勇者の皆さん、いつ魔王城に着くんでっか? ――戦わんでも始まらん、せやけど請求は止まらん世界で――

角砂糖

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第一章 討伐、進捗ゼロの勇者たち

第六話:森の結界、通行止めのお知らせ

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王都と魔王城をつなぐ街道。その途中に広がる“エルフィアの森”。
 そこは本来、旅人が通る近道だった。
 ――が、今は違う。

 森全体が淡い緑の結界に包まれ、風も音も遮断されている。
 森の主であるエルフ・リュミナが腕を組み、険しい表情で立っていた。

「……もう人間は信じない。何度“協力”と言われて裏切られたことか。」
 彼女の声が静かに響く。
「この森は、もう誰も通らせない。」

 そこへ現れたのは、一人の旅の男。
 白いローブに杖を持ち、どこか商人風の笑みを浮かべている。
「お嬢さん、ちょっとお話、ええですか?」

 リュミナは眉をひそめた。
「……人間? ここは閉鎖したはず。」
「人間ちゃいます。ちょっとだけ“魔界のほう”の者です。」
「――魔族!?」

 男は軽く頭を下げた。
 フードの下、金の瞳が光る。
 魔王ガイゼル=ロウ――ただし、変装中。

「いやぁ、最近この森が通れんゆう話、あちこちから聞きましてな。
 そらもう“物流”に影響しとる。ウチの舎弟も勇者も、道探して迷子ですわ。」

「あなたたち魔族も、人間と同じ。利用するだけじゃない。」
「……そう思われてもしゃあない。けどな、ワシ、ちょっとだけちゃうんですわ。」
「何が違うの?」

 ガイゼルは静かに笑った。
「ワシは“取引”する魔王です。奪うんやなくて、約束を守らせる側。
 信頼っちゅうのは、契約みたいなもんや。破ると、どっちも損する。」

 リュミナは沈黙した。
 結界の光が少し揺らぐ。だが、解けはしない。

「……それでも私は人間を信じない。」
「ええ。それでええ。信じるゆうんは、気分で決めるもんちゃうしな。」

 ガイゼルはゆっくり背を向ける。
「ただ――森を閉じるいうんは、店を閉めるのと同じや。
 お客さん来ぇへんくなったら、森そのものがさびしなるで。」

 それだけ告げると、彼は帽子を押さえて歩き出した。
 去り際にぽつり。
「ほな、お体にお気ぃつけて。……ほんなら、また“取引”の機会に。」

 リュミナは結界を解かなかった。
 けれど、光の色はほんの少し、柔らかく変わった。


 一方その頃、森の外。
 勇者アルグレイたちは――完全に迷っていた。

「なにこれ!? どこまで行っても木と光しかねぇ!」
「方角が狂ってる……これ、誰かの結界ね!」
「地図燃やしちゃったんだっけ?」
「いや、お前が焚き火に突っ込んだんだろ!」

 混乱の中、木陰から顔を出したのは、またしてもあの舎弟――デモやん。
「ど、どうもぉ……ま、また来ましてん……!」
「うわぁぁぁ!! 出たぁぁ!!」
「ちゃいますねん! 今日は“案内”に来ただけで!」
「お前が来ると碌なことにならねぇんだよ!」

 デモやんは必死だった。
「ホンマに案内です! “魔王様が結界に話つけてきたから、通れるはずや”言うてました!」
「どこが通れるんだよこれ!」
「……あれぇ? 解けてへん……?」

 森の奥は相変わらず緑の壁。
 デモやんは頭を抱えた。
「ウソぉ……またワイ怒られる……!」

 勇者パーティはすでに逃げ腰。
「ほら見ろ! これ、絶対罠だ!」
「“取引”とか言って魂売らされるやつ!」
「逃げるぞ!」
「ちょ、待って! ワイほんま今回は何も取立てせぇへんて!」

 しかし、誰も聞いてくれなかった。
 勇者たちは森の中へ走り出し、光の壁に激突。
 ドゴン! と派手な音を立てて転がる。

 ――完全に迷走である。

 結局、デモやんはその場にうずくまり、空を見上げた。
「はぁ……また逃げられた……。」


 その夜、魔王城・執務室。
 ガイゼルが報告を受ける。
「……また逃げよったんか。」
「す、すんません……道が閉まってて……」
「閉まっとることぐらい分かっとるわ! せやからワシが行ったんや!」
「えっ!? 行ってはったんですか!?」
「行ったわ。挨拶もしてきたわ。結界は解かれんかったけどな。」

 魔王は湯飲みを置いて、ぼそりとつぶやく。
「せやけど、あのエルフ……“目の光”が少し柔らこうなっとった。
 ええねん。それでええ。すぐは無理でも、ちょっとずつや。」

 デモやんが涙目でうなずく。
「そ、そうっすね……! でも勇者さん、ほんまに来ませんねぇ……」
「……来るさ。」
 ガイゼルは目を細めた。
「ワシが待っとる限り、あいつらも逃げきれん。
 ――契約ってのは、そういうもんや。」

 そして静かに湯をすすった。

「ほな、次は森の通行許可証、発行しとけ。勇者用や。」
「ま、また行かせる気ですか!?」
「当たり前や。取立ては根気や。」
「また出た、それぇぇ!!」

 魔王城の夜に、舎弟の悲鳴が響き渡った。
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