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第1章 ラスラ領 アミット編
15 危険な男
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___ぴたっ……ぴたっ……ぴたっ……
一定の間隔で水が落ちる音。
まるで、締め忘れた蛇口から波紋を作るように落ちるそれは、僕のぼんやりとした意識の水面に小石を投じるかのように、深い眠りの牢獄から僕の意識を覚醒させた。
ここは……?
そうか、僕は誰かから殴られて……
棒切れ? いや、視界の隅で一瞬見えたあれは、鈍器のようなものだった……
い、痛たたた……
頭部を触ると大きなコブができている。
そして生暖かい血液が手のひらにべっとりと纏わりついた。
だが、流血はそれほど多くは無さそうだ。
布切れで直接的に圧迫止血をする。
よっと。
僕は身体を起こし、壁に寄り掛かる。
酷い疲労感と頭痛だ。
でも意外なことに視界は冴えている。
ここは……?
気絶する直前に壁に塗られていた血文字が無い。
そうか、気絶している間に僕は別の場所に運ばれたのか……
だとすると敵はまだ近くに?
耳をすまして目を凝らす。
辺りに人影はない。
僕を攻撃したのは誰なんだ?
屋敷の中にはやはり人が隠れていたのだ。
しかし、なぜ僕を殴られなければならなかったんだ?
答えは単純だ。
ここの者は何かを隠しているからだ。
見られたくないものを見られてしまったのだろう。
だとすると〝たすけて〟の血文字の意味は大きい。
何を隠している?
一体何を?
その問いに対する答えはいくつかある。
だが一つ確実なのは、それが犯罪に関することだということだ。
つまり、ここにサラが囚われている。
その可能性は俄然高くなっていた。
そうと解かれば、早くここから逃げ出してみんなと合流しよう。
悔しいが、僕の力だけじゃサラを救うことは難しい。
そう思い立った矢先だった。
僕は鉄格子を隔てた先にある人影を見たのだった。
人影は、僕と近い年齢の若者だった。
耳にはピアス、手首や指にもアクセサリーが飾られ、動くたびにチャラチャラと音がした。
その男の右手には石切りの工具が握られていた。
「どうして、ここに……?」
僕はその男性のことを知っている。
「ジョズさん……?」
ジョズ・ミールズ。
石切り場の従業員で僕の教育係だった男だ。
ジョズさんはゆっくりと鉄格子に触れると、僕の表情を隙間から覗くように確認した。
「ほう。生きてたか。てっきり殺しちまったかと思っていたが、案外タフなんだな。ペリドット」
「……まさか、ジョズさんが僕を……?」
「あ? ああそうだよ」
ジョズさんはタバコに火を付ける。
甘ったるい煙があたりに広がった。
「俺も悪気が有る訳じゃないんだぜ? だがよ、報酬が出るって言われちゃあ断る理由はないよな?」
「な、何の話をしているんですか? 報酬? 誰から雇われているんですか? どんな仕事を?」
「おいおい、一気にたくさん質問してんじゃねぇよ。一つにしてくれよ。ムカつくよなぁ」
……ぺッ。
ジョズは唾を吐いた。
あの日の優しい先輩の姿は無い。
あるのは気怠く無気力で暴力的な若者の姿だ。
彼は大きくタバコを吸うと一気に吐き出し言った。
「……まあいいや。お前の妹を攫って来たのは俺だ。仕事だからなー、まあ仕方がないよな?」
「仕方がないだと!? サラを返せ!!」
「なんだお前、急に吠えやがってうるせぇなぁ。黙らねぇと今度は殺しちまうぞ?」
あんなに面倒見が良くて親切だったジョズさんはもういなかった。
そこにはただ憎むべき相手がいるだけだった。
「仲間なら来ねぇぞ。ここは屋敷の地下じゃねぇからな。ここは秘密の通路の先にある地下組織だ。
あの牢屋から地下道で繋がってるんだが、まあ素人にはどうしても見つけられねぇだろうな」
その時、小柄な男と大柄な男が現れた。
対象的な男をたちは、無遠慮に接近してくる。
小柄な方が話しづらそうに声を発する。
「……出番だ。へへへ」
現れた二人は異様だった。
普段から安全に守られた僕たちの生活とはかけ離れた場所……地下で生きているような性質をもった男達だった。
抗えなかった。
僕はされるがまま袋を頭に被せられ、両手を縛られたまま歩かされた。
僕の腰には短剣。
こいつらは短剣程度の危険性などは計算に入れていないようだった。
くぐった死線が違う___
そう言い出しそうな威圧感。
その道のプロだ。
死の恐怖。
それをありありと目の当たりにしていた。
しばらく歩かされると、前方から歓声が聞こえ、袋越しに光を感じる。
それは進むにつれ大きさを増し、まるで闘牛場に向かう雄牛のように、欲望にまみれた期待と怒号を感じるのだった。
「ど、どこに連れて行くんだ? 僕をどうするつもりだ!」
「へへへ。まあまあ緊張しなさんな。あんた二級剣士なんだろ? 中途半端に強い奴は消費されていく時代さね」
「どうして知ってるんだ!? クソッ、離せ!」
その時、みぞおちの辺りに鈍痛が走る。
「ゲホッ……」
どうやら殴られたらしい。
視界を塞がれての攻撃は精神的にも来るものがある。
「ふん。ギャアギャア騒ぐなよ。今夜お前は英雄に成れるかもしれないんだぜ?
