筆だって自分で文字が書きたい~人になりたいのに、異世界で神にされました。~

嶋田愛那

文字の大きさ
1 / 14
はじまり~筆は異世界に顕現した

第1話 筆は異世界で目が覚める①

しおりを挟む


『ぴんぽんぱんぽ~ん。やあ筆ちゃん,女神ちゃんの治める世界,モンディーノへようこそ!』


『君の「本体」と,必要そうな物はかばんに入れといたから!
説明書ちゃんと読んでね!この世界の常識とか載ってるから!』



遠くで声が聞こえた。



いや,「念」というべきか。



誰かの声で目が覚めるなど,久しぶりの感覚だ。




『あっ,一応死なないようにはしてるけど,面倒くさいから頑張って死なないようにしてよね!』



……いや。



「彼女」の声より,だいぶうるさい。



『君は人になりたいって言ってたからね!人型にしておいたよぉ。感謝してよね~』



だからうるさい。
今鐘いくつだと思ってるんだい。静かにしとくれよ。



『そういうことだからよろしく頼むよぉ。「記録」よろしくねぇ~!!』



やかましい。
なんかこう,イラっとくる。


というか記録ってなんのことだ?


仕方なく目を開けた。


気持ちよく寝ている頭の中に,阿保みたいに能天気な「念」が響いたせいで,寝ざめが最悪だ。
わたしは意識が覚醒した。


今,なにを言われていただろうかと反芻する。
いやよろしくといわれても。
そもそもここはいったいどこなのだ?
どうしてわたしは知らないところで寝ていたんだろう。



途方に暮れて空を見つめる。


少なくとも,さっきまでいた江戸ではない。
そこだけはしっかりとわかる。


だって,江戸にはあんなばかでかい生物はいない。
というかあれはなんだ。鳥か?
それにしては大きすぎないだろうか。
あんなに大きな身体をしているのに,羽が生えていて空を飛んでいる。


速い。


江戸で一度見た竜とどこか似ているが,似ても似つかないくらいに凶暴そうだ。
それに龍神様に羽はついていなかった。


…なんにせよ,なるべく関わり合いになりたくないな。




ゴオォォォォォッッッ!!!!




…あ,火を吹いた。
あの竜(仮)周辺一帯が焼けてしまっている。


こちらの竜(仮)は火を吹くのか。
わたしは火が嫌いだ。筆だから。


あの竜(仮)には,こちらに近づかないでもらいたい。切実に。
燃やされたら困る。
あんな怖い存在を見るくらいなら,起きなければよかった。


起き抜けであるのに,もう一度眠りたい。


もういいや。寝よう。


これは悪い夢かなにかだろう。


もう一度眠ったら,友といた江戸の日々に戻れるに違いない。


そう思いついて,わたしは開けていた目を閉じた。









—?





ちらっと,頭の隅でなにかが引っかかった。





わたしはあのうるさい奴に眠りを妨害された。





そして「目」を開けて,





今,その「目」を閉じた。








「目」?








わたしは筆だ。
室町に作られ,つくも神になった筆だ。
そして,今は猫には化けていない,筆のままであるはずだ。


当然,猫や人にあるような「目」なんて,


「目」なんて,あるわけ…














「ある」


あった。


目も,耳も,口も,ある。


あのうるさい奴が言っていたことを思い出す。


手を動かして,おそるおそる目の前に持ってきた。
この手は,まぎれもない人間の手だ。


思い切って「上半身」を起こしてみた。
筆のときにも,猫のときにもなかった動きだ。


そして下を見下ろしてみた。妙ちきりんな恰好をしている。


そう,変ではあるが着物を着ているのだ。



ここまでで,もうはっきりとわかった。



なんと,なんということだろう。




わたしはついに,人間の身体を手に入れたのだ。



—友に見せたい。とうとう夢が叶ったのだと。



なんだか身体全体が光っている気はするが。


ついでに,なんだか胸の内がすごく熱いが。



生きた人間など,こんなものだろう。




この数百年で初めての人間の姿だ。少し怖い。
しかし,それ以上に,言葉では表せない高揚感があった。



それにしても,この身体が光っているのはなんなのだろう?
今まで見た人間は光っていなかったが。



そう首を捻ったその時,



『ちょっとぉ!』



さっきのうるさい声がまた聞こえた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

処理中です...