闇堕ちヒロインと呪われた吸血鬼は至極平凡な夢を見る〜吸血鬼になった僕が彼女を食べるまで〜

手塚ブラボー

文字の大きさ
37 / 53
第1章 ラスラ領 アミット編

36 セブの場合②

しおりを挟む
 セブは奮闘した。
 冒険者としての意地を見せたのだ。

 奮闘の末、なんとか一角獣ユニコーンを打ち負かした。

 低級だが、セブは冒険者としてのキャリアを着々と積んでいたのだ。
 例え大きな角をしていたとしても、仲間の腹を突き刺していたとしても、セブは恐れなどしていなかった。
 それは仲間を守ろうとするセブの優しい性格の現れだったのかもしれない。

 一角獣ユニコーンは派手な音を立てて倒れると目の光を失い絶命した。
 彼もまた、自然に還るのだろう。
 さあ、これで終わりだ。


 セブは、ミネラの力なくうなだれたその重い体を、引きずるように抱かかえた。
 早急にミネラを連れ帰ろう。

 何とかなった。
 よかった……何とかなったのだ。



 だが、セブは甘かった。

 一角獣ユニコーンは群れで行動する魔獣である。
 一介の冒険者なら、一頭の一角獣ユニコーンを見つけたならば、群れの存在を警戒するだろう。

 しかしながら、ぎりぎりの状態の中、辛くも勝利した事への安堵感に油断をしていたセブは、いつの間にか大勢の一角獣ユニコーンの群れに取り囲まれてしまっていたのだった。

 その数、約10頭。
 異常な数だった。
 恐怖。

 セブは押し寄せてくる白い鉄壁のような圧力と、長く尖った角への恐怖に呆然とするしか術を持たなかった。


 ______どうやっても、俺一人の手には負えない


 ”いつか、俺はドラゴンを倒す”

 そんなのは、夢のなかの更に夢物語だったんだ___

 俺はこうやって死んでいくのか。
 つまらない人生だった。
 去勢と落胆の繰り返しのような、それだけの人生だった。
 ドラゴンを倒す?

 バカバカしい。

 そんな事ができるやつは、幼い頃からどこか違ったやつだ。
 天才というやつだ。
 俺はそういうやつとは違った。
 そういうやつでは無かったんだ。
 生まれつきに決まっていたんだ。

 俺が何になりたくたって、どんなに強くなりたくたって、そんなことは始めから決められていたのだ。

 誰が決めた?
 神か?

 誰でもいい。
 俺の人生なんてものは、誰かに操作された出来損ないの作り物だ。

 もういいや______



 己の人生を諦めかけたその時、正面の一頭がのが見えた。

「!!!?」

 その様子に驚き、言葉も出ないセブ。
 それを皮切りに、周囲の一角獣ユニコーン達も次々と血を吹きだし倒れてゆく。

 鮮血が飛散する木々の間に、飛ぶように走る人影が見えた。

 ______それは、たった一人の少女だった。

 肩の上で切り揃えられた赤い髪が、体の動きを追いかけるように揺れ、健康的で美しい顔面に鮮血を浴びてもなお、少女は攻撃の手を緩めない。
 空を舞うかのような躍動感とスピード。
 飛び散る赤い血は花弁のように舞う。
 彼女と花弁のコントラストの美しさは、呆然としたセブの心に深く焼き付いた。

 少女は瞬く間にすべての一角獣ユニコーンを、一頭残らず斬り倒す。
 血の匂いが辺りに充満していた。

『さあ立って! 早く医療班に連れて行くよ! あなたは……大丈夫そうだね! 手伝って!』

 血まみれの少女はセブにそう告げると、名乗りもせずにミネラの左肩を抱え上げた。

「あなたはそっち!」
「あっ、ああ」

 セブは右肩を持ち上げて彼女に従った。

 少女とセブが並ぶとセブの方が身長は高く、なぜだか情けなく感じるのだった。


 少女はアミットにあるラスラ騎士団の団員だった。
 ラスラ騎士団だ。
 なるほど。
 この強さも頷ける。

 リディアと名乗ったこの少女は、セブよりも2つも若かった。

 リディア達は魔獣の異常発生の調査でこの森に来ていたらしい。
 詳しくは極秘任務だと明かしてはくれなかったが、そんなことはセブにはどうだってよかった。

 少女は気さくで強くて美しかった。
 対するセブは弱くて間抜けだ。

 医療班のテキパキとした施術に感心しながら、セブはリディアと他愛もない会話を交わす。
 先ほどまで、魔獣の群れを相手に立ち振る舞っていたとは思えないほどに、リディアはごく普通の女の子だった。
 返り血でまみれ、狂暴に見えなくもない顔を拭くと、美しい顔が覗いた。

 ミネラは医療班の回復薬によって一命をとりとめた。
 安心した。
 ミネラの家族に、悪い説明をしなくて済むという現状が単純に嬉しい。

 施術の終了を確認すると、リディア達は早々に森を立ち去った。


 目覚めたミネラを負ぶって町に戻る途中、セブは言いようのない喪失感を味わった。
 あの美しく強い女の子を失ったような気分になる。
 いいや、そんなのは錯覚だ。
 なにせ彼女はセブとは違う世界の住人だったのだ。

 諦めたくない。
 俺は……

 ”強くなって、いつか彼女の隣が似合う、そんな剣士になるんだ”
 セブの目標は簡単に塗り替えられた。
 それは彼にとって重要な指標となる。

 言い訳もできない程に、セブは恋に落ちていたのだ。






 ______そして試験当日。

 都会の喧騒。
 人が多い。
 お祭り騒ぎか? 
 暢気なもんだ。


 ___見つけた。

 すぐにわかった。

 あの日の少女だ。
 あの日の、美しく強い俺の女神だ。

 アミットにいるとは思っていたが、こんなに早く見つけられるとは!

 あの日のお礼を……



 試験会場でリディアを遠くに見つけたセブは、駆け寄ろうと思ったが、隣に立つ男の存在に気が付き立ち止まる。

 その男は慣れ慣れしくもリディアと寄り添って歩いていた。
 そして隣を歩くリディアの表情……

 そうか……

 彼女はきっとあの男のことが好きなのだ。
 もしかしたら両思いなのかもしれない。

 俺はピエロだ。
 そんなことも知らずに、彼女を追いかけてきてしまった。

 


「あの男……許せない……」

 怒りの矛先は隣の男に向いていた。



 辛くも試験を突破したセブは、ラスラ騎士団への入団を許された。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

処理中です...