その声が聞きたい

午後野つばな

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 びゅうびゅうと窓の外で風が唸っている。ガラス窓はガタガタと音をたて、まだ降り出していない雨は、嵐の前の静けさといった感じだ。白いふわふわの妖怪はベッドの下に潜り込んでその姿はさっきから見えない。さとりは不安な面もちで、窓の外を眺めた。
 数十年に一度の大型台風は四国に上陸し、巨大な勢力を維持したまま、今夜未明から明朝にかけて西日本から東日本を北上するとみられている。
「ほ、ほんとうにこの中をいくの?」
 いつもより早く家を出る準備をしていたそうすけは、心配するさとりに嫌な顔ひとつせず、
「タクシーを呼んであるから大丈夫だよ。まだ雨も降っていないし。それよりもさとりのほうこそ、ひとりで大丈夫か?」
 と訊ねた。
「お、おいらは大丈夫。大丈夫だけど……」
 台風はこれまで何度だって経験している。けれど、こんなに不安な気持ちになるのは初めてだった。さっきからそわそわして落ち着かず、そうすけをひとりでいかせてはいけないという、胸騒ぎがする。
「お、お仕事、どうしてもお休みしちゃいけないの?」
 珍しく聞き分けの悪いさとりに、そうすけはおや、という顔になった。
『さとりがこんなに我が儘を言うなんて珍しいな。そんなに台風が怖いのか?』
 さとりはかあっと赤くなった。胸騒ぎがするからと言っても、信じてもらえるはずはない。さとり自身、うまくこの気持ちを説明できないのだ。
「仕事は休めないけど、ちゃんと留守番をしていたら、次の休み、ご褒美にアイスクリームを食べにいこう」
 まるで小さな子どもにするみたいに、髪をくしゃっと撫でられて、さとりは黙った。
「じゃあいってくるな」
 パタン、と玄関のドアが閉まる。そうすけが出ていって少したつと、さとりは買い物用に渡されていた財布を手に、彼の後を追って部屋を出た。
 暗い空に、不気味な雲が渦を巻く。ぶんっ、と強風がさとりの前髪を上げたと共に、ひどく気持ちの悪い生ぬるい風が肌を撫でた。
 さとりがマンションのロビーを出たところで、そうすけがタクシーに乗り込むのが見えた。さとりはきょろきょろとあたりを見回した。ちょうどよいタイミングで空車がきたので、手を広げて止まってもらう。
「あ、あの、すみません、乗せてください」
『きょうはもう店仕舞いにするつもりだったんだが』
 中年の男の運転手はさとりを見て気が乗らない表情を浮かべたが、それでも渋々後部座席のドアを開けてくれた。
「お客さん、どこまでいくんですか?」
『近くならいいんだが』
「ま、前の車についていってください」
「はあ?」
『前の車を追えだって? 何かドラマの見すぎじゃないのか。あ~、ほんとについてないな。なんかヤバいことに巻き込まれないだろうなあ?』
「あ、あの、怪しいものじゃないです。えっとその、前の車に乗った人にちょっと用があって……」
 必死に言い訳すればするほど、ますます怪しくなることにさとりは気づいてはいない。しまいには運転手は沈黙すると、面倒なことに巻き込まれる前にとっとと下ろしてしまおうと、車を発車させてくれた。
『あーあ。ほんと勘弁してくれよなあ。ついてねえなあ……』
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