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第1章 ラスラ領 アミット編
13 サラ、攫われる
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しかし凄い経験だった。
死にかけるわ、高級な回復薬で生き延びるわ、間近で魔術を体感できるわ、そして極めつけに守護精霊なんてのも貰ってしまうわ。
10年くらい駆け足で進んだような気分だ。
何より嬉しかったのはアイリーンという友人ができたこと。
それに、綺麗なお姉さんのアリスさんとも仲良くできたし、ロベルトさんは……ちょっと取っつきにくい感じはするけれど、真面目で頼れる人って感じだ。
いままでアミットでは同年代の友人はいたけれど、年齢の離れた人たちとの交流は余りなかったからな。
早くこの出来事をサラに話してあげたいな。
きっとサラもアイリーン達と会いたくなるだろうな。
「本当に大丈夫なのか?」
「心配しなくて大丈夫だよ。リディアのおかげで助かったよ。ありがとう」
「べ、別に……怪我人を介抱するのは当然なことだろう? それに回復薬のおかげだよ。あたしは結局なんにもしていない……」
「それは違うよ。リディアがいなければ出血多量で死んでいた」
そうだ。
あのときリディアの止血がなければ、僕はおそらく死んでいた。
回復薬の使用まで生き永らえたのは、リディアの尽力によるところが大いにある。
「次、あんなことが有っても助けてやらないからな! なんていうかペリは、生に無頓着な気がして……心配だよ……」
生に無頓着。
そうかもしれない。
僕は死を恐れない。
いや、そんな格好の良い話ではない。
僕はいつまで経っても、危機感の薄い子供なのだ。
リディアは三人を警戒しているみたいだけど、そもそもアイリーン達は〝魔術師ギルド〟が派遣した吸血鬼対処の専門家らしく、その身分は明けていた。
敬遠したい気持ちはあるのだろうが、すぐに馴れるだろう。
そうして貰えると僕も嬉しい。
大切な人が大切な人と繋がりを持つのはとても心地のいいものだ。
帰宅すると母さんが駆け寄ってきた。
「どこ行ってたの!? 心配してたのよ!?」
「そ、そんなに騒がなくたって。僕はもう16歳だよ?」
「あなたの事じゃなくてサラよ。あのこはまだまだ子供なのよ? 朝帰りだなんてもっての他だわ!」
母さんはサラを溺愛している。
当たり前と言えば当たり前なのだけど、僕への対応と明らかに違うのは、どうなのかと思わなくも無いのだった。
まあ、しょうがないよね。
綺麗で優秀なサラと、働きもしないでふらふらしている僕とじゃ、期待値っていうのが違うもんだ。
それにしてもこの慌てようはどういうことだ?
もちろん僕はずっとリディアといたし、サラとは昨晩以来顔を合わせていない。
母さんはしばらく僕の背後に目をやるとこう聞いた。
「え、まさか……ペリドット、あなた一人なの?」
母さんの顔が瞬く間に歪む。
嫌な予感がした。
「そ、そんな。一緒だと思っていたのに……じゃあ、あのこはどこなの!?」
母さんの言っていることの理解ができなかった。
僕を掴んで揺さぶる母さんの表情が険しい。
爪が肩に刺さる。
あのこはどこなの、だって?
「母さん落ち着いて!! サラがどうしたって!?」
「あのこが、あのこが帰って来てないの!」
僕とリディアは街の仲間をかき集めた。
父さんは演習に出たばかりで連絡がとれない。
リディアは休暇中だったので演習には不参加だった。
そのおかげで僕は平静を保つことができたのだと思う。
僕たちは、街の仲間たちとアミット中の捜索にあたった。
「サラちゃんが行方不明だって?」
「協力させてくれ!」
それにしてもサラの人気はすごい。
街中の若者たちが捜索に協力してくれた。
でも僕たち素人が捜索できるのもせいぜい街の中だけ。
サラがもし攫われたとしたら、既に街の外に出ているのかもしれない。
そう考えると居ても立っても居られない。
サラを狙う輩は多い。
悪漢に連れさられているのかもしれない。
もし、奴隷小屋に売られでもしたら取り返しがつかない。
人間の少女は高値が付く。
しかも美人で、グリーンアイを持つ少女といったら価値は青天井だ。
労働力として取引される獣人と違って、人間の少女には娼婦や慰み者としての価値がつくらしい。
運よく貴族に買われても結末は一緒だ。
足が付かないように、ひょっとしたら遠方の貴族や資産家の元に売られているのかもしれない。
犯罪を犯してでも美しいサラを我が物にしたい変態野郎はたくさんいるのだ。
いや、しかし個人の犯行の可能性も十分ある。
可能性が多すぎて僕は混乱する。
ただ美しいというだけで、サラは犯罪に巻き込まれるのだ。
何の罪もないサラをは、今どこでどんな顔をしているのだろうか。
男性が近くに寄るだけで恐怖して泣き出しそうになるサラは、一体どんな目に合わされているのだろうか。
僕が目を離した隙に……アイリーンさんの邸宅ですやすやと眠っていた間に……
何をやっているんだ!
妹を守れなくて何が兄だ!
体の中心からドス黒いものが込み上げてくるのを感じる。
酷く喉が渇く。
「……殺してやる」
『だめ。落ち着くの』
あれ?
また知らない声が聞こえた?
女の子の声だったと思ったけれど……。
近くにいる女の子はリディアだけだし……リディアの声ではなかったよな?
空耳か?
