは、そういうもんや。」
そして静かに湯をすすった。
「ほな、次は森の通行許可証、発行しとけ。勇者用や。」
「ま、また行かせる気ですか!?」
「当たり前や。取立ては根気や。」
「また出た、それぇぇ!!」
魔王城の夜に、舎弟の悲鳴が響き渡った。
そこは本来、旅人が通る近道だった。
――が、今は違う。
森全体が淡い緑の結界に包まれ、風も音も遮断されている。
森の主であるエルフ・リュミナが腕を組み、険しい表情で立っていた。
「……もう人間は信じない。何度“協力”と言われて裏切られたことか。」
彼女の声が静かに響く。
「この森は、もう誰も通らせない。」
そこへ現れたのは、一人の旅の男。
白いローブに杖を持ち、どこか商人風の笑みを浮かべている。
「お嬢さん、ちょっとお話、ええですか?」
リュミナは眉をひそめた。
「……人間? ここは閉鎖したはず。」
「人間ちゃいます。ちょっとだけ“魔界のほう”の者です。」
「――魔族!?」
男は軽く頭を下げた。
フードの下、金の瞳が光る。
魔王ガイゼル=ロウ――ただし、変装中。
「いやぁ、最近この森が通れんゆう話、あちこちから聞きましてな。
そらもう“物流”に影響しとる。ウチの舎弟も勇者も、道探して迷子ですわ。」
「あなたたち魔族も、人間と同じ。利用するだけじゃない。」
「……そう思われてもしゃあない。けどな、ワシ、ちょっとだけちゃうんですわ。」
「何が違うの?」
ガイゼルは静かに笑った。
「ワシは“取引”する魔王です。奪うんやなくて、約束を守らせる側。
信頼っちゅうのは、契約みたいなもんや。破ると、どっちも損する。」
リュミナは沈黙した。
結界の光が少し揺らぐ。だが、解けはしない。
「……それでも私は人間を信じない。」
「ええ。それでええ。信じるゆうんは、気分で決めるもんちゃうしな。」
ガイゼルはゆっくり背を向ける。
「ただ――森を閉じるいうんは、店を閉めるのと同じや。
お客さん来ぇへんくなったら、森そのものがさびしなるで。」
それだけ告げると、彼は帽子を押さえて歩き出した。
去り際にぽつり。
「ほな、お体にお気ぃつけて。……ほんなら、また“取引”の機会に。」
リュミナは結界を解かなかった。
けれど、光の色はほんの少し、柔らかく変わった。
一方その頃、森の外。
勇者アルグレイたちは――完全に迷っていた。
「なにこれ!? どこまで行っても木と光しかねぇ!」
「方角が狂ってる……これ、誰かの結界ね!」
「地図燃やしちゃったんだっけ?」
「いや、お前が焚き火に突っ込んだんだろ!」
混乱の中、木陰から顔を出したのは、またしてもあの舎弟――デモやん。
「ど、どうもぉ……ま、また来ましてん……!」
「うわぁぁぁ!! 出たぁぁ!!」
「ちゃいますねん! 今日は“案内”に来ただけで!」
「お前が来ると碌なことにならねぇんだよ!」
デモやんは必死だった。
「ホンマに案内です! “魔王様が結界に話つけてきたから、通れるはずや”言うてました!」
「どこが通れるんだよこれ!」
「……あれぇ? 解けてへん……?」
森の奥は相変わらず緑の壁。
デモやんは頭を抱えた。
「ウソぉ……またワイ怒られる……!」
勇者パーティはすでに逃げ腰。
「ほら見ろ! これ、絶対罠だ!」
「“取引”とか言って魂売らされるやつ!」
「逃げるぞ!」
「ちょ、待って! ワイほんま今回は何も取立てせぇへんて!」
しかし、誰も聞いてくれなかった。
勇者たちは森の中へ走り出し、光の壁に激突。
ドゴン! と派手な音を立てて転がる。
――完全に迷走である。
結局、デモやんはその場にうずくまり、空を見上げた。
「はぁ……また逃げられた……。」
その夜、魔王城・執務室。
ガイゼルが報告を受ける。
「……また逃げよったんか。」
「す、すんません……道が閉まってて……」
「閉まっとることぐらい分かっとるわ! せやからワシが行ったんや!」
「えっ!? 行ってはったんですか!?」
「行ったわ。挨拶もしてきたわ。結界は解かれんかったけどな。」
魔王は湯飲みを置いて、ぼそりとつぶやく。
「せやけど、あのエルフ……“目の光”が少し柔らこうなっとった。
ええねん。それでええ。すぐは無理でも、ちょっとずつや。」
デモやんが涙目でうなずく。
「そ、そうっすね……! でも勇者さん、ほんまに来ませんねぇ……」
「……来るさ。」
ガイゼルは目を細めた。
「ワシが待っとる限り、あいつらも逃げきれん。
――契約ってのは、そういうもんや。」
そして静かに湯をすすった。
「ほな、次は森の通行許可証、発行しとけ。勇者用や。」
「ま、また行かせる気ですか!?」
「当たり前や。取立ては根気や。」
「また出た、それぇぇ!!」
魔王城の夜に、舎弟の悲鳴が響き渡った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる