俺が彼女を二度殺した理由。

AT限定

文字の大きさ
7 / 44

記憶

しおりを挟む
「ん、ココは……」

 一つ一つ情報を整理していこう。
 まず室内であるということは分かる。
 加えて薄暗く密閉された空間、淡紅色の明かりは人間の根本的な欲求を掻き立てるには十分なものである。
 そして、今俺が横たわっているキングサイズのベッド。
 以上のことから導き出される答え、そうそれは!





「どうしてまたラブホにいるんですかねぇ……」
「あっ、お目覚めのようですね」
「……何もしてないよな」
「それはコッチのセリフです」

 顔を赤らめながら何を言っているんだ、この女。
 え? マジで俺何もしてないよね?
 良かった。ちゃんと服着てた。

「お疲れの様でしたので、寛げる場所へお連れしました」
「普通のホテルでいいだろ。出会ったばかりの男女が二日連続で来る場所じゃねぇだろうが……」

 確かに気絶していた時間を除けば、一昨日の昼間からほぼ寝てなかったから疲れてはいたな。
 ……今、何時だ?
 俺はスマホの画面を確認した。
 時刻は20時を指している。
 えーっと、大宝の部屋を出たのは昼過ぎくらいだったから、8時間くらい寝ていたのか?

「あーまぁ、その、ありがとな。こんなところまで運んでくれて。おかげでだいぶ疲れとれたわ」
「礼には及びませんよ。他の世界線との境界があいまいになっている間は、割りとこちらのなんで」
「何か今不穏なワードが聞こえたんだが……。参考までに聞くが具体的にどんなことが出来るんだ?」
「まぁ一つは移動が楽になることですかね? 我々は世界線への干渉が許されているのでどこでも自由にパラレルシフトを起こせるのですが、近江さんの場合そうはいきません。ですから、先ほど手引きをさせていただきました。そうすることで手引きの対象者の記憶の範囲内で、転移する場所を選ぶことができるんです」
「記憶の範囲内か……。つぅことは今の〝可能性〟から極端に乖離した世界線へは介入できないってことなのか?」
「その通り! 例えば宇宙人に侵略されて地球が滅亡しかけているなど、拍子もない〝可能性〟へは介入できません」

 だとすれば、俺は人生のどこかで人を殺す選択肢も選び得たということになるのか。

「それともう一つ。手引きをする際、あなたの記憶を覗かせていただきました」
「はぁ!?」
「当然です。そうでなければ、転移先を選択できませんから」
「……それはイロイロと、全部か?」
「そりゃもう骨の髄までしゃぶりつくすほど。正直、身の危険を感じましたよ。まさかあなたがああいったジャンルをお好みとは」

 恐らくその日本語は正しくないが、今突っ込むべきはそこではない。
 だから知ってやがったのか、コイツ!
 だが、それよりも確認しなければならないことがある。

「……あの記憶もか?」
「はい」

 ほんの数秒前とは違い、真剣な眼差しで浄御原は答えた。
 恐らくだが、コイツは俺のほぼ〝全て〟を知っている。
 それに比べ、俺は彼女の何を知っているのだろう。
 大宝の部屋での違和感もそうだが、俺は彼女に対して言い知れぬ何かを感じている。
 俺はこのまま彼女を信用してもいいのだろうか。

「まぁいい……、そういえばお前は休まなくて平気なのか? 昨日の夜から働き詰めなんだろ?」
「あら? 心配して下さるのですか? それなら今ココで癒していただくってのもアリですけど」
「そういうのはナシだ。お前と関係を持った瞬間、恐いお兄さんがどこからか出てきそうで不安だ」
「美人局じゃないって言っているでしょ……。冗談はともかく、私は平気ですよ」
「分かった。でも体力的にキツかったらちゃんと言ってくれよ」


「……やっぱり近江さん、優しいですね」


「見知らぬ土地で倒れられたら迷惑だっつってんだよ!」
「ほぼあなたの知っている土地なんですけどね。まぁ、そういうことにしておきます」
「んで、これからどうするんだ? つってもこの時間からじゃ何もできんだろうが」
「そうですね。今日はここまでにしましょう」
「そうだな。向こうでも仕事しているんだろ。お前も帰って休め」
「はい、それでは失礼します」

 浄御原が機構へ帰り、一人になる。


 そして、また考える時間が生まれる。


 機構のこと。


 特典のこと。


 殺人鬼の〝俺〟のこと。


 浄御原のこと。


 釈然としないことばかりだ。


 浄御原に聞いたとて、それに答えてくれるのだろうか。


 それならば俺はどこまで知っていて、どこまで知るべきなのだろう。


 ……駄目だ、これ以上考えると眠れなくなる。


 ただでさえ8時間も昼寝しちまったんだ。


 寝つきにくいのは当然だが、少しでも寝ておかないとリズムが崩れる。


 次々から次へと浮かぶ疑問を必死に抑えつけ、俺はゆっくりと意識をシャットダウンした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...