そうだ。
少し落ち着かなければ。
サラ……
サラの笑顔が脳裏をよぎる。
いま失われつつある宝石の輝きを、僕は救うことができるのだろうか。
死にかけるわ、高級な回復薬で生き延びるわ、間近で魔術を体感できるわ、そして極めつけに守護精霊なんてのも貰ってしまうわ。
10年くらい駆け足で進んだような気分だ。
何より嬉しかったのはアイリーンという友人ができたこと。
それに、綺麗なお姉さんのアリスさんとも仲良くできたし、ロベルトさんは……ちょっと取っつきにくい感じはするけれど、真面目で頼れる人って感じだ。
いままでアミットでは同年代の友人はいたけれど、年齢の離れた人たちとの交流は余りなかったからな。
早くこの出来事をサラに話してあげたいな。
きっとサラもアイリーン達と会いたくなるだろうな。
「本当に大丈夫なのか?」
「心配しなくて大丈夫だよ。リディアのおかげで助かったよ。ありがとう」
「べ、別に……怪我人を介抱するのは当然なことだろう? それに回復薬のおかげだよ。あたしは結局なんにもしていない……」
「それは違うよ。リディアがいなければ出血多量で死んでいた」
そうだ。
あのときリディアの止血がなければ、僕はおそらく死んでいた。
回復薬の使用まで生き永らえたのは、リディアの尽力によるところが大いにある。
「次、あんなことが有っても助けてやらないからな! なんていうかペリは、生に無頓着な気がして……心配だよ……」
生に無頓着。
そうかもしれない。
僕は死を恐れない。
いや、そんな格好の良い話ではない。
僕はいつまで経っても、危機感の薄い子供なのだ。
リディアは三人を警戒しているみたいだけど、そもそもアイリーン達は〝魔術師ギルド〟が派遣した吸血鬼対処の専門家らしく、その身分は明けていた。
敬遠したい気持ちはあるのだろうが、すぐに馴れるだろう。
そうして貰えると僕も嬉しい。
大切な人が大切な人と繋がりを持つのはとても心地のいいものだ。
帰宅すると母さんが駆け寄ってきた。
「どこ行ってたの!? 心配してたのよ!?」
「そ、そんなに騒がなくたって。僕はもう16歳だよ?」
「あなたの事じゃなくてサラよ。あのこはまだまだ子供なのよ? 朝帰りだなんてもっての他だわ!」
母さんはサラを溺愛している。
当たり前と言えば当たり前なのだけど、僕への対応と明らかに違うのは、どうなのかと思わなくも無いのだった。
まあ、しょうがないよね。
綺麗で優秀なサラと、働きもしないでふらふらしている僕とじゃ、期待値っていうのが違うもんだ。
それにしてもこの慌てようはどういうことだ?
もちろん僕はずっとリディアといたし、サラとは昨晩以来顔を合わせていない。
母さんはしばらく僕の背後に目をやるとこう聞いた。
「え、まさか……ペリドット、あなた一人なの?」
母さんの顔が瞬く間に歪む。
嫌な予感がした。
「そ、そんな。一緒だと思っていたのに……じゃあ、あのこはどこなの!?」
母さんの言っていることの理解ができなかった。
僕を掴んで揺さぶる母さんの表情が険しい。
爪が肩に刺さる。
あのこはどこなの、だって?
「母さん落ち着いて!! サラがどうしたって!?」
「あのこが、あのこが帰って来てないの!」
僕とリディアは街の仲間をかき集めた。
父さんは演習に出たばかりで連絡がとれない。
リディアは休暇中だったので演習には不参加だった。
そのおかげで僕は平静を保つことができたのだと思う。
僕たちは、街の仲間たちとアミット中の捜索にあたった。
「サラちゃんが行方不明だって?」
「協力させてくれ!」
それにしてもサラの人気はすごい。
街中の若者たちが捜索に協力してくれた。
でも僕たち素人が捜索できるのもせいぜい街の中だけ。
サラがもし攫われたとしたら、既に街の外に出ているのかもしれない。
そう考えると居ても立っても居られない。
サラを狙う輩は多い。
悪漢に連れさられているのかもしれない。
もし、奴隷小屋に売られでもしたら取り返しがつかない。
人間の少女は高値が付く。
しかも美人で、グリーンアイを持つ少女といったら価値は青天井だ。
労働力として取引される獣人と違って、人間の少女には娼婦や慰み者としての価値がつくらしい。
運よく貴族に買われても結末は一緒だ。
足が付かないように、ひょっとしたら遠方の貴族や資産家の元に売られているのかもしれない。
犯罪を犯してでも美しいサラを我が物にしたい変態野郎はたくさんいるのだ。
いや、しかし個人の犯行の可能性も十分ある。
可能性が多すぎて僕は混乱する。
ただ美しいというだけで、サラは犯罪に巻き込まれるのだ。
何の罪もないサラをは、今どこでどんな顔をしているのだろうか。
男性が近くに寄るだけで恐怖して泣き出しそうになるサラは、一体どんな目に合わされているのだろうか。
僕が目を離した隙に……アイリーンさんの邸宅ですやすやと眠っていた間に……
何をやっているんだ!
妹を守れなくて何が兄だ!
体の中心からドス黒いものが込み上げてくるのを感じる。
酷く喉が渇く。
「……殺してやる」
『だめ。落ち着くの』
あれ?
また知らない声が聞こえた?
女の子の声だったと思ったけれど……。
近くにいる女の子はリディアだけだし……リディアの声ではなかったよな?
空耳か?
そうだ。
少し落ち着かなければ。
サラ……
サラの笑顔が脳裏をよぎる。
いま失われつつある宝石の輝きを、僕は救うことができるのだろうか。
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