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33 猫型の穴と豆型の穴
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「アズキに声をかけられてその姿を見た時、光を背負っているのかと思うほど輝いて見えました。声は鈴の音のように心地良く、その手に触れた所から、染み渡るように体調が戻っていきました。すぐに聖女なのだとわかった俺は、神に祈ったのです。『俺の聖女を見つけた。どうか契約の機会を与えてほしい』と」
「それで、あの真っ白な空間に拉致されたわけね」
あずきが呟くと、繋いでいた手に少しだけ力がこもるのがわかった。
「アズキには申し訳ないことをしました。ご家族と引き離して連れてきたのですから」
「それは、いいよ。とりあえず私がいない間は痕跡を消すって言ってたから、誘拐沙汰にはならないし。戻った時にはそれも直すって言ってたし」
「……戻る」
クライヴはぽつりと呟くと、ぎゅっと手を握りしめる。
「それに、実の両親じゃないしね」
「え?」
驚いて目を瞠るものだから、美しいミントグリーンの瞳が零れ落ちそうだ。
「私の両親はね、事故で死んだの。遺言が『幸せになってね』よ? 難しいことを言うわよね」
笑って見せるが、クライヴの顔は曇ったままだ。
「元々飼っていた猫だけが、残った家族なの。叔父さんの家に引き取られて、とてもよくしてもらったけど。猫……ササゲが死んでからは、何だか心にぽっかり穴が開いていたのよね」
今の両親と妹に大きな不満などない。
だが、それとこれとは別の問題。
実の両親とササゲは特別な存在だったのだ。
「あっちの世界ではね、猫を失った心には猫型の穴が開くって言われているの。その穴を埋めるには、新しい猫を飼うしかないんだって。でも私は居候だし、ササゲにお金もかかったし、猫を飼いたいなんて言える身分じゃない」
あの両親はあずきが猫を飼いたいと言ったら、きっと叶えてくれる。
それがわかっているからこそ、言ってはいけないと思っていた。
「それに、私にとっては猫はササゲなの。薄い小豆色みたいな珍しい毛色でね。瞳はミントグリーン。ちょうどクライヴの瞳みたいな綺麗な色。とっても賢くてお馬鹿で、いい子だったの。ササゲって呼ぶとね、『にゃわおん』って返事するの。変な鳴き声でしょう?」
ササゲが死んだのは、もう一年前のことだ。
なのに、こうして思い出すだけで涙が浮かびそうになってしまう。
泣いたって仕方がないというのに。
あずきは気持ちを切り替えようと頭を振る。
そうだ、ものは考えようだ。
両親がいなくなった時、ササゲがいてくれて良かった。
それだけで、ありがたいのだと思わなければ。
「……変な話をして、ごめんね」
「同じような話が、この国にもあります」
意外な返答に、あずきはクライヴを見上げる。
「猫型の穴?」
「いえ、豆型の穴です」
「どれだけ豆が好きなのよ。豆王国」
「リスト王国です」
呆れるあずきを見るクライヴの瞳は優しい。
「豆型の穴って……豆を亡くすと心に穴が開くの?」
「人の心には豆型の穴が開いていて、対となる魂を持つ伴侶の心でその穴が埋められると言われています」
思ったよりも、だいぶロマンチックな話だった。
豆なのに。
「じゃあ、クライヴの心の豆……豆の穴? まあ、とにかく埋まるといいわね」
「そうですね。俺の豆型の穴は、もう埋まっています」
「え? そうなの?」
意外な言葉に、あずきはミントグリーンの瞳を見つめる。
「ということは、婚約者とかがいるの?」
クライヴはこの国の王子なのだから、そういう相手がいてもおかしくないのだ。
寧ろ、今までその可能性に思い至らなかったあずきの方が悪い。
