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背負うべきもの
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「……無神経もそこまで行くと笑えねぇぞ」
「ではどうするんですか? 代わりに近江さんが処分されていただけるんですか?」
「そういうことじゃねぇっ! 俺が言いたいのは……、何でお前はそんな簡単に割り切れんだってことだっ!」
「……割り切れるわけないじゃないですか」
そう言うと、彼女は俯いた。
「私だって……、私だって普通に生きたかった! 本流の飛鳥 令那が果たせなかったことを成し遂げたかった! 近江さんと本当の意味で、一からやり直したかった……」
「……なら、何でわざわざアイツの運命を引き継いだ? 機構と関わらなければ、お前は傍流として普通に生きられたはずだ。新加はともかく、先々代の理事長は知ってたんだろ? お前のためにそこまで根回しをするくらいだ。機構へ入ることも止められたんじゃないのか?」
「あのまま、あの世界にいても意味はなかった。そこに、あなたはいないから」
「どういうことだ?」
「私のいた世界線であなたは……、会社が潰れた後、自殺したんです」
身勝手なのは俺も一緒だ。
彼女もまた、俺の感じていた痛みを味わっていた。
「結局、表面的に和解したところで近江さんの心の奥底にある罪悪感までは払拭できなかった。だから、そうするしかなかった。そうでもしないと、今度は私が罪悪感で頭がおかしくなりそうだった……」
「そうか……」
「私を拾ってくれた機構には感謝しています。でも正直な話、他の世界線を目の当たりにするたび胸が締め付けられる思いでした。〝もしも〟なんて可能性。そんなものを見せられても所詮は別物。ただただ妬ましいだけだった」
飛鳥はこれまでどんな〝可能性〟を見たのか。
彼女が夢を実現し、俺がその近くで月並みな日々を送る。
もしそんな〝可能性〟を見せられたら、俺とて彼女と同じことを思うだろう。
「個人的な想いは色々とあります。ですが、それでも世界線の秩序を守る上で機構の存在は必要不可欠。久慈方理事長の時代になり、内ゲバも小康状態にはなりましたが、争いの火種が消えたわけではありません。いつまでも内紛を続けていては、それこそ政府の思うつぼ。だからそれを今日で終わりにするんです」
やはり新加は当たっていた。
政府内で新加が影響力を行使できる内に、機構が最小限のダメージで難局を乗り切るため、彼女なりに考えた上での行動だったのだろう。
彼女は、初めから全て一人で被るつもりだった。
「私の意図を知っていたのは、貞永さんと建武さんくらいでは? でもまさか私と新加さんの間で話がついていないとは思わなかったでしょう。と言うよりも、本気で新加さんが私に嗾けたと思っているでしょうね。本当にあの人はいつも損な役回りばかり。まぁ、この件が新加さんの良い手土産になればいいのですが」
もし新加と貞永さんの意志疎通がきちんと出来ていれば、きっと何とかして飛鳥の暴走を止めていたに違いない。
だからこそ、彼女はここまで念入りに計画を練ったのだろう。
「さぁ、近江さん」
やはり飛鳥は退廃的と言わざるを得ない。
全ては彼女の中の罪悪感を、一番納得のいく形で昇華するためのものだとしたら。
「そろそろ終わりにしましょう」
そもそも〝罪〟とは何なんだ?
立場によって簡単に定義が変わる脆弱なものじゃないのか?
本当に飛鳥は裁かれるべき存在なのか?
「ご安心下さい。パラレルメイト持ちは、人と定義されません。あなたが法的に裁かれることはありません」
罪悪感を持つこと自体がパフォーマンスなら、なぜ人は他人にそれを強要するんだ?
言葉や態度、形式だけの反省にどれだけの意味があるんだ?
「私は近江さんであれば、本望です」
大宝は言っていた。
店長の負担を軽くするため、痴漢をでっち上げた、と。
「気にすることはありません」
養老は言っていた。
例え偽物でも、父親が欲しい、と。
「どうされました? さぁ早く」
元和木は言っていた。
自分の失態で、母親の努力を無下にするわけにはいかない、と。
「あなたをお慕いしております」
享保は言っていた。
飛鳥には飛鳥の哲学があった、と。
「もう、あなたの人生を前に進めて下さい」
陣海さんは言っていた。
浄御原は決して偽物ではない、と。
「この4年を取り戻すんです」
貞永さんは言っていた。
飛鳥は生きて役割を果たすべきだ、と。
「私を解放して下さい。この罪悪感から」
新加は言っていた。
近江 憲は薄情者だ、と。
「近江さん、あなたには感謝しています」
久慈方さんは言っていた。
人を裏切る覚悟、傷つける覚悟が大切だ、と。
「近江さん、これが最後です」
そして、飛鳥は言っていた。
ずっと背負っていく、と。
それなら、俺は彼女に対して何が出来る?