お前に恨みはねぇけどよ。
人助けだと思ってくれや。
まあ、せいぜい楽しませてくれよ? ペリドット」
一定の間隔で水が落ちる音。
まるで、締め忘れた蛇口から波紋を作るように落ちるそれは、僕のぼんやりとした意識の水面に小石を投じるかのように、深い眠りの牢獄から僕の意識を覚醒させた。
ここは……?
そうか、僕は誰かから殴られて……
棒切れ? いや、視界の隅で一瞬見えたあれは、鈍器のようなものだった……
い、痛たたた……
頭部を触ると大きなコブができている。
そして生暖かい血液が手のひらにべっとりと纏わりついた。
だが、流血はそれほど多くは無さそうだ。
布切れで直接的に圧迫止血をする。
よっと。
僕は身体を起こし、壁に寄り掛かる。
酷い疲労感と頭痛だ。
でも意外なことに視界は冴えている。
ここは……?
気絶する直前に壁に塗られていた血文字が無い。
そうか、気絶している間に僕は別の場所に運ばれたのか……
だとすると敵はまだ近くに?
耳をすまして目を凝らす。
辺りに人影はない。
僕を攻撃したのは誰なんだ?
屋敷の中にはやはり人が隠れていたのだ。
しかし、なぜ僕を殴られなければならなかったんだ?
答えは単純だ。
ここの者は何かを隠しているからだ。
見られたくないものを見られてしまったのだろう。
だとすると〝たすけて〟の血文字の意味は大きい。
何を隠している?
一体何を?
その問いに対する答えはいくつかある。
だが一つ確実なのは、それが犯罪に関することだということだ。
つまり、ここにサラが囚われている。
その可能性は俄然高くなっていた。
そうと解かれば、早くここから逃げ出してみんなと合流しよう。
悔しいが、僕の力だけじゃサラを救うことは難しい。
そう思い立った矢先だった。
僕は鉄格子を隔てた先にある人影を見たのだった。
人影は、僕と近い年齢の若者だった。
耳にはピアス、手首や指にもアクセサリーが飾られ、動くたびにチャラチャラと音がした。
その男の右手には石切りの工具が握られていた。
「どうして、ここに……?」
僕はその男性のことを知っている。
「ジョズさん……?」
ジョズ・ミールズ。
石切り場の従業員で僕の教育係だった男だ。
ジョズさんはゆっくりと鉄格子に触れると、僕の表情を隙間から覗くように確認した。
「ほう。生きてたか。てっきり殺しちまったかと思っていたが、案外タフなんだな。ペリドット」
「……まさか、ジョズさんが僕を……?」
「あ? ああそうだよ」
ジョズさんはタバコに火を付ける。
甘ったるい煙があたりに広がった。
「俺も悪気が有る訳じゃないんだぜ? だがよ、報酬が出るって言われちゃあ断る理由はないよな?」
「な、何の話をしているんですか? 報酬? 誰から雇われているんですか? どんな仕事を?」
「おいおい、一気にたくさん質問してんじゃねぇよ。一つにしてくれよ。ムカつくよなぁ」
……ぺッ。
ジョズは唾を吐いた。
あの日の優しい先輩の姿は無い。
あるのは気怠く無気力で暴力的な若者の姿だ。
彼は大きくタバコを吸うと一気に吐き出し言った。
「……まあいいや。お前の妹を攫って来たのは俺だ。仕事だからなー、まあ仕方がないよな?」
「仕方がないだと!? サラを返せ!!」
「なんだお前、急に吠えやがってうるせぇなぁ。黙らねぇと今度は殺しちまうぞ?」
あんなに面倒見が良くて親切だったジョズさんはもういなかった。
そこにはただ憎むべき相手がいるだけだった。
「仲間なら来ねぇぞ。ここは屋敷の地下じゃねぇからな。ここは秘密の通路の先にある地下組織だ。
あの牢屋から地下道で繋がってるんだが、まあ素人にはどうしても見つけられねぇだろうな」
その時、小柄な男と大柄な男が現れた。
対象的な男をたちは、無遠慮に接近してくる。
小柄な方が話しづらそうに声を発する。
「……出番だ。へへへ」
現れた二人は異様だった。
普段から安全に守られた僕たちの生活とはかけ離れた場所……地下で生きているような性質をもった男達だった。
抗えなかった。
僕はされるがまま袋を頭に被せられ、両手を縛られたまま歩かされた。
僕の腰には短剣。
こいつらは短剣程度の危険性などは計算に入れていないようだった。
くぐった死線が違う___
そう言い出しそうな威圧感。
その道のプロだ。
死の恐怖。
それをありありと目の当たりにしていた。
しばらく歩かされると、前方から歓声が聞こえ、袋越しに光を感じる。
それは進むにつれ大きさを増し、まるで闘牛場に向かう雄牛のように、欲望にまみれた期待と怒号を感じるのだった。
「ど、どこに連れて行くんだ? 僕をどうするつもりだ!」
「へへへ。まあまあ緊張しなさんな。あんた二級剣士なんだろ? 中途半端に強い奴は消費されていく時代さね」
「どうして知ってるんだ!? クソッ、離せ!」
その時、みぞおちの辺りに鈍痛が走る。
「ゲホッ……」
どうやら殴られたらしい。
視界を塞がれての攻撃は精神的にも来るものがある。
「ふん。ギャアギャア騒ぐなよ。今夜お前は英雄に成れるかもしれないんだぜ?
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人助けだと思ってくれや。
まあ、せいぜい楽しませてくれよ? ペリドット」
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