「あ、待って? 婚約者がいるのに、こうして手を繋いで二人で歩くなんて良くないわ。これからは特別書庫にはメイナードに同行をお願いするわね。クライヴには豆を届ければいいわけだし」
「それは駄目です」
間髪入れずに否定されたが、理由がよくわからない。
「何で……あ、メイナードも婚約者がいるのね? 公爵家って言っていたもんね、クリキントン」
「ピルキントンです。そうではなくて、婚約者はいません。俺も、メイナードもです」
「そうなの? ――良かった」
「え?」
クライヴが急に立ち止まるので、あずきも手を引っ張られる形で歩みを止める。
「だって、婚約者に嫌な思いをさせないで済むでしょう? それに、調べ物もできるしね」
「……そういう意味ですか」
「うん? 他に何かある?」
婚約者を持つ王子と手を繋いでうろつく聖女だなんて、醜聞もいいところだし、あまりにも酷い。
豆成分補給のためとはいえ、婚約者がかわいそうすぎる。
泥沼スキャンダルにならなくて、本当に良かった。
「いえ。……いつか、アズキの心の豆型の穴も埋まるといいですね」
「うーん。既に猫型の穴が開いているからなあ。ササゲに会えれば埋まるだろうけど、無理だし。私は猫と豆の穴を持って生きていくわ」
「猫は無理ですが、豆型の穴なら。俺で良ければ、いつでも埋めますよ」
「――へ?」
人生で豆鉄砲をくらったのは、これで三発目だ。
目を丸くして瞬くと、あずきはため息をついた。
「冗談でも、そういうことを言っちゃ駄目。クライヴの豆型の穴を埋めている人に失礼よ」
婚約者はいないと言っていたが、豆型の穴は埋まっていると言っていた。
それはつまり好きな人がいるか、もうすぐ婚約する人がいるのだろう。
「それにしても豆型の穴を埋めるって、何だかしっくりこない表現ね。もうちょっと別な言い方はないかしら。運命の赤い糸で結ばれたっていうのがあるけど……運命の緑の蔓で結ばれた豆? ……ただの畑ね」
上手い言い回しが見つからずに唸るあずきをみて、クライヴが苦笑している。
繋いだ手を引かれ、再び歩き出した。
「アズキは、そのままでいてください。それで、いいんです」
「うん? とにかく、豆栽培を頑張るわ。神の豆が実るまで、よろしくね」
「……はい」
「それで、あの真っ白な空間に拉致されたわけね」
あずきが呟くと、繋いでいた手に少しだけ力がこもるのがわかった。
「アズキには申し訳ないことをしました。ご家族と引き離して連れてきたのですから」
「それは、いいよ。とりあえず私がいない間は痕跡を消すって言ってたから、誘拐沙汰にはならないし。戻った時にはそれも直すって言ってたし」
「……戻る」
クライヴはぽつりと呟くと、ぎゅっと手を握りしめる。
「それに、実の両親じゃないしね」
「え?」
驚いて目を瞠るものだから、美しいミントグリーンの瞳が零れ落ちそうだ。
「私の両親はね、事故で死んだの。遺言が『幸せになってね』よ? 難しいことを言うわよね」
笑って見せるが、クライヴの顔は曇ったままだ。
「元々飼っていた猫だけが、残った家族なの。叔父さんの家に引き取られて、とてもよくしてもらったけど。猫……ササゲが死んでからは、何だか心にぽっかり穴が開いていたのよね」
今の両親と妹に大きな不満などない。
だが、それとこれとは別の問題。
実の両親とササゲは特別な存在だったのだ。
「あっちの世界ではね、猫を失った心には猫型の穴が開くって言われているの。その穴を埋めるには、新しい猫を飼うしかないんだって。でも私は居候だし、ササゲにお金もかかったし、猫を飼いたいなんて言える身分じゃない」
あの両親はあずきが猫を飼いたいと言ったら、きっと叶えてくれる。
それがわかっているからこそ、言ってはいけないと思っていた。
「それに、私にとっては猫はササゲなの。薄い小豆色みたいな珍しい毛色でね。瞳はミントグリーン。ちょうどクライヴの瞳みたいな綺麗な色。とっても賢くてお馬鹿で、いい子だったの。ササゲって呼ぶとね、『にゃわおん』って返事するの。変な鳴き声でしょう?」