俺が、彼女の意志を守るために出来ること。
俺が、彼女のために背負えるもの。
いや、違う。
俺が、俺だけの意志で背負うべきもの。
「分かった。お前を殺してやる」
「ではどうするんですか? 代わりに近江さんが処分されていただけるんですか?」
「そういうことじゃねぇっ! 俺が言いたいのは……、何でお前はそんな簡単に割り切れんだってことだっ!」
「……割り切れるわけないじゃないですか」
そう言うと、彼女は俯いた。
「私だって……、私だって普通に生きたかった! 本流の飛鳥 令那が果たせなかったことを成し遂げたかった! 近江さんと本当の意味で、一からやり直したかった……」
「……なら、何でわざわざアイツの運命を引き継いだ? 機構と関わらなければ、お前は傍流として普通に生きられたはずだ。新加はともかく、先々代の理事長は知ってたんだろ? お前のためにそこまで根回しをするくらいだ。機構へ入ることも止められたんじゃないのか?」
「あのまま、あの世界にいても意味はなかった。そこに、あなたはいないから」
「どういうことだ?」
「私のいた世界線であなたは……、会社が潰れた後、自殺したんです」
身勝手なのは俺も一緒だ。
彼女もまた、俺の感じていた痛みを味わっていた。
「結局、表面的に和解したところで近江さんの心の奥底にある罪悪感までは払拭できなかった。だから、そうするしかなかった。そうでもしないと、今度は私が罪悪感で頭がおかしくなりそうだった……」
「そうか……」
「私を拾ってくれた機構には感謝しています。でも正直な話、他の世界線を目の当たりにするたび胸が締め付けられる思いでした。〝もしも〟なんて可能性。そんなものを見せられても所詮は別物。ただただ妬ましいだけだった」
飛鳥はこれまでどんな〝可能性〟を見たのか。
彼女が夢を実現し、俺がその近くで月並みな日々を送る。
もしそんな〝可能性〟を見せられたら、俺とて彼女と同じことを思うだろう。
「個人的な想いは色々とあります。ですが、それでも世界線の秩序を守る上で機構の存在は必要不可欠。久慈方理事長の時代になり、内ゲバも小康状態にはなりましたが、争いの火種が消えたわけではありません。いつまでも内紛を続けていては、それこそ政府の思うつぼ。だからそれを今日で終わりにするんです」
やはり新加は当たっていた。
政府内で新加が影響力を行使できる内に、機構が最小限のダメージで難局を乗り切るため、彼女なりに考えた上での行動だったのだろう。
彼女は、初めから全て一人で被るつもりだった。
「私の意図を知っていたのは、貞永さんと建武さんくらいでは? でもまさか私と新加さんの間で話がついていないとは思わなかったでしょう。と言うよりも、本気で新加さんが私に嗾けたと思っているでしょうね。本当にあの人はいつも損な役回りばかり。まぁ、この件が新加さんの良い手土産になればいいのですが」
もし新加と貞永さんの意志疎通がきちんと出来ていれば、きっと何とかして飛鳥の暴走を止めていたに違いない。
だからこそ、彼女はここまで念入りに計画を練ったのだろう。
「さぁ、近江さん」
やはり飛鳥は退廃的と言わざるを得ない。
全ては彼女の中の罪悪感を、一番納得のいく形で昇華するためのものだとしたら。
「そろそろ終わりにしましょう」
そもそも〝罪〟とは何なんだ?
立場によって簡単に定義が変わる脆弱なものじゃないのか?
本当に飛鳥は裁かれるべき存在なのか?
「ご安心下さい。パラレルメイト持ちは、人と定義されません。あなたが法的に裁かれることはありません」
罪悪感を持つこと自体がパフォーマンスなら、なぜ人は他人にそれを強要するんだ?
言葉や態度、形式だけの反省にどれだけの意味があるんだ?
「私は近江さんであれば、本望です」
大宝は言っていた。
店長の負担を軽くするため、痴漢をでっち上げた、と。
「気にすることはありません」
養老は言っていた。
例え偽物でも、父親が欲しい、と。
「どうされました? さぁ早く」
元和木は言っていた。
自分の失態で、母親の努力を無下にするわけにはいかない、と。
「あなたをお慕いしております」
享保は言っていた。
飛鳥には飛鳥の哲学があった、と。
「もう、あなたの人生を前に進めて下さい」
陣海さんは言っていた。
浄御原は決して偽物ではない、と。
「この4年を取り戻すんです」
貞永さんは言っていた。
飛鳥は生きて役割を果たすべきだ、と。
「私を解放して下さい。この罪悪感から」
新加は言っていた。
近江 憲は薄情者だ、と。
「近江さん、あなたには感謝しています」
久慈方さんは言っていた。
人を裏切る覚悟、傷つける覚悟が大切だ、と。
「近江さん、これが最後です」
そして、飛鳥は言っていた。
ずっと背負っていく、と。
それなら、俺は彼女に対して何が出来る?
俺が、彼女の意志を守るために出来ること。
俺が、彼女のために背負えるもの。
いや、違う。
俺が、俺だけの意志で背負うべきもの。
「分かった。お前を殺してやる」
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