ササゲが死んだのは、もう一年前のことだ。
なのに、こうして思い出すだけで涙が浮かびそうになってしまう。
泣いたって仕方がないというのに。
あずきは気持ちを切り替えようと頭を振る。
そうだ、ものは考えようだ。
両親がいなくなった時、ササゲがいてくれて良かった。
それだけで、ありがたいのだと思わなければ。
「……変な話をして、ごめんね」
「同じような話が、この国にもあります」
意外な返答に、あずきはクライヴを見上げる。
「猫型の穴?」
「いえ、豆型の穴です」
「どれだけ豆が好きなのよ。豆王国」
「リスト王国です」
呆れるあずきを見るクライヴの瞳は優しい。
「豆型の穴って……豆を亡くすと心に穴が開くの?」
「人の心には豆型の穴が開いていて、対となる魂を持つ伴侶の心でその穴が埋められると言われています」
思ったよりも、だいぶロマンチックな話だった。
豆なのに。
「じゃあ、クライヴの心の豆……豆の穴? まあ、とにかく埋まるといいわね」
「そうですね。俺の豆型の穴は、もう埋まっています」
「え? そうなの?」
意外な言葉に、あずきはミントグリーンの瞳を見つめる。
「ということは、婚約者とかがいるの?」
クライヴはこの国の王子なのだから、そういう相手がいてもおかしくないのだ。
寧ろ、今までその可能性に思い至らなかったあずきの方が悪い。
「あ、待って? 婚約者がいるのに、こうして手を繋いで二人で歩くなんて良くないわ。これからは特別書庫にはメイナードに同行をお願いするわね。クライヴには豆を届ければいいわけだし」
「それは駄目です」
間髪入れずに否定されたが、理由がよくわからない。
「何で……あ、メイナードも婚約者がいるのね? 公爵家って言っていたもんね、クリキントン」
「ピルキントンです。そうではなくて、婚約者はいません。俺も、メイナードもです」
「そうなの? ――良かった」
「え?」
クライヴが急に立ち止まるので、あずきも手を引っ張られる形で歩みを止める。
「だって、婚約者に嫌な思いをさせないで済むでしょう? それに、調べ物もできるしね」
「……そういう意味ですか」
「うん? 他に何かある?」
婚約者を持つ王子と手を繋いでうろつく聖女だなんて、醜聞もいいところだし、あまりにも酷い。
豆成分補給のためとはいえ、婚約者がかわいそうすぎる。
泥沼スキャンダルにならなくて、本当に良かった。
「いえ。……いつか、アズキの心の豆型の穴も埋まるといいですね」
「うーん。既に猫型の穴が開いているからなあ。ササゲに会えれば埋まるだろうけど、無理だし。私は猫と豆の穴を持って生きていくわ」
「猫は無理ですが、豆型の穴なら。俺で良ければ、いつでも埋めますよ」
「――へ?」
人生で豆鉄砲をくらったのは、これで三発目だ。
目を丸くして瞬くと、あずきはため息をついた。
「冗談でも、そういうことを言っちゃ駄目。クライヴの豆型の穴を埋めている人に失礼よ」
婚約者はいないと言っていたが、豆型の穴は埋まっていると言っていた。
それはつまり好きな人がいるか、もうすぐ婚約する人がいるのだろう。
「それにしても豆型の穴を埋めるって、何だかしっくりこない表現ね。もうちょっと別な言い方はないかしら。運命の赤い糸で結ばれたっていうのがあるけど……運命の緑の蔓で結ばれた豆? ……ただの畑ね」
上手い言い回しが見つからずに唸るあずきをみて、クライヴが苦笑している。
繋いだ手を引かれ、再び歩き出した。
「アズキは、そのままでいてください。それで、いいんです」
「うん? とにかく、豆栽培を頑張るわ。神の豆が実るまで、よろしくね」
「……はい」
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